第二章 第1話「訓練のための訓練」

俺たち第4隊は食堂で昼食を取っていた。


「そういえば、そろそろ合同訓練だね」


ダイチが思いついたように言う。


「合同訓練?」


ショウスケが興味ありそうに聞き返す。


「そっ“最前線合同訓練”、毎年、最前線4支部の新人が集まって訓練するだって」


「あたしそんなの聞いたことないけど?」


「あっ外部には公開されないみたいだよ、僕も人伝てに聞いただけだし」


すると、ダイチがさらに目を輝かせて話し始める。


「でね、そこで功績を残すと“異名”が付けられるらしいよ」


「異名?」


「そう、最前線の支部長は全員付いてるよ。第4支部長『流星りゅうせいのハヤト』、第2支部長『魔神まじんのカズサ』、第1支部長『天災てんさいのリョウ』、そして我らが第3支部長『冷酷れいこくのレイコ』」


支部長、おっかねぇ名前付けられてんな…しかしどれも気になる異名ばかりだな。


「あとね、隊長とか隊員にも何人か付けられてる人がいるんだよ…」


と言ったところで支部内放送が入る。


〈第4隊、全員支部長室へ来てください。繰り返します…〉


俺たちは話を中断しスッと立ち上がって支部長室へ直行する。

そして、放送が鳴り終わったと同時に支部長室の扉を叩く。


「支部長、第4隊参りました。」


「入れ」


「失礼します」と言って入るとそこには支部長と司令長、そして郷田ごうだ隊長がいた。


「全員いるな?お前達を呼んだのは任務のためじゃない」


「噂には聞いているかもしれませんが最前線合同訓練があと1ヶ月後に迫っています。」


「そこでお前達には他の隊の者にぶちのめされないようにこれから訓練してもらう」


「ぶ、ぶちのめされる?」


物騒な言葉に声が出る。


「そうです。合同訓練といってもそれは名ばかりの闘技大会、支部同士で闘いどの支部の新人が一番強いかを競うものになっています。」


支部長と司令長が喋り終えると郷田隊長が口を開く。


「で、お前達の訓練に俺たち第1隊が選ばれたって訳だ、丁度俺たちも5人だからな」


第1隊と訓練…それは楽しみかもしれない…


「もちろん任務をこなしながらだ、できるだけこちらで丁度いいように任務を振り分けよう、ではあとはお前達に任せる、解散」


「頑張ってくださいっ」


司令長の声援をうけつつ、俺たちは郷田隊長とともに支部長室を出た。


「じゃあ早速だが第1訓練所にいくぞ」


「はい!」


郷田隊長の後につき第1訓練所へと向かう。


「第1隊の連中は全員が隊長クラスに強い、お前達もかなり成長できるだろうさ」


隊長クラス、その言葉に少しプレッシャーを感じる。

そして、第1訓練所に入るとそこにはすでに第1隊4人の姿があった。


「紹介しよう、こいつらが第3支部第1隊のメンバーだ!」


「隊長、いちいち声が大きい…」


「へぇ〜この子らが超大型倒したん?見た目によらずすごいやん!」


「イズミっち、“見た目によらず”は失礼っしょ」


「隊長殿我らは何をすればよいのだ」


この人達が第3支部最強のチーム…すでに各々が濃い…俺は不安を感じた。


「おいおい、とりあえず挨拶だろう?こいつらはお前達のこと知らないんだから」


と郷田隊長が言うと大きな剣を持ち所々に金属の装備をした女の人が一歩前へ出る。


「私は“両断りょうでんアズサ”だ。気術ヴァイタリティー百剣ハンドレッドソードというのを使っている。」


「ハイハーイ!」と次は横にいた褐色の女の人が前に出る。


「ウチは“虎ノ門とらのもんイズミ”!気術は“虎の魂タイガーソウル”ていうのを使ってる!この喋り方と金髪が目印や!」


「次は俺っすね!俺は“霧ヶ峰きりがみねユウキ”!気術は神速しんそくっす!よろしくお願いするっす!」


一見チャラそうだがどこか親しみやすそうな人だなと思う…ただ気になるのは次…フードを被りマントで体を覆っている高身長の男、俺と同じ気力ヴァイタルを感じる…


「我は西園寺さいおんじケイウン…気術は血の武具造形アーティファクトだ…よろしく頼む…」


やっぱり…武具造形アーティファクトか、けど血って…しかもよく見ると顔が人の肌ではない、マスクをつけているのか…

するとダイチが耳元で囁く。


月永つきながくん、僕の記憶が正しければあの人“死神しにがみ”の異名を持ってる人だよ」


「…死神」


「血の武具造形…間違いないと思う」


そこでパンッと郷田隊長が手を叩く。


「さて!これで挨拶は終わりだな!誰が誰担当かはすでに決めてある!」


俺たちは?と思ったがすでに知らされているのか…


「じゃあ発表するぞ!両断アズサ&麗未うるみアオイ、虎ノ門イズミ&光丘ひかりおかハヅキ、霧ヶ峰ユウキ&速坂はやさかダイチ、西園寺ケイウン&月永ヒロト、そして発花たちばなショウスケ、お前は俺だ!」


