第29話 誓い

本家と婚家の使者が相次いで怒鳴り込んできたのは二日後のことだった。


秀次と忠興は、言うべき事を伝えたらすぐに戻るよう指示されていたので、使いに出た翌日には館に帰ってきていた。その翌朝、まず三浦の使者が、半刻ほどして鎌倉にいる婚家の代理人が血相を変えてやってきたのだ。


朝から国明は使者との応対に手をとられていたが、藤木の日常は変わりなかった。変わったことといえば、人目がなくなるとすぐ国明にキスされることとか、この二日、湯を浴びるときに国明が挑んできて困ったことくらいだ。藤木は思いだして赤くなる。体が痛いという藤木を気遣ってか、入れはしないが濃厚な愛撫を施してくるのだ。夕べなど、藤木の手に国明が手を重ねてきて一緒にイかされた。


んっとに、すぐ盛るんだからっ。


赤くなった顔をこすっていると、秀次が顔を出した。


「御渡り様、弓の稽古をなされますか」

「あ、やる」


直衣は動きにくいので、運動するときには秀峰のジャージか、国明の鎧直垂を借りることにしている。鎧直垂は動きやすいのでここ最近、藤木のお気に入りだ。忠興が新しい鎧直垂をこしらえると息巻いていたが、藤木はそれをやめさせた。ずっと榎本にいると決めたからには余計な出費は避けたい。もう自分は榎本の一員なのだ。


「着替えるから秀次、お願い」


藤木はちらっと客間の方に目をやった。国明が本家と婚家の使者を相手にしている。大変だろうな、と藤木は思う。だが、藤木が出ていくところでもない。


「心配はござりませぬ」


藤木の内心を読んだように、秀次が言った。穏やかに笑っている。


「御渡り様、大丈夫でござります」

「心配はしていないよ」


藤木はにこっと秀次に笑顔を返した。そう、心配などしていない。なぜなら…


「だって、あそこにいるのは榎本国明なんだからね」


左様で、と秀次も頷く。


「あの殿でござりますからな。ところで御渡り様、先だって仰せになられました遠乗りでございますが」


弓の稽古や遠乗りの計画などを秀次と話しながら藤木は思った。


あぁ、これが僕の日常なんだ…


開け放した板戸の向こうにみえる空は晴れ渡っていた。







昼を過ぎた頃、三浦本家の使者は埒があかないと判断したのか、いったん引き返すべく客間を出てきた。国明はとっくに客間を辞して使者の相手は古参の郎党に押しつけていたが、帰り際くらいはと顔を出す。それにまた腹が立つらしく、本家の使者は憤怒に耐えぬ、といった表情をしていた。


上がり框のところで、使者は藤木とはちあわせた。弓の稽古が一段落したところだった。忠興と秀次が脇に控えている。


「こっこれはっ」


それまで肩をいからせ、不機嫌丸出しにしていた使者が、驚愕に目を見開いて藤木を凝視する。


「もしやあなた様は…」

「ここにおわすは畏れおおくも御渡り様であらせられるぞ」


忠興が脅すような大音声をあげた。使者は大慌てでその場に平伏する。藤木はずるっと滑りそうになった。


なんだよ、その水戸黄門ばりの脅し文句。


頭が高い、ひかえおろう、と時代劇のセリフが聞こえてきそうだ。藤木が脱力していると、使者は真っ青になって震えながら詫びはじめた。


「おっ御渡り様のおわしますとは露知らず、ご無礼申し上げました。ひっひっひらにご容赦のほどをねっ願いたてまつりまする」


僕、何かしたっけ…


怯えて額を地面に擦りつける使者を藤木はポカンと眺めた。使者の後ろにいた国明が悪戯っぽく藤木に目配せする。それから重々しい声を出した。


「頭をあげられよ、御使者殿、御渡り様は慈悲深い神であられる。無碍に魂を取ったりはなさらぬゆえ、安心めされよ」


はは~っ、と使者はますます這いつくばった。

藤木は得心した。以前、本家当主の弟をスマホで脅しつけたことがあったが、三浦ではその話が広まっているのだろう。この使者の怯えようからすると、尾ひれがついてとんでもないことになっているに違いない。えほん、と国明が咳払いをした。


「御使者殿、御渡り様がお清めくだされるそうだ。受けられるがよい」


えっ、僕っ?


