自分を詠む

 ワタクシの住んでいる地域の新聞の短歌投稿欄の選者は道浦母都子さん。道浦さんにはなかなか採ってもらえない。頻繁に載る方もいらっしゃるが、私の場合、4,5か月載らなかったりする。

 比較的「無難」な作品を送っているからかな、とも思う。冒険したもの、尖ったもの、黒い部分を詠んだ(と思える作品)は避けている。この新聞は私の家族、職場の人などが読んでいるので、恥ずかしい、という気持ちがあるのだ。本当はもっと私生活や仕事について詠んだもの、赤裸々なものを道浦母都子さんに見てほしい、という気持ちはあるのだが。

 そんな中、久々に掲載された短歌がこちら。しかもいきなり月間歌壇賞である。


グーをした拳みたいなカチカチのご飯をほぐす今日も一人だ


 歌壇賞は去年に引き続き二度目。一度目はひたすら嬉しかったけど、今回はちょっぴり戸惑いと恥ずかしさが混じる。うわあ、これが選ばれたのか……。

 未婚、子ナシの自分の生活を詠んだ作品はいろいろあって、これもそのうちの一つ。正確には一人暮らしではないのだけれど、家族が入院中の時の状況を詠んだ。

 短歌は、「自分を赤裸々に表現することに特に適した芸術表現の一つ」だと思う。私は、人の私生活を短歌を通して読むのが大好きだ。私が注目してチェックしている常連投稿者の中にも、自分と同じ介護の仕事を詠んでいる方、コンビニ店員をしている方、ガンの闘病生活をしている方等々生き様が見える作品を詠んでいる方々がたくさんいらっしゃる。それなのに、自分の生活を歌を通してさらすことに臆病になっている。「恥をさらす」ことをためらわないよう、そろそろ腹をくくらなければ半端な表現者に終わってしまう、とも思う。

 これまで、自分自身の生活を詠んだ作品は以下のものがある。


洗濯槽凍える母と私とが身を絡ませてじっとしている(毎日歌壇・米川千嘉子選)

合戦に敗れた平家の残党の髪型で朝ゴミ出しに行く(毎日歌壇・伊藤一彦選)

月曜はスパイに命狙われるKの朝食作りに行く日(NHK短歌・佳作・松村由利子選)


 3首目、何のこっちゃと思われるかもしれないが、介護の仕事の歌。統合失調症で自分は命を狙われていると信じている方の家に訪問していた頃の体験をもとに詠んだもの。

 もっともっと私生活のディープな部分や赤裸々な感情を詠んだものもあるが、手帳の中に留まったまま、どこにも公表出来ず腐敗臭を発しているのである。

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