隊長は続ける。


「今日1日は任務はない予定だ!第4隊は思う存分しごいてもらえ!」


「行くぞ」と言って隊長はショウスケを連れ第1訓練所を出ていった。

そして、各々が散らばり始める。


「我らも行くぞ…」


「あ!はい!」


俺の先生?になった西園寺ケイウンはいつのまにか出口近くにいた。


「どこへ?」


「地下に使われなくなった訓練所がある…そこへ行く…」


「ここにそんなところが…」


「皆じめじめしたところは嫌いなのだろう、今は我しかつかってないのだ…」


その地下の訓練所の入り口は何も表示がされていない扉の先にあった。


「この階段の下だ…」


階段に明かりはあるものの光が弱く足を踏み外しそうになる。

そして、階段を降りた先には何もないただ、だだっ広いだけの部屋が存在していた。


「広っ」


「そうであろう…ここならば我の気術も存分に使えるのだ…」


そういえば、とさっきダイチに聞いたことを確認してみる。


「そういえば死神の異名を持ってると聞いたんですけど…」


「死神?…あぁ、そんな名を付けられたような気はするな…あまりよく覚えていないが…」


そんな話どうでもいいというように部屋の中心へ歩いていく。


「“西園寺さん”でいいですか?」


「我の呼び方などどうでもよい…それよりも月永と申したな、そなたの実力をみたい…まず手合わせを願おう…」


と言ってこちらに振り返る。


「了解です!では遠慮なくいきます!」


「来い…」


俺は気術を発動させ、攻撃体勢に入る。


七天抜刀しちてんばっとう夜天やてん迦具土カグツチ】!」


俺は影で背中に6本手に1本の剣を造形する。

そして西園寺さんへ一気に間合いを詰めた!


◇◇◇


「ウチらはここでええやろっ」


私と虎ノ門イズミさんはそのまま第1訓練所に残っていた。


「虎ノ門さん、よろしくお願いします!」


「そないにかしこまらんでええで?気楽にいこ?逆にウチが緊張してまうし、あとウチのことはイズミでええで」


なんだろう、この喋り方のせいなのかとても親しみやすく感じる。


「じゃあ、イズミさんで」


「せやけどええなぁ、ハヅキちゃんはええ男に囲まれて」


「えぇ!?」


この人、早速何の話を…!


「第1隊なんて見てみぃや、むさ苦しい隊長にチャラ男、西園寺なんて薄気味悪いしな」


イズミさんは呆れたように言う。少し言い過ぎではと思うけど…


「ぶっちゃけ、あの中に好きな子とかおんの?」


顔を近づけて聞いてくる。


「もっもう!訓練しましょうよ!」


イズミさんは私の顔を見て盛大に笑う。


「ハヅキちゃんは可愛いなぁただのスキンシップやろ?それに心配せんでも訓練のことちゃんと考えて来てるからっ」


「ウチに任せとき!」と腕を振る。けど、私はすでに少し不安になっていた…


◇◇◇


あたしと両断アズサさんは第2訓練所へやってきた。


「私達はここでやろう。麗未といったな暫しの間よろしく頼むぞ」


「よろしくお願いします!…ア、アズサさん」


あたしはアズサさんの様子を見る、名前呼びに反応するかと思ったけど気にしてないみたい…堅物そうだったから少しホッとする。


「さて麗未、私とお前とでは能力が全く違う。訓練方法はどうしようかと昨日ずっと考えていたのだが…」


昨日ずっと考えてたとか真面目な人だな。


「私から“一本取る”というのはどうだ?」


「え?はい、そんなのでいいんでしょうか?」


「フッ…あまり私をナメてもらうと困るぞ?」


「す、すいません」


あまりに簡単ではないかとこの時あたしは思っていた。そう、訓練が始まるまでは…


◇◇◇


「へぇ第3訓練所にこんなフィールドがあったんだな」


「あぁ、俺たちはここでやるぞ。霧ヶ峰達が山の方を使うと言ってたからな」


「うっす」


そういえば、郷田隊長と手合わせしたのはここに入ったときだったっけ…あれから結構時間が経ったようでそんなに経ってないんだな…


「郷田隊長、早速やりましょう」


と言って拳に炎を纏う。


「はっはっは!そうだな!お前は考えるより動くってタイプだもんな!」


そして、隊長もオーラを纏い始める。

やっぱりすごい気迫だ、それだけで押し潰されそうな感覚になる。

俺は更に炎を纏い、隊長と対峙する。


「いくぜっ」


◇◇◇


「さてこの辺でいいっすかね」


僕と霧ヶ峰さんは第3訓練所の中腹あたりまで来ていた。

霧ヶ峰さんがくるっとこちらを向く。


「さて、速坂っちとの訓練っすけど〜俺と鬼ごっこするっす!」


「え?」


「その避雷針ライトニングロッドを俺に当てたら速坂っちの勝ち、ちなみに何本使ってもいいっすよ〜」


と意気揚々と喋る。


「今日中にですか?」


「そうっすね〜」と言ってニヤッと笑いこう続けた。


「今日中に捕まえられるといいっすね〜」


その顔は余裕といった感じで挑発的に見えた。

僕も言い返す。


「捕まえてみせますよ!」


「良い返事っすね!それじゃあスタートっす!」


と言ったら瞬間、霧ヶ峰さんは僕の目の前から消えた…



こうして第1隊による第4隊の訓練が始まった…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る