藤木は内心慌てた。


清めるって、ええ、どーすんの?えええっ


国明を見ると、目で合図を送ってくる。


なっ何でもいいわけね…


要するに、「らしく」したらそれでいいらしい。藤木は平伏している使者の傍らにたつと、そっと指先で使者の額に触れた。はじかれたように使者が顔を上げる。全開の笑顔でにっこりしてやった。その途端、使者は真っ赤になってぽぅっと藤木に見惚れる。それから、大粒の涙をぽろぽろ零した。


「あっあっありがたき幸せ…」


藤木はまたにっこりすると、上がり框に腰をかける。秀次がかいがいしく世話をやき、藤木は自室へ戻った。しばらくすると、昼餉の膳を持った国明が部屋へ来た。


「国明」

「藤、先程は助かった。これで本家の方はしばらく大人しいだろう」


国明は膳を置き、藤木の隣に座った。


「感激して泣きながら帰っていったぞ。今朝の態度と大違いだ」


くっくっと楽しげに笑う。藤木は目をぱちくりさせる。


「え、あんなのでいいの?」

「藤は榎本の神なのだからな。十分だ」


藤木は箸をもったまま黙り込んだ。国明が怪訝な顔になる。


「藤?」

「あのさ、国明」


藤木はためらいがちに言った。


「僕、少しは役に立つかな」


国明が目を見開く。


「僕はずっとここにいるけど、力仕事なんか出来ないし、戦とかあっても足手まといだし、その…役立たずなんだよね、でも…こういう感じで国明を助けられたらいいかなって…」


藤木は言葉を続けられなかった。頬が直垂の胸元にあたっている。藤木は国明に抱き込まれていた。


「おぬしはここに居るだけで価値があるのだ」


真摯な声が降ってきた。


「おれだけではない。父上や叔父貴、秀次や他の者達にとって、おぬしはすでに心の支えになっている」


抱きしめる腕に力がこもった。


「おぬしが居てくれれば、榎本はもっと強くなる。そしていずれは…」


国明は言いかけた言葉をふと、飲み込んだ。


「…そのうちにわかる…」


独り言のように呟く。


「…時期を待たねば…」


国明の瞳を厳しい光がよぎる。


「国明?」


胸がざわめいて藤木は国明の名を呼んだ。はっと国明が藤木を見る。それからふと表情を和らげるとちゅっと藤木に口づけた。


「わっ」


驚く口を国明はまた塞ぐ。舌を絡められて藤木はうっとりなりかけたが、ハッと我に帰って慌てて離れた。


「まっまた真っ昼間からっ。そうはいかないよ、僕はお腹が空いているのっ」

「…むぅ」


国明は残念そうに眉を下げ、それでも素直に藤木をはなした。


「ったく、油断も隙もない」


藤木は昼餉の膳を引き寄せ国明を睨む。


「しばらくお触り禁止っ」


びしっと指を突きつけた。国明の顔に幸せそうな笑みが広がった。




その夜も次の日も、婚家の代理人は納得するまでは帰らぬ、と主張して榎本の館に居座った。供回りの二人を含む三人はとりあえず下にも置かぬもてなしを受けている。

秀次は世話役を押しつけられ、げんなりとしつつも生真面目に応対していた。国明は挨拶に顔を出す程度であとは放り出し、食事も執務も藤木の部屋でとっている。秀次は報告のたびに、某は京ときくと虫唾が走るようになり申した、としかめ面をした。公家の血を引いているとかで、随分と横柄な態度をとられているらしい。


