第1章-3 餌付けと魔法

 適当に取り繕ってベッドの上でゴロゴロしてたら、姉が「食事の時間です」と呼んでくれた。

 学ランを羽織って案内される。この子達の体型を考えると、まともなものは期待できなそうだ。


 案内された先はダイニングルーム、10mもあろうかという大きな長テーブルにロウソクが、燭台が飾られている。歴史の教科書で見たことがあるような光景だ。

 当主と女性が先にテーブルについていた。女性はドレスを着ている。当主の奥さんとみた。


「私はグラフルの妻、メディーと申します。よろしくお願いしますね、ユウさん」


 優雅な挨拶だ。こちらこそよろしくお願いします。と返事して座る。

 この奥さん4、50歳くらいだろうか。少しふっくらしているが、美人で気品が感じられる。




 食事は十分な量が出された。パンが主食で魚が主菜のコース料理だ。デザートにりんごまでついていた。パンは大きくてティッシュ箱位ある。

 食事の間は、奥さんが俺にいろんな質問をして、それに答える形の尋問に近い会話をした。内容は覚えてない。

 パンは一人3つ付いていた。俺は夜食にと、2つバスケットに入れてもらっておいた。もちろんあの姉妹にと、思ってだ。




 美味しくも、緊張する食事を済ませたらまた部屋に戻る。

 姉妹も部屋に居て、端っこで立っているので声をかける。事務的な内容以外に、こっちから話しかけるのは勇気がいる。


「ちょっと話を聞きたいんだけどいいかな?」


 相手は、年齢的には子供ではないけど、見た目からこんな話し方になってしまった。

 姉妹はお互いに目配せをして、やはり姉の方が「なんでしょう」と返事をしてくれた。


「君たちってどのくらいここにいるの?」


「5年ほど前に私たちは姉妹で買っていただきました」


 うーわ、買っただって。

 勤めてる、とかじゃなくて買われたっていったよ。奴隷じゃん。

 この辺の話をすると暗くなりそうなので話題を変える。


「この国ってどのへんにあるのかな?」


 せめてアジアにあってくれ。


「どこに、と言われましても……隣国にはクオリの国とハイツの国があります。あとは魔境や海と接していると聞いたことがあります」


 うん。海に接してる、以外何言ってるのかわからん。

 よく考えたら5年前って姉の方でも12歳か、壮絶な体験だな。うん。


「じゃあ俺がこのあとどうされるかってわかる?」


 これが一番大事なことだ。この子たちと同じようなのだろうか。


「はい、明日には地球人様達の集いである、サクラサケに送らせてもらいます。その後はおそらく、サクラサケに属するのではないでしょうか」


 めっちゃ日本人っぽい団体だな。怪しいっていうかなんというか。


 んー会話がしたかったんだけどなんか尋問みたいで嫌だなぁ。


…………


 向かい合っての沈黙が苦しい。

 つらい。なにか話さないと。


「あー、そういえばこれ、お礼ね。2人で食べて」


 バゲットごと近くにいる姉に渡そうとしたが、受け取ってもらえない。

 早くもらってくれないと恥ずかしいんだけど。


「申し訳ありません。ご迷惑をおかけするわけには、」


 やんわりと断られる。でも、一度出した手を引っ込めるって恥ずかしい。


「迷惑じゃないんだけど、、もらっちゃいけないルールとかあるん?」


 正直、このパンをもらってくれないと一晩で食べれるもんじゃない。裸だと


「いえ、規則ではないのですが……ご迷惑をお掛けするわけには」


 やべ、また断られてやんの。このパンどうするよ、マジで。


「そ、そんな顔をしないでください。いただきます」


 もらってくれた。そんなに顔に出てたのかよ、俺。


「あ、ありがと」


 まーた、気まずい空気が流れる。もう俺から話しづらいし、姉は目の前におるし、妹もこっち見てるし。


「あ、あの!」ロリが大きい声をだした。


 姉の方がコラッ、と睨むがロリは続ける。


「そのパンは私たちの自由にしていいのですか」


 食べる、以外に何かに使うのだろうか。


 もちろん「どうぞ自由にしてください」と答える。が、気になるので理由を聞いてみた。



「妹に、食べさせてあげたくて」


 俺が「2人で食べて」と言ったから、わざわざこんな事を聞くのか。律儀というか何というか。


「妹さんは何歳?」


「先日8歳になりました。本当にありがとうございます」


 また姉に変わった。そして深くお辞儀をした。たかだかこんな事で。


「いやいや、いい話聞かせてもらったし」


 ロリの方がさっきからパンをチラチラ見てる。早く食べたいのと、妹に早く食べさせたいのだろう。


「じゃあ自分はそろそろ寝るんで今日はありがと」


「では、お着替えを用意します」




 ロリが走って部屋を出ていった。

 着替えを持ってきてくれるみたいだから、風呂に入りたいが、この姉妹には早くゆっくりして欲しい。

 ベッド横の俺のカバンから汗ふきシートをとりだす。


「あの、何をなさってるのですか?」


 だいぶ優しい声音になってきた気がする。


「あー、着替え前に体拭いておこうと思ってね」


「ユウ様は浄化が使えないのですか」


 ちょっと何を言ってるかわからないです。


「このような魔法です」


 そう言うと姉は、俺に手を向けて何かをした。

 何かというか手が光り、それを俺の方へ向けると、手の向いているところが綺麗になった。

 その部分だけ石鹸で洗ったあとみたいな感じだ。



「す、すごいね。これってみんな使えるのかな」


「人間族なら全員使えるはずです」


 あーだからトイレに手洗いがないのね。トイレットペーパーがないのもこれがあるからか。


「ごめんけどもう少しだけ話きいてもいいかな」


 もちろんですとの返答があった。



 聞くことがたくさん増えてしまった。

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