幼ければ、何でも許される説

「かか様!とと様!」

結月はかなり離れたところからぱたぱたと駆けてきた。

結月は順調成長していき、今は3歳。まだまだ幼子だ。

両親のもとへ行くかと思ば、尼そぎの髪を揺らして、庭を駆けずり回りはじめた。そんな結月を朝陽天皇と真昼御前は楽しそうに見つめている。

「いいですね、幼子の成長を眺めると言うことは…。走り回ってるだけで1日が終わるのですから。

今じゃあ、人の前に出ることは愚か、笑うことまでも許されないと言うのに…。といいつつ、わたくしはしょっちゅう笑っておりますがね!」

「しかも、白塗りすらしてない。更に言うならば、十二単なんて儀式の時以外ほとんど着ていないよな?動きやすそうで良いとは思うけれど…。

とことん型にはまってない、むしろ常識知らずの領域だというのに、貴族階級に属している。ある意味では武器だな」

そう、この後2人は「かなり」変わり者だった。

その2人の血を継いでいる結月も、なかなか変わり者の素質があるらしく。

「とと様、かか様!みてください、これ!」

草むらから駆けてきた結月は、握りしめていた手を開いた。

「まぁ!」

真昼御前は腰を抜かした。

1つ目は、結月が土で汚れていたこと。

もう1つは、結月の手の中にバッタがたくさんいたこと。

手を開いたから、当然四方八方に飛んでいく訳で。


侍女は叫び声をあげて逃げ惑い、朝陽天皇は「誰に似たんだか…」と苦笑し、真昼御前は「本当、誰に似たのでしょうか!わたくしには虫を捕まえて遊んだ覚えはありませんわ…」と笑っい、辺りは一時騒然となった。

結月だけは、きょとんとした顔で、逃げたバッタをまた捕まえ始めた。


「幼子の成長を見ることは楽しいですが、毎日大変ですね!それに朝陽様の天然と、言い違いが合わさり、更に結月までにもその影響が及んだら…どうしましょう、笑い過ぎてお腹がよじれてしまうかもしれませんね!」

「いや、将来有望かもしれないぞ。この私のようにっ!」

とドヤ顔をする朝陽天皇。

「この風の吹き方、時雨が降りそうですね…」

朝陽天皇を全力でスルーした真昼御前は、そそくさと中に入った。

残された朝陽天皇は、「雨が降る」という単語を耳にすると、控えていた侍女に、声を掛けた。

「どうかなさいましたか?時ノ宮様」

時ノ宮というのは、朝陽天皇の住む宮のこと。当時、天皇の事を「○○天皇」と役職の名で呼ぶのは大変失礼とされていたからだった。

「車が降りそうだから、時雨をしまっておいてくれ」

と朝陽天皇は言い、結月を抱き上げて真昼御前を追いかけて行った。

当然のことながら、侍女は理解できている様子はなく、必死に考え、やがて1つの答えが浮かんだ。


時ノ宮様は、言い違いをなさった。本当は、『時雨が降りそうだから、車をしまっておけ』とおっしゃりたかったのではないか。


やがて侍女は苦笑した。

「車軸でも降ってくるのでしょうか…。怪我人が出てしまいますね…」

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