第2話 かみさまと、かこ

「かみさま、おはようございます」


 人の子は水おけを持ったまま、ぺこりと頭を下げた。下がった頭と一緒に、少しだけ伸びた髪が地に向かって垂れ落ちている。


「おはようございます。私の言いつけ通り、髪を伸ばしたのですね」

「はい、まだまだ短いですが」


 かみさまは人の子の短い髪をそっと撫でた。金色の髪は、天界にある宮殿の玉座の飾りのように輝いている。


「どうしてあなたは髪を伸ばさなかったのですか」

「はい、酒場のおばちゃんのお手伝いに邪魔でしたから」

「それだけではなさそうですけれど」


 かみさまは何でもお見通しだった。人の子の隠し事など、神の目を通せば何でもわかる。ただ神は、人の子の口からそれを言わせたかったのだ。人の子は、少しだけかみさまから目を逸らすと、羞恥の混じった赤い顔で、かみさまに告白をした。


「──髪を伸ばしていたころ、酔ったお客さんに、店の裏に引きずり込まれたことがあるのです」

「不逞(ふてい)の輩に犯されたということですか」


 淡々と言うかみさまに、人の子は赤い顔で首を振った。


「お客さんが自分の服を緩めたところで、命からがら逃げ出しました」

「それで?」

「終わりです。おばちゃんは優しいですけれど──こんなことは言えませんから」


 人の子は怯えの混じった顔をうつむかせる。思い出したことから来る怯え、悲しみ、そして、羞恥。かみさまはそれを見て微笑んだ。


「よく悲しみに耐えましたね」

「いいえ、かみさまがずっとボクを見守ってくださっていたおかげです」

「その時の私はあなたのことを見ていませんでしたから」

「えっ・・・・・・」

「言ったでしょう、一人だけを愛するということは、神には出来ないのです」


 遠回しに石像越しに励ましていたということをかみさまが否定すると、人の子は悲しそうに俯いた。かみさまは笑う。


 ──人の子を犯そうとした男は、今ごろ性器がもげて失血死していることだろう。

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