第48話

 遠ざかる二つのシルエットは駅の照明で黒い塊から色を帯びた人の形に変わっている。二人は私を置いてどこへ行くのか。二人にしか知らない世界があるなんて信じたくない。世界は一つ在るだけで、彼と私はまだ繋がっていると思いたかった。


 信号が変わった。私は重たく感じるペダルに体重をかけてしっかりとこぎ出す。日常の象徴であるかのような信号の音が非日常な自分には耳障りだった。


 ぎゅんぎゅん風を切りながら、すっかり影の色を捨て去って鮮やかな姿を見せている二人に向かって突き進む。


 頭の中には霧が満ちている。真っ白だ。その真っ白な中に黒い何かがいた。姿ははっきりしなくても、それが何か私にはすぐにわかった。


 ああ・・・とうとう来たのね、死神。


 やっと来たのね、死神。


 待ってたわ、死神。


 二人を裁けるまでもう少し。 


 私に気付いて目を見開いた彼までもう少し。


 望みが叶うまでもう少し。



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死神待つ日々 千秋静 @chiaki-s

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