アトラ⑧


 「メンテ中だけでも、何か気付いた事はありませんか?」

 

 諦めずにアサナギは尋ねる。電池をぬかれた状態ではアトラも記憶がない。ならばメンテの時ののっぺらぼうにされていた時を尋ねるしかない。

 

 「メンテ時だって能力を制限されているから何かを見聞きしたわけじゃないのだけれど。……そうね、彼の体は傷が多かったわ。消えなくなったアザとか、あまり鋭くないものでひっかいたような傷とかひどいやけどとか」

 「ああ、それならスカウト時の健康診断で知っている。それは虐待の痕跡だよ」

 

 アトラの答えはすてにミモザが聞いたものだった。虐待と、嫌な言葉を聞いてアサナギは表情を曇らせる。彼の出身はわからないが、目が見えないとなればいままでさんざん憂さ晴らしの道具にされていたはずだ。

 

 「耳の聞こえなかった私ですら孤児院できちんと育てられたのに……」

 「それだけ荒んだ国で育ったってことじゃない?それに健常者を恨む力をバネにしていろいろやる気になってるんでしょ。ゆがんでるわよ、あいつ」

 

 まともに育っていれば、彼は自分のように才能あるマスターになっていただろうか。もしくは自分も恵まれた環境でなければ何らかの組織に所属し危険な事をしていただろうか。そんな事をアサナギは考えた。

 

 「あいつ、またあんたを狙いに来るわよ。そこのちまいドールがユミルを倒しちゃったんだもの。それでちまいのを殺せたのに殺さなかった。ちまいのを目撃者として残したかったんでしょうね」

 「おい、あんまりアサナギを驚かすな。あとちまいってのは俺の事か?」

 「本当の事を言わないでどうするの。夢みたいな事を言って警戒を怠るのは愚かだわ」

 

 ちまいと言われてもそのアトラはカルマよりも小さい。憎らしく思いながらも、カルマはその忠告を聞く。

 わざわざカルマを活かしておいたのは、アサナギを勧誘するためだ。

 

 「警戒する。奴はきっとまた来るんだ。だからお前も、手を貸してくれ」

 

 カルマはアトラに視線を合わせて頼み込む。それにアサナギやミモザは密かに驚いた。あの強気な彼が、同じく強気なアトラに頼み事をするなんて。

 普段ならアトラに反発していたはずだ。それだけ彼は成長しているのかもしれない。

 

 「いいわよ。私だってあの変態ファレノに罰したい。私みたいないいドールを放置して、よその女にかまけた罰をね」

 

 怒りをこめた笑顔でアトラは言った。またクセのある子を起動してしまったと、アサナギは思う。

 

 

 

 

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革命のピグマリオン kio @kio___

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