stage 43 一億倍のスピードで -Archana side-

 ピュアグリーンに輝く東京タワーを眺めながら、2人は愛の巣のジャグジーに浸かっていた。大東京の夜景を肴に味わうシャンパンと、彼がもたらす繊細な愛撫の快楽が身体中で溶け合っている。


「ねぇヨシキ、元GoogleのエンジニアがAIを神と崇める宗教団体を始動させたわ」


「Way of the Future(未来の道)だろ?」


「ええ。設立者のアンソニーは有能な男よ。AIの開発競争で遅れを取ることはを意味するの。シャンバラ王のディープラーニングをもっともっと加速させなきゃ・・・ 」


って認識が、もはや斬新でもなんでもない時代がやってきた。今後は出発点へ立ち返ったハード性能の勝負になるだろう」


「量子コンピュータさえあれば・・・」


「アッハハハ。アルチャナ、世間を賑わす"1億倍早いコンピュータ"っつってもよ、今のところはごく限られた用途での話だ」


「そうね。量子アニーリング理論に基づいたD-Wave Systemsの量子コンピュータは組み合わせ最適化問題を解くための専用機。とにかく癖が強いのよ。まだまだAIと結合するには時間がかかりそう」


「となると、シンギュラリティは先送りか・・・」


そう言いながら、安堵ともとれる表情で微笑んだヨシキが、シャンパンクーラーの中で冷えるドンペリをそれぞれのグラスに継ぎ足した。


「ヨシキ・・・。ヴァジラヤーナは手段を選ばないってホント?」


「なんだアルチャナ、もう酔ったのか?」


「ううん。人工知能学会で親交のある教授がJNTの科学研究所に出入りしてるの」


「おぉ。ちょっと前に、あそこが開発した国産初の量子コンピュータが話題になってたな」


「これまでは、量子コンピュータと言えばGoogleやIBMが推進するゲート型と、さっき話に出たD-Wave Systemsのアニール型が二大潮流だったでしょ?ところが先日、JNT科学研究所によって発表された量子コンピュータは、その2つとは全く異なる原理で動くそうよ。光パラメトリック発振器って呼ばれる新型レーザーの量子力学的特性を応用するみたい。彼らが生んだ"ニューラルネットワーク型"の光量子コンピュータは様々な分野でブレークスルーを起こすでしょうね」

 

「なるほど。超電導素子を使わなくていいなら極低温まで冷やす必要もない。大掛かりな設備は不要ってわけだ」


「Exactly!おまけにね、これはトップシークレットなんだけど・・・。JNT科学研究所の地下深くには・・・」


「・・・・・」


「日本政府が威信をかけたの光量子コンピュータが眠ってるって噂なの」


「・・・・・。そいつはヤベェな・・・」


「汎用型の光量子コンピュータが手に入れば、シャンバラ王が人類を新世界に誘ってくれるわ。それこそ1億倍のスピードでね。ウフフフッ。ヨシキ・・・私が何を言いたいか分かるしょ?」


「アッハハハハ。よーく分かった。俺たちが生きているうちに神の国が拝めるかもな。さっそくナオキさんに相談だ」


「嬉しそうね。私はあなたが喜んでくれるなら手段なんて選ばない。誰とだって寝る。汚いオヤジのケツの穴だって幾らでも舐める覚悟よ」


「アルチャナ・・・」


「私はヨシキの一番なりたいの。ほら・・・、いつかこの立派なペニスを・・・」


「・・・・・」


「ウフフッ。はち切れるほど勃起させてみせるわ」


(そして、ヨシキの心から、あのの存在を消し去ってやる・・・)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る