第2話 バレるときは家族から

 

 手紙が届いて2日後。


「ねぇ、起きて。兄ちゃん、兄ちゃんったら! 今日は、ドラゴン討伐に行くんでしょ?」


 布団に包まっているオレに、妹であるミズホが必死になって起こそうとする。

 そんなミズホのモーニングコールを無視し続けていると、


「起きて、起きてよ! 起きないなら、ライトニング……」

「おい、なに朝っぱらから魔術打とうとしてんるんだ!」

「お兄ちゃんが起きないから、いけないんじゃん」

「オレに構わず、魔術学校に行ってこい。ほら、いったいった」


 手で払い除ける動作をして、オレはミズホを追っ払おうとする。

「もうお兄ちゃんなんて知らない! 私は学校に行ってくるから! ……あれ、机の上にあるこのお手紙ってなに?」


 怒って部屋から出て行こうとしたミズホが、オレの机の前で足を止める。


「お兄ちゃん、ラブレター?」

「ラブレター? そんなものがあるわけ、あっそれは……」


 ミズホが手にしていたのは、解雇通知が入ったギルドからのお手紙。

 あっ、しまった!


「見ていい? すごく気になる」

「見ちゃだめだ、お子様には刺激が強すぎる内容なんだ。悪いことは言わないから、頼むから開けないでください」

「家族に隠し事はしないっていうのは、この家のルールだよお兄ちゃん?」


 オレのことをそっちのけで、ミズホが好奇心を光らせながら手紙を見始めた。

 確実に詰んだ、しばらくニート生活を楽しもうと思っていたのに。


「お兄ちゃん、かいこって……」

「あー、あれだよ。糸を吐くムシだよ。覚えてないか? シルクの素材だよ」

「嘘を言わないでよ、私は知ってるよ! あれでしょ、ニートの1段階前のあれでしょ? 友達のユキちゃんのパパがそれにあって、動画投稿で稼ぐとか言い始めたらしいもん」


 なんということだ、ユキちゃんパパのせいでバレてしまった。

 これはダメだ、何を言っても嘘を隠すことが出来ない。


「分かった、オレも動画投稿で稼ぐ。例えば……、そうだな。お姉ちゃんを焼き討ちしてみたとかな」

「おっ……、お姉ちゃーん! 兄ちゃんがー、兄ちゃんが変なこと言ってるー」

「おい、冗談だって! おい、ミズホ!」


 半泣きになったミズホは、もの凄いスピードで部屋から出ていってしまった。

 十歳年下のミズホは、何か困ることが起きると姉に頼る癖がある。

 調子に乗ってスカルドラゴンを討伐しに行くことを、ミズホにこっそり教えるんじゃなかった。

 そんなことよりも、面倒な姉に見つかる前にここから逃げ出さないと。


 姉であるスズラン・シノザキは、オレにとって天敵だ。

 魔法と技術の宝庫とも評されるここクンバ帝国で、スズランは帝国本部に属するトップクラスの魔術師なのである。

 才色兼備と評されるが、オレからすれば真っ赤なウソ。

 人を自分の思い通りに管理しないと気が済まない性格、いわば王様タイプ。

 面倒見がいいといえば聞こえはいいが、どちらか言えば調教に近いことをさせる。

 オレはその最大の被害者だ。

 本来ギルドで在籍する魔術師は魔術学校を卒業してから働くのが暗黙の了解であったが、オレは魔術学校を卒業していないにも関わらず在籍させられ、仕事を細々とやらされていた。

 おかげさまで、魔術師として凄く優秀ではあるが魔術は大嫌いという中途半端な人材に育ってしまった。

 そんな経緯があって、オレは魔術と気の強い女性は苦手だ。


 急いで着替えて、二階の窓を勢いよく開けて、外に飛び出ようとするが……。


「ねぇ、おはようも言わず、朝食も食べずにどこに出かけるつもりなのかしら?」

「おいおい、早すぎるだろ」


 窓の外でエプロン姿をしたスズランが、魔法箒にまたがりながら満面の笑みで空中からお出迎えをしていた。

 オレは、この時思った。

 目の前にいる女魔術師の討伐をギルドに申請しておこうと。

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