其の弐(加筆修正版)

 紗理奈は今日瑠美と出掛けたことを思い出していて、傍から見ればニヤケている怪しい少女であることに気が付くには至らなかった。


 玄関の鍵が掛かっていることを一度確認し、小声で「良かった」っと口に出した。家に入るとリビングの方からテレビを付けていることが音で解った。


 靴を脱いでリビングに立ち寄ることなく二階の自室に荷物を置いた。着替えるのが面倒臭く、外出着のままリビングに向かった。リビングに行けば、さと美はソファーでプリンを食べながらテレビを見ていた。しかし、珍しいこともあるもので、さと美が見ているのはアニメやドラマなどではなくニュース番組を見ていたので少し驚いた。


「ただいまぁ」


「あ、お姉ちゃんお帰りぃ」


「珍しいじゃんニュース見てるなんて」


「ちょっとね。何か、見て知ってって言われたの」


「は? お母さんに言われたの? てか何? 見て何を知るの?」


「ううん、お母さんじゃない。違う……解んないの。でも、探すニュースは何とく解るの」


「いやいや、意味解んないから。誰に何を見て知ってって言われたの?」


「えっと……解んない。何か、私が? ううん、家族みんなが狙われているからぁ? 知ってって。必ず守ってあげるぅ? って言ってたけど、途中からね、奴が来たぁ? 助けて? って、言われた……のかな?」


 さと美の言っていることは結局支離滅裂で、首を傾げ右手を顎に当てながら難しい顔をしていた。


「はぁ、もう良いわぁ。何も言うな妹よ」


 勉強と睡眠不足で頭のネジが一本外れた未来から猫型機械人形に似た素っ頓狂な答えだと思ってしまった。とりあえず隣に座って一緒にニュースを見ることにした。


 地方なのでニュース番組は、全国放送のニュース番組と地方放送のニュース番組が交互に放送されているのだが、今は全国版をやっているはず、なのだが地元が映し出されていた。町の警察署に来ている現場のリポーターは今年の新人アナウンサーの中で一番綺麗な顔立ちの千倉綾子だった。


【――警察は一連の事件との関連を慎重に捜査しています】


〔現場の千倉さん〕


【はい!】


〔地元の人達の反応はどうでしたか?〕


【はい! 未だ犯人が捕まらない切り裂き魔事件に続く新しい二つの事件に、住民の皆さんは混乱を隠せない状態が続いています】


 紗理奈は千倉アナの言葉と番組テロップの文字『切り裂き魔事件の町で新たな事件』っと出ていたのを読んで眉間に皺を寄せながらさと美に問い出した。


「ねぇ……また何かあったの?」


「昨日の夜にまた野良猫の群れが殺されたらしいよ」


「え!? また!?」


「うん。またバラバラだったみたい」


 猫のバラバラ死体を想像しただけで紗理奈は血の気が引いてしまった。さらにさと美は続けて


「あとね、一人暮らしのお爺ちゃん、お婆ちゃんが行方不明ってのもやってた」


「何、それ? 誘拐かなんか?」


「誘拐か失踪かまだ解らないみたいだけど――」


 映像が見慣れた町の駅が映されており、見たことがある町の住民インタビューに答えていた。口々に「もう怖くて仕方ありませんよねぇ」とか「この町は変になったのよ」などと答えていた。