代理人が居座って三日目の朝、藤木は文箱に仕舞っていたスマホを取り出した。この世界に残ると決めた夜、電源を切って文箱の中へしまいこんだのだ。手元へ持ち続けるのは未練のような気がして、決別の意味でスマホを仕舞った。必要な時だけ『神具』として国明のために使おう、そう決めた。バッテリー表示は少し減った状態のまま変わっていない。時空を繋ぐ穴が開いたとき、電話をかけたり着信したりでバッテリー残量はフルではなくなったのだが、現代との繋がりが切れた今、残量に変化はみられなかった。もしかしたらこの世界ではどれほどスマホを使っても大丈夫なのかもしれない。そうではないかもしれない。もし残量ゼロになったり壊れたりしたらスマホはただの小さな箱になる。


「これで撃退しなきゃいけないかな」


それでも使えるうちは効果的に使ってやろう。

三浦本家の使者の様子を見れば、以前、スマホで脅しつけた効果のほどが伺える。ジャージに着替えた藤木はスマホをポケットに入れた。今から砂浜で馬の稽古をするのだ。稽古から帰ってもまだゴネているようならまた魂を抜くとかなんとかハッタリかまして使者をおっぱらってやろう。


「御渡り様ー、馬の仕度が出来ましたぞぉ」


忠興が浮き浮きと藤木を呼びに来た。


「忠興、大殿さんに挨拶してから外へ行こう」

「そりゃあ兄者の喜びまする」


はずむ足取りでわいわいと賑やかに国忠の部屋へ向かった時だった。客間から婚家の代理人が出てきた。顔を白く塗り刷毛ではいたような眉が額に描かれている。桜模様の扇で口元を隠した男は四十そこそこか、小柄で細い。赤紫の狩衣を着ている。直垂などという武士の衣服は身につけないのが矜持だとか、秀次が憤懣やるかたない、といった口調で夕べ話していた。

代理人の後ろには供の二人が続く。水干ではなく狩衣姿であるからそこそこ身分はあるのかもしれない。その奥には渋い顔をした国明がいる。代理人は藤木を見て、はじめ目を丸くしていたが、そのうちじろじろと嘗め回すような視線を送ってきた。以前、三浦当主、義村の弟が、同じような目で藤木を見たことがある。ムッときた藤木はスマホに手を伸ばした。その時、代理人が部屋の奥にいる国明にちらりと視線を移した。嫌な目だ。


「ほぅ、かような次第でおじゃりましたか」


ほほ、という笑い方がいやらしい。藤木の背筋に粟が立った。代理人はわざとらしく口元を覆う扇を揺らめかせた。


「稚児遊びもよろしかりましょうが、当主のことをおろそかになされては本家にお顔向け出来ますまいに。まだまだお若うおじゃりまするな、榎本殿。」


藤木には一瞬、なんのことか理解できなかった。だが、代理人はくつくつと肩を震わせ、見下すように藤木を眺める。


「榎本殿がかくも溺れられるのじゃ。さだめし閨の具合がよいのでおじゃろう」


何を言われているのかやっとわかった。藤木の頭にカッと血が上る。


このやろうっ。


スマホを取り出そうとしたときだ。どかっ、と大きな音がして代理人が庭に吹っ飛んだ。続いて供の二人も庭に転がされる。いつの間に間合いを詰めたのか、国明が戸口にすっくと立っていた。


「なっ何をなされ…」


蹴飛ばされた腰を押さえつつ代理人が口を開いたが、途中でひっと息を飲む。国明からすさまじい怒気が発せられ、三人ともぶるぶると震えはじめた。じっと見下ろす国明の目は酷薄な光を湛えている。


