口は刀より強し!

「わたくしたちに文句でもあるのかしら?言いがかりなんて贈り物までくれたみたいだし。何がお望みなの?わたくしの首を対価にしないと貰えないものでもあるのかしら?」

刺々しい口調で口火を切ったのは結月だ。

戦と言っても、平原に集まって「ヤァヤァ我こそは…」と、あと数百年後に定着するような戦ではない。

彼女の言う戦は"口喧嘩"そのものだ。

そして、彼女が相手にしているのは、刀や太刀でギンギンに武装した武士をまとめる大将だ。

「儂等、武士に対する扱いがなっておらん!そんな天皇など打ち首にするべきだ」

淡々と言い放つ大将、北条は言った。

「え?扱い?わたくしたちが武士の存在を知ったのはつい最近のことです。それに、そんなにわたくしの首が欲しいのならば…。さっさと西に攻め入り、首を取り、さらに西を支配しておけばよかったものを。あなたがたが状況を悪化させているだけで、わたくしたちは知りませんよ」

結月も負けじと淡々と言い放ち、最後は声を低くして言い放った。北条の目が一瞬だけ揺らいだのを結月はしっかりと見届けて、次の句を継いだ。

「何をお礼にすればいいでしょうね…。え?当然、わたくしの首は取れませんよ?あなたがたには攻め入る為のスキルが無いに等しいもの。

わたくしからは…。そうね、あなたがたの家を丸ごと滅ぼせるほどの軍を送り込もうかしら。それとも、骨まで燃やす?家も、領土も全て。いい畑になるんじゃないかしら…?大規模な焼畑農業ができそうじゃないの。そして、あなたの部下も、東国の武士全員も全員滅亡させてしまいましょうか。

天皇の力は偉大だものねぇ。動作1つで武家まるごと処罰できるんだもの。わたくしが逆の立場なら、的には回さないわね。

さぁ、滅亡を阻止したいのならわたくしたちのもとに下りなさい。悪いようにはしないわ。あなたがたは滅びるか、わたくしたちのもとに下るか。2つに1つ」

有無を言わさない剣幕と、冷酷な視線を北条によこすと、少しずつ北条が怖気付いていったのが目で見てわかるようになってきた。

そして、北条の方も理解した。


あの天皇、武士全員の首に刀を当ててやがる。

いつでも全員の首を切れるように。

「あぁ、燃やすだけじゃ足りないわね。"死なせてくれ!"って言うまで刀でじーっくりと刺していきましょうか。度胸が試されるわね…うふふ、楽しそうだわ!」

結月の顔は、完璧に醜い笑みで歪んでいた。結月の部下として来ていた者ですら、結月を恐れておののいていた。

肝心の北条は、がたがたと震え始めている。


何と情け無い。これが武将になった理由が知りたいものだ。


結月は、とどめを刺した。

「私の手に掛かれば…、なんだって切り裂くことができるの。あなたの寿命も、家族も、未来も、全てね」

「わかった、お前の下に下る!だから殺さないでくれ…」

とうとう人格を失ったといってもいいほど威厳のかけらも無くなった北条がひれ伏すように頭を下げた。

「もちろん、いいわよ!」

結月は作戦成功に大喜びで承諾した。

「みんな、見た?口だけでも戦ってできるのよ!!」

この一言で、周りが結月を見る目は賞賛を讃えるものに変わるかと思ったが…。




かわいそうなことに、敵味方構わず結月以外は、ヘビに睨まれたカエルのように、瞬き1つせず、ただ怯えていた。

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