 再び警察署前にいる千倉アナに切り替わった瞬間にテロップが変わり『事件頻発の町、住民の恐怖拡大』となった。


「何が……この町で起こってるの?」


 紗理奈が心の声が漏れて口に出してしまった言葉をさと美は拾って返事をした。


「さっきまでね、うたた寝してたらね――」


「え? 何が?」


「私達の所に迫ってるって言ってたの」


「迫ってる? 何が? 何処に迫ってるの?」


「解んない。だって電波悪いみたいに声が途切れ途切れでさぁ」


 一体さと美が何を言っているのか理解出来ず、さらにテレビでは千倉アナが失踪事件の概要を話し始めた。


【――失踪事件はこれで五件目となっています。失踪者の共通点は高齢者で一人暮らしということ以外見つかっていません。警察は失踪と誘拐の両面で捜査を続けています】


〔千倉さん、二日前の美術品盗難事件の進展はどうなりましたか?〕


【はい! 美術品盗難事件では警備員一名が行方不明となっており、盗まれた美術品は、アイヌ民族に伝わる刀と戦士の服が一式ですが、本日行われた記者会見で警察は――】


 瑠美は何をしているのだろうかと思ったので連絡を入れた。それと、一番重要なことを聞かなければいけない。

 そして、話しても大丈夫だと思うのだ。あの、パレードを自分も見ていたことを。何が、この町に起こり始めているのか話したかった。


《今、何してたぁ? ちょっと話したいことがあるんだけど良いかな?》


 いつもの調子で連絡を入れた。そうでもしないと理解出来ない恐怖に押し潰されそうになってしまうと思ったからだ。


 ニュースを見ているのが辛くなってきたのでスマホゲームをしながら待っていたが、今日はやけに返事が遅い気がした。


 三十分もすればゲームも飽きてきたので、気分転換に契約している動画配信サービスで何か見ようと思い立った。ニュース番組はいつの間にか地方版に番組が変わっていた。


【――また建設会社の事務所が襲撃され、クレーンやブルドーザーなどの重機が破壊される被害が起きました。警察は一か月前から起きている一連の事件との関連を――】


「さと美、ネリフリでアニメ見て良い?」


「うん。ニュース飽きたから、あたしも一緒に見る」


 ゲーム機を起動させて最近ハマっているアニメを見始めた。地方なので関東でやっているような深夜アニメは放送がほとんどされていない。


 ケーブルテレビで見るなどの視聴方法もあるのだが、黒木家では動画配信サービスにてそれを補っている。海外ドラマも映画もお笑いも見られるので楽しい。


 七時を過ぎた頃には、さと美はソファーでうたた寝していて、首をカクン、カクンと揺らしていたが、結局は落城し、ソファーで横になってしまった。紗理奈は掛け布団をさと美に掛けた。


「もう、しょうがない奴だなぁ」


 ピロンッと連絡がスマホに来た音が鳴ったので、素早く手に取ると案の定瑠美からの返信だった。


《エリの散歩に行ってたよ。スマホ忘れて返事遅くなってごめんね》


《だいじだよぉ。今、電話良い?》


《良いよ》


 紗理奈はリビングから自分の部屋に行って、太陽の八割が沈んでいた外を少しばかり見た。もうすぐ夜だ。暗闇の中に潜む何かが動き始める夜が来るのだ。最近はそう思っている。


 カーテンを閉めて部屋の電気を付けて瑠美に電話を掛けた。それにしても、先ほどからやけに猫の声が聞こえている。


「もしもし瑠美ちゃん、ちょっと気になったんだけどさ」


『どうしたの?』


「ニュース見てたらね、この町で色んな事件が起きてるの。これってさ、涼花さんが言ってた『あの目』って奴が事件に関係してるのかな?」


『えっとね、これは私の個人的な意見だからね。知識の箪笥をまとめた物だから、正確ではないかも――』


「大丈夫だよ。瑠美ちゃんの話なら、私は信じる」


『私はね、この町で起きている全ての事件が「あの目」の仕業ではないにしても、パレードの日から町に妖怪変化が溢れ出した。宮部先輩はパレードが原因って黒木さんに言ったんでしょ?』