「うぬら、畏れおおくも海神様の御使い様であらせられる御渡り様を稚児と言うたな」


冷たい怒気に辺りの空気がピンと張りつめた。真っ青になった代理人は口をきくこともできない。


「われら榎本の神を侮りおったな」

「ひっ…」


代理人と供の者は腰を抜かしたまま後ずさろうとした。だが、いつの間にか榎本の郎党達が辺りを取り囲んでいる。


「我らが神を軽んじおって、うぬら、どうしてくれようぞ」


国明の声が凄みを帯びた。


「斬り殺すべし」

郎党の一人が叫んだ。


「首を落とそうぞ」

別の一人が唱和する。


「しかり」

忠興が大音声を上げた。


「殿、不敬の罪は死をもって贖うべし。即刻こやつらの首を落とし、京へ送りつけましょうぞ」

「ひゃあぁぁぁぁっ」


代理人と二人の供は地面にはいつくばった。恐怖のために失禁している。


「見よ、こやつら、小便を漏らしておる」

「なんと、汚いのぅ」

「臭い臭い、公家の小便は臭いわ」


郎党達は口々に罵りながら三人を足蹴にした。秀次もちゃっかりその輪にはいって代理人を蹴飛ばしている。


「叔父貴、おれはかように臭い輩を斬るのは気がすすまんぞ。太刀が穢れる」

「そうじゃなぁ、庭も汚れるなぁ。山へ引きずってそこで斬ろうかのぅ」

「それも手間だぞ、叔父貴」


国明が冷笑した。


「下種を斬る太刀はもたぬ。打ち据えて放り出せばよい」


叔父貴、と言えば、諾、と威勢良く忠興が答える。それから国明は秀次に命じた。


「榎本の神を侮辱せしこの者共の髷を切れ。抗議の文とともに京へ届けよ」

「承知」


秀次が喜々として小刀を出し、早速三人の烏帽子をはねとばして髷を切った。忠興が郎党達に大声で呼ばわった。


「存分に打ち据えてくれるわ。我もとおもう者は棒を取って参れ」


おぅおぅ、と郎党達は三人を引きずっていった。喧噪と悲鳴が館の前の庭に移動していく。あとには国明と藤木が残った。急転直下の成り行きに藤木がまだぽかんとしていると、国明がその手を取った。


「藤」

「…あ」


藤木が国明を見ると、困ったように国明が微笑んでいる。


「嫌な思いをさせた」


藤木は目を伏せた。稚児だの閨の具合だのという言葉に傷ついたのだとあらためて思う。


「藤」


国明が藤木の手を引いた。ずんずん歩いて国明の部屋へ入る。戸板を半分閉めた国明はぎゅっと藤木を抱きしめた。


「くっ国明っ」

「おぬしを汚すような真似はさせぬ。何があっても藤は榎本の支えなのだ」

「だけど…」


藤木はためらいがちに小さく言った。


「だけど僕は君と…」


あの代理人が言った言葉はあながち間違いではない。藤木は国明と肌を重ねた。それは藤木を神だと信じる榎本の人々への裏切りではないのか。ぼそぼそと告げる藤木の言葉を国明は黙って聞いていたが、突然体を離した。驚いて立ち竦む藤木の前に跪く。


