現代病

@uriwatikayo

TOUCH OFF

若者の〇〇離れ。

現代に蔓延る奇病らしい。


どうやら人間は何かに執着し、その欲求を満たすために四苦八苦

しなければいけないらしく、どうもそんな姿が最も人間らしいと

されている。


もしそんな姿が人間的であるならば、私はとうの昔に人間を

やめているらしい。


12月某日

外は冷え込み、空気は乾燥していて歩いているだけなのに息苦し

さを感じる。

仕事終わりの帰路はその日の開放感と、また明日も今日の繰り返し

なんだろうというダウナーな感情がいりまじり少しめんどくさい。


今年で26の年を迎えてしまった私は人生感が劇的に変化してしまうような

出来事も、些細な日常からほんの少しの刺激を受ける事もなくなった。


ただ決まった時間に起き、働き、食べ、寝る。


私はいつからか、日常を刑務作業のように捉えていた。

生まれてから死ぬまで延々繰り返される刑務作業。


そんな風刺をきかせた歌もあるくらいなのだから

私の考えもあながち外れているわけではないのだろう。


人生の彩りを感じることができなくなっていた。

無欲といえば聞こえは良いかもしれないが、恐らく

私の抱いているそれは諦めに近いものなのだろう。


車を買っても行きたい場所はなく、家を買っても

ローンを完済するまで生きていたいと思わないし、

彼女がいたとしても本当にわかりあえる関係なんて

築くことはできないだろう。


それに私は雀の涙程度の稼ぎしかないので

そんなものは夢でしかない。

(諦めが心底に根付いているせいか夢の中でも私は

車に乗らず、家を待たず、伴侶はいない)


残念な事にそこんな思考を抱いている者が私だけではなく

世間には少なからずいるらしい。

こんな輩はいずれ淘汰されるかあるいは・・・


気づけば自宅であるマンションの前に到着していた。

ほぼ毎日こんな事を考えながら帰宅していては気が滅入るのも

無理はない。

変わらない毎日のほんの一欠片。


しかし、どうやらこの日は私の平坦な日常を取り巻く渦が

歪んでいたらしく、自室の隣の部屋に警察らしき集団が

押し寄せていた。


「あなた、このマンションの住民?」

「はい、そうですけど。何かあったんですか?」

警察はなぜか偉そうに振る舞うからあまり好きではない。


「あなたの隣に住んでた若い女性。どうやら自殺してしまったらしく・・・」

それから、警察は隣人がどのような人だったか等を私に尋ねてきたが

今時隣人と交流がある人間なんて希少価値だろう。

「そうですか。わかりました。最近。若い人の自殺が増えてきているのであなたも何か悩みがあれば警察でも何でも頼ってくださいね。」


・・・・・・・・


警察から解放され、自室の布団の上に横になりながらふと誰に言うでも

ないがつい脳と口が連動してしまったのだろう。

「若者の俗世離れも大概だな・・・」







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