「うん」


『この町にあった結界が破られたか、それか封印されていた何かが目覚めたのかも。でも……その前から、パレードの前から、少しずつ、世界のバランスは崩れかけていた』


「パレードの前? って何? 何かあったの?」


『……』


「瑠美ちゃん……」


 瑠美の沈黙は何か聞いてはいけないこと。教える事ができないことだと解っている。寂しいことだが、紗理奈では力になれないと思われているのだろう。


 しかし、本当に自分ができることはないと思う。無音の空間の中で数匹の猫が窓の近くで鳴いている声がはっきりと聞こえる。


『……何でもない。私の推測だから……気にしないで』


「あのね、言ってなかったけどね。私……本当はパレードを見たの」


『そうなのね。最初聞いた時には、友達から聞いたって言ったよね』


「ごめんね。何か言えなくて……あの時は、見たって言いたくなかったの。ごめんね……私のこと、嫌いになっちゃった?」


『そんなことで謝る必要なんてないよ。それに嫌いになったりしない』


「嘘吐いたこと気にならない?」


『気にしてないよ。言ったでしょ? 私が黒木さんを守るの。誰にもあなたを傷つけさせたりしない』


「はうー!」


 美鬼のような声を出してしまった。最大限の言い訳をさせてもらえるとすれば、ハートに矢が刺さって心臓の鼓動が早まってしまったのだ。恐らく、これ以上カッコいいことを言われると死ぬだろう。


『それより、黒木さんはパレードのこと覚えているの?』


「全然……でも、言葉にできないけどね、何か美しかったってこと、っと――」


「ミャォー」


「――確か――」


「ミャーォ、ミャーォ」


「――無数の人影が――」


「ミャーニャーミャーォ」


「もううるさいな!」


『どうしたの黒木さん?』


「何かやけに野良猫の声が窓の外でうるさくて――」


 紗理奈は窓に近づいてカーテンを開けた。


「きゃぁぁぁ!」


『どうしたの黒木さん!? 黒木さん!?』


 その光景を見て紗理奈は腰が抜けたようになり尻餅をついて、なるべくベランダから離れようと後ずさりした。


 紗理奈の目に映っているのは、ベランダには恐らく入れるだけ、手すりにも、何匹も何匹も何匹も何匹も、数えられないほどの野良猫が至る所にいた。暗闇の中にいる猫達は、部屋の電気できらりと不気味に光って、じっと彼女を見つめていた。


「え!? 何!? 何なの!?」


「「「「「「「ミャォーン、ミャーミャォー」」」」」」」


 猫の大合唱は電話越しの瑠美に聞こえていた。


『黒木さん! 早く! お札を使って! 黒木さん! お札を使って!』


 瑠美に言われて、焦りながら机に閉まってあった二十枚のお札を取り出して、窓にそれを投げつけた。


「えい! この! この! この!」


 お札は水で濡れた紙を投げつけたように、窓に乱雑に張り付き、一瞬だけだが光ったような気がした。その途端にベランダにいた無数の猫は「ミャー」っと断末魔の叫びを轟かせながら散らばって行ってしまった。


『黒木さん! 黒木さん! 大丈夫!? 黒木さん!』


 荒くなった息を整えることもせずに紗理奈はスマホを耳に当てた。


「何か……逃げたみたい……」


『良かった。宮部先輩からお札を貰っておいて良かったね』


「うん……はぁー……怖かった……」


 紗理奈が窓を見ると張り付いたお札は剥がれることなくその状態で留まっていた。


『黒木さん、念のためにお札を魔除けの効果がある場所に張り付けておいた方が良いかもしれない』


「うん……そうだね……お母さんに剥されないかな?」


『そこは何か理由を付けた方が良いかも。魔除けなんて言ってもしょうがないから、ご利益のあるお札って曖昧に答えれば良いかも?』


「うーん、まぁそこは何とかするね」


『お札の効果がある場所はね、北側の壁に貼ってお札の文字を太陽が南中する南に向けるの。でもキッチンやトイレ、お風呂場とかの水回りは不浄の場所だから駄目よ。玄関やドアも駄目。最後に自分の目線より上に張ること』