「国明…?」


藤木は戸惑った。国明は何をしようというのか。国明は跪いたまま藤木の両手を取った。


「おぬしはこの世界の者ではない」


その手に唇を押し当てる。


「なのにおれのために留まってくれた。藤はおれの神だ」


じっと黒い瞳が藤木を見上げた。


「神と契ることは罪か?おれは生涯を藤に捧げる。藤とだけ契る。それのどこが榎本への裏切りなのだ?」

「国明…」


藤木は呆然と見返した。国明の腕に引かれ、藤木は座り込んだ。再び国明に抱き込まれる。


「おぬしがこの館で笑っていてくれると皆の心が強くなる。一つになって榎本を守ろうとする。おぬしは榎本の神だ」


藤木は国明の背に手を回した。広くたくましい背中だ。


「うん…国明…」


藤木は己の弱さを恥じた。国明を愛してここへ留まった時から、何があろうと榎本の神として皆の役に立とうと誓ったのに、あんな中傷におたついている。


「ごめん」


それから藤木は体を離して照れくさそうに笑った。


「これ使って追い払おうかな、って思ったんだけど、いらなかったね」


ポケットからスマホを取り出す。国明が恭しい態度でそれに触れた。


「大事な神器だ。下種相手に使うことはない」

「あ、でもいいの?代理人なんでしょう?たたき出すようなことしちゃって、大変なことにならない?」


落ち着くと事の大きさにハタと気づいた。丁寧にもてなしていたのはトラブルを避けて丸く収めるためではなかったのか。国明がふっと口元を上げた。


「向こうから隙を見せた。なにせ榎本のご守護神様を侮辱したのだ。本来なら首を落とされるべき大罪、まぁ、存分に利用させてもらおう」

「うっわ、悪者っ」

「当然だ」


藤木は呆れたように国明を見た。国忠も結構な狸ぶりだったが、息子の国明も真っ直ぐに見えて案外としたたかなのかもしれない。藤木はふと、面白いことを思いついた。


「では、榎本の当主殿、決意表明をどうぞ」


スマホを国明の正面に突き出す。国明がぎょっとのけぞった。


「大丈夫だよ、ただの道具なんだから」


くすっ、と笑いながら藤木はボイスメモをたちあげた。


「君の声をね、録音…っていってもわかんないだろうなぁ…あ、ちょっと待って」


百聞は一見に如かず、藤木は実際に録音してみせることにした。動画でもいいのだが、写真を恐れる鎌倉人、それは国明も例外ではなく、これで動画など撮ったら卒倒ものだ。なので音声の録音だけすることにした。


「これに声を移すんだ」


藤木は自分の声を録音した後、再生をタップした。


『これに声を移すんだ』


スマホから声が流れる。国明が目を丸くした。


「藤の声がした」

「そう、これが録音」


国明はしげしげとスマホを眺める。


「藤の世界は不可思議だな。おれには神の御業に思える」

「八百年先の世界はみんなこうなんだよ」


現代の家族や友人達の顔が胸をよぎり痛みが走る。それを振り払うように明るく言った。


「じゃあ、いくよ。しゃべって」

「おれがか?」


国明が神妙な顔をした。


「なんでもいいんだよ。何度でも録音はやりなおせるし、国明が言っておきたいこととか、決めたこととか」


緊張してる?と藤木が笑うと国明が照れ笑いを浮かべた。それからしばらく何か考えていたが、よいぞ、と真面目な顔を向ける。はい、と藤木は合図をして録音ボタンをタップした。少し間を置いて、国明が口を開いた。


「御渡り様をおしいただき、榎本党が榎本だけで生きていけるよう力をつける。榎本の当主は生涯御渡り様に己を捧げる。たとえ死しても…」


国明の真っ黒な瞳がひたと藤木を見つめた。


「当主の魂は御渡り様に、藤に捧げている。八百年たとうと、千年過ぎようとおれの魂はおぬしを求め、そして見つけだす。これからどんなに時を経ようと、おぬしはおれのものだ」


藤木が息を飲んだ。国明は藤木の手を取る。スマホが滑り落ちた。


「もう一度言う。八百年たとうと千年過ぎようとおれの魂はおぬしを求め、そして見つけだす」


忘れるな、と国明は静かに言った。


「これからどんなに時を経ようと、おぬしはおれのものだ」


黒曜石の瞳の奥に揺らめく炎が見える。


「おれもおぬしだけのものだ…」


忘れるな、と国明は繰り返した。藤木の指に押し当てられた唇が熱い。藤木は目眩がした。国明の熱に全身を焼かれるようだ。その熱が体の奥に火をともす。


「国明…」


掠れる声で藤木は国明の腕にもたれた。体の奥にともった火が全身に広がる。庭の方から何かを打つ鈍い音と悲鳴が響いてきた。ハッとしがみつく手に力が入った。国明が藤木の体を支えて立ち上がった。耳元で囁く。


「遠乗りに連れてゆこう」


藤木は国明に寄り添った。その場にスマホをおとしたままだというのはすっかり頭から消えていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る