第25話

 さーて、いっちょやったりますかー。


 まずは目立たなけりゃな。

 ちょっと派手なやつやるか…


 相手のボランチは身長が低くあまり運動が得意ではないようだ。ただしディフェンスはそこそこ粒ぞろいでボランチを抜いてもそう簡単にはシュートまで行けそうにない。


 アレがもってこいだな。



 こちらのサイドハーフの横溝君にボールが渡る。彼はさっきまで俺が今いるトップ下でプレーしていた。ドリブルは上手いのだが無理に突破しようとしてディフェンスにつかまっていた。


 サイドならスペースのある縦へのドリブルが活きる。

 パスを受けた横溝君はそのままドリブルで上がっていく。そのまま任せてもサイドをえぐるのはそんなにむずかしいことではないだろう。


 よし、マーク(相手のボランチ)はついてくる。パスをもらいに下がると相手のボランチがついてくるので相手ディフェンスの前にスペースが生まれる。あとはマークにくる彼との間合いが少し取れればいい。

 


 パンパンと手を叩き合図を送る。

「こっち」

 横溝君からのパスがくる。

 パス遅いな…これならトラップ入れずにそのままいけるか…


 首を振り相手の位置を確認すると思ったより距離が詰まっていた。頃合いだな。


 俺は相手ゴールに背を向けたままトラップはせず来たパスを後ろに下がりながら左足で膝よりも少し上へと浮かせた。

 実践で使うのは初めてだ。というかそもそも試合で使えるようなものではない。

 浮いたボールの位置を確認して体を左に回転させ前を向く。その際に前を向きながら右足のヒールでボールを相手のゴールの方へ少し強めに蹴り上げマークとディフェンスの間に頭上を通し落とす。

 マークを置き去りうまく抜けた。プレスの早い試合じゃ絶対使えないけどね。


 華麗に抜き去り歓声が上がる。


 このまま突っ掛けても俺じゃ止められちゃうか…

 パスコースを探しているとふと気づく。



 …アレ?打てるんじゃない?

 プレスが遅くコースもガラ空きだ。距離はあるが余裕もある。

 相手のディフェンスは俺にシュートの選択肢がないと思っているのだろう。


 俺の中でシュート以外の選択肢が消える。途端に熱い何かが込み上げてきた。アドレナリンってやつかな。心臓が勢いよく血を巡らせようと騒いでいる。ドキドキというかワクワクする。

 左胸の心臓があると思われる部分を掌でトントンと軽く叩き落ち着け、冷静にいけよと自分を鼓舞した。


 ニア側にシュートフェイントをひとつ入れる。ディフェンスはビビりこちらに背を向けシュートを背中で受けようとする。逆にちょんと蹴り、洋介と同じようにワンステップでシュートを打てる位置にボールを置いた。

 それほどシュートは上手くない。だからこそ慎重に、丁寧に蹴り込む。


 体をボールに被せるようにしてあまりボールが浮かないように意識する。


 左手を上げ、軸足を踏み込む。


 いい感触だ。


 足の甲に心地よい反発力。そのままボールを押し込むように力を込める。


 これは入ったな。



 と思ったのにボールはゴールへと向かわず宙へと浮き上がる。


 こいつマジかよ…

 洋介にスライディングでシュートブロックされてしまった。


 クッソー折角いけると思ったのに…

 そう簡単にはいかないか。


 それでも俺に注目を集めるには十分だっただろう。

 さぁ、ここからだ。

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