第14話  常磐道

 朗報を待つこと一週間、十一月十五日を過ぎても丸新興業からの連絡はなかった。

 俺は少々焦っていたが、我慢してもう少しだけ待つことにした。


 我慢の限界を越えそうな十一月二十日、待ちに待った丸新興業の正田さんから電話があった。


「入場日が決まりました。十一月二十五日です」

「ありがとうございます。それで何時に何処に行けば良いのですか?」

「午後一時に南相馬市『ごらい』の○○に来てください」

「『ごらい』ってどんな字を書くのですか?」

「牛が来ると書きます」

「うし……?」

 普通『ご』というなら『午』のほうのはず。どうして『牛』になるのだろう。素朴な疑問だが解決はしなかった。


 解決のしない疑問は置いておくとして、どうやってその場所に行くのかを調べることにした。JR 西日本の『お出かけネット』を使って。

 始発駅と終着駅を入力すると、そのルートと発車時間、及び到着時間が明示されるのである。余りにも遠方であり、行ったことのない土地なので車で行く自信がなかったのだ。


 それなのにどうしてなのか、何度やっても答えがでて来ないのである。何故なのか? その時の俺は理由が分からなかった。


 何度も検索をしている内に、ふと思うところがあった。

『まさか、まだ路線が繋がっていないのでは?』

 たしか阪神大震災の時でも約半年で復旧されていたはず。東北大震災からすでに四年半以上も経っている。まだ繋がっていないとは思いもしなかった。


 しかし俺は、自分が除染作業員として福島に行こうとしていながら、原発事故のことを失念していた。

 放射能汚染によって、復旧したくともできないことに思い至らなかったのだ。堪らなく自分が情けなくなった。


「そういうことか……」

 理由は分かったものの、ではどうやって行くのか? 俺の悩みは尽きない。

 とりあえず、丸新興業の正田さんに訊くことにした。


「正田さん。南相馬の原町駅にはどうやって行けば良いのですか?」

「常磐道で南相馬まで来れば直ぐだよ」

「……」


 俺は車ではなく、電車の繋がっていないところをどうやって行けば良いのかを訊ねた積もりだった。しかしこの答えでは車で行くしかないようである。


「車で行って宿舎に駐車場はあるのですか?」

「ここを何処だと思っているんだ。車なんてどこでも停められるよ」


 これを聞いて俺は、もう車で行くしかないと覚悟を決めた。


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