やがて増えゆく吸血鬼

kirillovlov

第1話 記者の見た紛争 -吸血鬼のはびこる地-

「記者の見た紛争 〜第5回 吸血鬼のはびこる地〜」


吸血鬼は夜の闇を徘徊し、人間を狩ることで恐れられている。性質は残忍そのもので、まるで猫が鼠をいたぶるように人間を恐怖と絶望の底に突き落とした後に息の根をとめる。姿形は人間と同じだが彼らは容赦しない。まさに、人間のもつ残忍さや残酷性がそのままむき出しなったかのようだ。


吸血鬼は人間と血液の交換をすることで、襲った相手を同じ吸血鬼にすることがある。「眷属に迎える」と呼ぶその行為だが、人間を吸血鬼化させる仕組みについては、未だ解明されていない。


どういった理由で特定の人間を眷属として迎えるのか。なぜ血の交換をするだけで、人間をはるかに凌駕する存在に変えられるのか。多くの学者やハンターがその謎に迫ろうとしたが、怪力と呪法を身につけた吸血鬼の捕獲は困難を極め、この分野の研究は未だ霧がかかったままだ。


吸血鬼の生態に変化が起きているも特徴的だ。10年前はその存在すら稀有で、伝説として語り継がれた吸血鬼が、今では群れを成して人間を襲うようになっている。頭脳と力のあるリーダーが集団を形成し、統率のとれた組織を築いているケースもある。


吸血鬼が紛争につながっているケースもある。古典の時代より大陸に王国を築き、最盛期は過ぎたといえ栄華の名残りを誇りとして、世界に名を知らしめるキルトリア。


この国は今、世界に類をみないほどの吸血鬼問題に直面している。特に、西部キルトリア地方は被害が深刻だ。海に面した東部と比べ、深い森に閉ざされた西部は、外部からの人口流入出が少ない。地理的な特性が土壌になり、どこからか発生した吸血鬼の一族によって、西部は吸血鬼の温床となった。その後も被害は拡大している。


討伐の命を受けた騎士団が設けられ、組織的に吸血鬼討伐が行われているが、西部の深い森は既に吸血鬼の巣窟となっていて、武勇を讃えた騎士団も苦戦を強いられている。更に、キルトリアの吸血鬼を統治すると言われる王が不在になったことで、吸血鬼は主流派と武闘派で真っ二つに別れ武力衝突へと発展した。こうして騎士団の介入もむなしく状況は泥沼化し、キルトリアは文字通りの紛争地帯と化している。」


帝都新聞 10月30日 夕刊

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