第2章-6 初めての求婚(嘘)

 応接室ぽい部屋に案内されメイド長がお茶を持ってきたところで迅さんから切り込む。


「バリスタを10台用意してます。こちらが望むのはノルマンディ領の北東部です」


 この北東部にミスリル鉱山や魔鉱山など多くの鉱山が連なる連峰と大規模な農地がある。ノルマンディ領の生産の要でる。


「無理だな。北東農地の半分でバリツタ20台」

 鉱山が欲しいことをわかっててあえて農地にしてきたのだろう。流石。


「我々に農地は不要だ。クオイツに実験農場を所有している」


 サクラサケでは生産目的以外にも実験の為の農地を運営している。鉱山が欲しいと言わずに、農地は既に持っていると言うことで鉱山の方向に持っていく。俺にはできない。


「バリッタ50台とその訓練、定期的な修理で好きな鉱山を1つ譲ろう」


 最初の5倍要求してくるとは。訓練とメンテナンスでまた何か引き出すつもりだったので上手をとられた感がある。

 だが好きな鉱山ということはミスリルよりよっぽど貴重なオリハルコンの鉱山でもいいという事だろう。迅さんならこっちを選ぶかな。



 迅さんは迷っている。演技か本物かよくわからないが。


「それでいいでしょう」


 迅さんとグラフルが立つ。俺も少し遅れて立ってグラフルと握手を交わす。


握手を交わしたとてこれで直ぐに終わるわけでない。バリスタの搬入日や訓練の日程、どの鉱山にするか、いつからサクラサケが管理するのか。今鉱山で働いている人をどうするのか。しばらくは口を閉ざして見ている。


迅さんとグラフルはまだ気を抜かずに交渉を続けている。正直暇。



眠気と戦うこと1時間ようやく内容が決まったようだ。2人で羊皮紙に書いた内容をチェックする。穴や解釈に相違が生まれると大損をすることがあるのでこれにも凄く時間をかける。


チェックが済んだら互いにサインと拇印を押す。

同じものを2つ作成してやっと終わった。関係ないけど俺にこの仕事は無理だと思う。

迅さんとグラフルがまあ握手を交わした所でバトンタッチ。



「実は僕もお願いがあってまいりました」

 「僕」とか「まいりました」とか普段使わない言葉に緊張する。


 グラフルは和らいだ表情を一瞬で戦闘モードに持っていく。商売というか交渉事する人ってすごい。


「あなたの奴隷であるラン達3姉妹を売ってください」

 ちょっと早口になった気がする。めっちゃ緊張していてお腹痛い気がする。


「理由を聞いてもいいかな」

 これはもう準備済みの質問だ。


「惚れました」



 もちろん嘘なんだがこれが一番手っ取り早いし緊張のいいわけにもなると考えていた。

迅さんがフッ、と軽く笑ったことで場の緊張が和らぐ。

 グラフルもいい感じに穏やかな顔になる。


「そうか、惚れた、と。あなたは何をだせるのかね」

 俺が独断で技術やモノを天秤に乗せることはできない。


「お金しか出せません。3人で金貨500枚で売ってくれませんか」


 迅さんと相談した値段が金貨1000枚という額だ。

 人の奴隷は獣人に比べて高いが年齢や栄養状態の悪さからすると妥当な値段だと思われる。最初は500枚を提示して1000枚までに抑えたい。


「少ないな。人の女の奴隷は1人で金貨4,500枚程度が一般的だろうに。1400枚」

 一番値が張るのは15~20歳くらいの女性で4、500枚くらいだ。姉はまだしもロリやシオンにそんな値はつかない。


「リロやシオンは年齢的にもそんなに価値はないでしょう。600枚」


「あなたは惚れておるのだろう?価値を下げるようなことを言っていいのか?1300枚」

 うまいこと言われた。何て返せばいいんだろう。


「まぁ娘を嫁に出すと思って祝ってくれませんか」

 迷ってたら迅さんが助太刀をしてくれた。


「奴隷にそんな感情を入れとれんわ。1300枚」

 何かよくないことに触れたようで怒っているような強い口調だ。


「無い袖は振れないのですよ。800枚でお願いします」

 怒りに気がついていない口調を保ちながらも一気に値段を吊り上げる。この200枚上げはごめんなさいの意味を含んでいる。


「1100枚。これでいいだろ」


 ここからあと100枚は安くはなるだろうがそれ以上に印象を悪くしそうなので

「それでお願いします」

 と、立って握手を求める。


 金貨1100枚は高いとは言え先ほどの鉱山ほどではないので握手で終わり。

 今、手付金で金貨100枚を出して明後日のバリスタの搬入の際にあと1000枚を持ってくる約束になった。3姉妹は今くれる。先に姉妹をくれるあたりにサクラサケの信用の高さと奴隷の売買の重要性の低さが感じられる。



 なにはともあれ売買契約は成立した。金貨1100枚は大金だがサクラサケのお金は使いたい放題なので屁でもない。お金で買えることが決まった時点で俺の勝ちだ。


 握手をしてからものの5分で3姉妹が連れてこられた。手を縄で縛られて。

 不愉快極まりないもののそれを顔に出してはならない。奴隷紋の書き換えができるのは王族が管理している奴隷商のみだ。奴隷商に運ぶまでは俺の奴隷紋で無いため、配慮をしてくれているのだ。いらぬ配慮だが。


 金貨100枚を渡すときになって初めて気がついた。金塊、使わなかった。


 グラフルからこの3人を俺に譲るという旨を記した羊皮紙をもらう。金貨の契約書はいらないというので俺はなにも書いてないが。



 3姉妹をほぼ予定通りに確保したのに少しだけむしゃくしゃした。

 次ここに訪れるのは明後日、金貨1000枚をもってだ。

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