アトラ②


 「そう、なんでしょうか」

 「そうだとも。そもそもカルマは電池長持ち、遠隔での任務もばっちりだ。コンビ解消はそうないはずだ」

 

 ミモザはしっかりと根拠を述べながら励ます。レダは最強でもあるが電池が持たない。だから長時間マスターと離れる任務には向かずコンビ解消となった。カルマにはその心配がない。

 

 「それより今は今回の件の対策を考えよう。ファレノ達には逃げられたが、奴らは君たちを気に入ったと考えられる。また勧誘か、下手したら誘拐に来るかもしれない」

 

 何度考えた事であってもミモザの予想を聞いてアサナギはぞっとした。カルマはあえて破壊されなかった。ファレノが自分の主張などを残すためと考えられる。無事ならその情報はアサナギに届くからだ。それだけファレノはアサナギの能力やドールを狙っているということになる。

 

 「とりあえずは警戒かな。警備は増やす。アサナギはドールが増える事も考えておいてくれ」

 「えっ、増えるんですか?」

 「ドールが君の警備として一番確実だからね。まぁ、カルマを育てて一段落してからになるさ。さっきも言ったがカルマとのコンビ解消フラグではないから安心して」

 

 それだけアサナギの死や離脱はこの国にとっての痛手なのだろう。なにがなんでもアサナギを他勢力に渡すつもりはない。前例はないが彼女にドール三体も持たせる。そうすれば優秀な護衛となるはずだ。

 しけし守ってばかりいるのも分が悪い。何か相手に先手を打ちたいとミモザは考える。

 

 「あとは、せめて相手の所属か分かればやりやすいんだけどな」

 「フェザントではないのですか?」

 「ああ、どうやらそれは違うらしい。本人がそう言っていたようだし、フェザントの対応もなんだか違うと思う」

 

 隣接する国であり、ファレノの出身であるフェザント。そこがスパイを送り込んだとミモザは考えたが、調べてみればどうも違うらしい。もちろんフェザントとは友好的ではないため嘘をつかれた可能性もあるが。

 

 「そういえば、ユミルというドールはファレノが名付けたんでしたっけ?」

 「いや、工房が名付けた時にはユミルだったよ。彼はこちらが用意したドールと自分が持ってきたドールを入れ替えていたのに」

 

 アサナギはファレノのドールの名前の呼び方が気になった。持参したドールなら別の名前があるはず。なのに彼は持参したドールをユミルと呼び続けていた。名前にこだわりを持たないタイプなのかもしれない。

 

 「ドールの名前は工房が名付けるんですよね、たしか」

 「うん、テスト起動期間中にね。でもマスターがひきとってから名前を新たにつけても構わない事になってる。管理する上での名前だから、識別できればいいんだ」 

 「なのにファレノは別ドールなのに新たに名付けなかった。それは別のドールであることを気付かれないよう警戒したとか?」

 

 アサナギは冷静に考える。最初に名付けるのは工房だが、どれもそのドールにあっている気がする。

 ファレノのドールには本来の名前があるはず。しかし入れ代わりがばれないよう彼はユミルと呼び続けたという。こだわりがないのか、それよりも警戒が勝ったのだろう。

 

 「工房がつける名前にも法則があるからね。うちの工房はピグマリオンの神話に出てくるガラテアから衛星の名前をアレンジするようにしている。だから他の工房と被る可能性もなくはないが……」

 

 言いかけてミモザは勢いよく立ち上がる。机の上の茶が大きく揺れたほどだ。彼女は何かに気付いたようだ。

 

 「そうだ。ユミルだ。ユミルと工房の特色を調べれば……」

 「ユミルならファレノが連れ帰ったんじゃ?」

 「そっちじゃない。本来ファレノに預けるはずだったユミルだ」

 

 ファレノに預けられ、彼のドールがなりすました存在。本来のユミルの事をミモザは思い出した。もちろん本来のユミルはほぼ起動されていないのだからろくなデータはない。しかしメンテナンスだとかテストだとかで起動し、ファレノを見たり会話もしたはずだ。そこになにか手がかりがあるかもしれない。

 

 「アサナギ、協力してほしい。彼女を起動してファレノの情報を得るんだ」

 

 アサナギは頷く。それは停滞していた彼女達がようやく動き出した一歩だった。

 

 

 

 

 

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