 瑠美に言われた通りにアプリで地図を開き、方角を確認しながら家の客間が丁度北側に位置していたので、そこへ台紙に入れて画鋲で張り付けた。


『どうしてまた黒木さんが狙われたのかな?』


「うーん、全然解んないよぉ。今回は私何もしてないよぉ」


『とりあえず宮部先輩に相談しましょう。今電話してみたら?』


「えっとね、ごめん、連絡先解んない……」


 涼花の一件の時に連絡先を交換する雰囲気でもなかったし、自分では乗り気でもなかったので交換していなかったが、今になって後悔してきた。


『じゃあ、私から連絡しておくからね。また連絡する』


「うん、解った」


『じゃあまたね』


「待って瑠美ちゃん!」


『ん? どうしたの?』


「あのね、眠れなかったら、電話しても良い?」


『――しょうがないなぁ。黒木さんの為になるべく起きてるから電話してね』


「ありがと瑠美ちゃん」


 本当の気持ちは家まで来て一緒に眠って欲しかったが、そんなことは例え死んでも言えない。


 瑠美との電話を終えてリビングまで降りると、さと美は目を覚ましてまたテレビを見ていた。人の気も知らないで優雅なものだと思ったが、こちらを振り抜くことなくさと美は話し始めた。


「お姉ちゃん、変な夢って見る?」


「は? 変な夢って例えばどんな?」


「あのね、さっき寝てたらね、知らない女の人が守るために帰ってきたって言ったの」


「知らない女の人? てか守るって何を? 帰ってきたって何?」


「やっと見つけたって、間に合って良かったって――」


 さと美は話しながら今にも眠ってしまいそうに首をカクカクと動かし始めた。ゆっくりと近づいて正面を見ると、まるで心がここに無いように遠くを見つめているような目をしていた。そう、まるで、無意識に話しているような、そんな感じだった。


「今度こそ――」


「さと美?」


「ずっと一緒だよって――」


 そう言ってさと美はソファーの背もたれに崩れた。その時、ピロンッとスマホに連絡が入ったが、今はそれどころではない。


「さと美!?」


 咄嗟にさと美を掴んだが


「すぅーすぅー」


「え!? 寝てるの!? さと美? さと美?」


 妖怪変化がさと美に今の言葉を言わせたのだろうか? しかし、家中にお札は張ったのだから侵入することなどできないはず。そのはずである。


 効果は自分が良く知っているし、何よりもお札には絶対の信頼がある。それとも、お札が効かないほど強力な妖怪変化なのだろうか?


「今度こそ……ずっと一緒?」


 その時、全身が凍えるように寒く感じ、鳥肌が不自然なほど全て立っている。ここは


「ここは……もしかして……境界の……中?」


「フミャァァァァァァァァ!」


「イヤァァァァァァァァァ!」


 突然の猫とさと美の叫び声にビクッと身体が飛び上がってしまった。外では猫の鳴き声が響いている。


「え!? 何!? さと美!? どうしたの!?」


「たすけて……おねえさま……たすけて……やつが……きたにゃ」


「さと美!?」


 急いでさと美の身体を揺らしてみたが起きる気配はない。しかも、先程からやけに呂律が回っていないのが気になる。さと美は眠りながら涙を流し出し紗理奈の腕を掴んだ。


「……たすけて……おねえさま……」


「「「「「「「「「「ミャァァァァァ!」」」」」」」」」」


「待っててさと美! お姉ちゃんが……助けるから!」


 紗理奈は意を決し、階段を駆け上がり部屋にある残りのお札を持ち、外に飛び出した。玄関を開けて目に飛び込んできたのは、切り裂かれた猫達の死骸と、今まさに無数の猫達が次々と人に襲い掛かっている光景だった。


「な、何!? どういうこと!?」


「あああああああああああああ――」


「あ、あ、い、今助けます! これでも食らえー!」


 紗理奈はお札を翳しながら突進した。襲われている人は無数の猫に飛びつかれた状態で後ずさりしたと思ったら、突然向かえの家の石垣まで吹っ飛んだ。


「あああああああああああああ――」


 猫達は散らばって襲われていた人から離れた。暗くて良く見えないが、その人は声で解ったが男性でとても変わった服を着ている。モンゴルか何処かの民族衣装のような、そして、腰には――


「あああああああああああああ――」


 見たことのない太い刀をぶら下げていた。一歩前進して道路照明灯に照らされた男性は白目を向いていて、まるで意識がないように見えたが、刀をゆっくりと抜いた。


「え!?」


 ドスッ!


「うっ!」


 刀が男性の手から離れて、真っ直ぐ紗理奈の腹部に突き刺さった。刃の剣先は皮膚を突き抜け、筋肉を切り、内臓まで深くめり込み、肉と刃の隙間を縫って血が溢れ出した。


「いやあぁぁぁぁぁぁ!」


 声を出した瞬間に腹部に激痛が走り、ムズムズと痒く、そして、とても温かかった。瞳からは涙が洪水のように頬を伝って地面に落ちていく。

 刀は男の手に引き寄せられるように戻り、刀が腹部から離れた瞬間に内側で溜まっていた血が勢いよく流れ出して小さな湖を作った。


「あっ……あっ……あぁぁあぁ……」


 紗理奈は今まで感じたことのない痛みに襲われ、気を失いそうになっていた。流れていく血がこれ以上身体から出て行かないように腹部を手で抑えても、滝のように下に落ちていった。


「うっ……うっ……うばぁ!」


 胃から何かが逆流してきて、喉を通って口から出てきた。赤黒い血を吐き出した紗理奈は気が狂いそうだった。息をする度に苦しくて堪らない。それでも息は荒く口から出て行く。


「わ、わたし……しぬの?」


「あああああああああああああ」


 男は口からよだれを流して立っていた。そして、再び刀だけが重力を無視して紗理奈に向かってきた。


「あぁ……おわった……」


 紗理奈はそこで目を瞑るとまた涙を流した。ヒューっと空気を切り裂く音が聞こえていた。


「ミャー!」


 カチッ! カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ!


 猫とは少しばかり違うような声だった。そして、聞こえてくる音は


「な、なに?」


 人ほどの大きな猫が紗理奈の目の前に立っていた。その後ろ姿は黒とオレンジが混じった模様と尻尾がが二つあった。

 次第に人ぐらいの大きな猫の身体は細くなり、毛が短くなっていき、肌が見えてくると、それは裸の、尻尾が二つある、猫耳の人の姿だった。猫の妖怪変化は刀を両手で押さえているようだった。


「おねえさまを、きずつけるにゃ!」


 紗理奈からは見えないが、刀を抑える手からは血が滴り落ちていた。刀は少しずつ前へ前へと進んでいて、人の姿になった猫はその度に一歩一歩後ずさりしていた。


「こんどはっ――ずっといっしょにっ――いるんだにゃっ!」


 妖怪変化は力いっぱい振り被って、刀を向かえの家の石垣まで投げた。石垣に刺さった刀はカタカタと音を出し小刻みに動きながら男の腕の中に戻った。


「あああああああああああああ」


「こいにゃー!」


 妖怪変化は啖呵を切って両腕を広げると爪がシャキンッという音と共に長く伸びた。意識が飛びそうになりながら、何が起きているか解らない紗理奈は、ただ痛みで泣き続けているしかなかった。


「あああああああああああああ」


 刀が再び飛んでくる瞬間に


「安間経心式是空南無阿尊青海!」


 聞き覚えのある男の子の声が木霊するように響くと、刀は男の腰の鞘に戻り、それと同時に猫の妖怪変化も


「フミャー!」


 っと叫び、家の屋根までジャンプして何処かに行ってしまった。それを見ている間に男は走り去ってしまった。

 自分の名前を何度も呼ぶ声と二人の足音が聞こえてくる。聞き覚えのあるその声は、きっと――


「紗理奈ちゃん! 紗理奈ちゃん!」


「おい! しっかりするでありんす!」


 薄れゆく意識の中で最後に見たのは、自分を抱えるはじめと駆け寄ってきた美鬼だった――。

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