キラキラはワクワクの種である

達見ゆう

きらきらは素敵

 ある日曜日の昼下がり、僕はおじいちゃんに頼まれて用事をこなすことになった。

 おじいちゃんの友人に会いに行き、品物を預かってくるという単純なものである。

 直前になって、おじいちゃんがぎっくり腰になってしまったので、マンガを読み、ゲームをするという忙しい僕に代行の白羽の矢がぶっ刺さったのだった。


「はあ、やれやれ。忙しい小学生にお使いさせるなんて。ま、モンスターを時々拾いながら行けばいいかな。」

 僕は誰に言うともなく愚痴った。さっさと用事を済ませるに限る。それにしても、背中が蒸し暑い。品物を入れるために必要だと、なんだかごっついリュックを背負わされたからだ。おかげで桜吹雪が舞う季節なのに、僕だけが初夏のように汗を吹き出している。


 目的の吉田さんの家の位置に近づいてきた。民家ではなく骨董品の店構えがある。「骨董品よしだ」の看板があるから、ここがおじいちゃんの言ってた家なのか。骨董品屋なんて初めてだ。

「すみませーん…。」

恐る恐ると引き戸を開けて店内に入る。

「いらっしゃい。」

 店内には太ったタヌキのような和服姿の男性…いや、確かこういう人のことを「かっぷくがいい」と言うらしい。カップはわかるが、“く”が付くのが意味がわからない。あとでウィキペディアで調べようかな。

「何かお探しかな?」

 店主らしいおじいさんの声でハッとした。そうだ、おつかいを言わなくちゃ。

「あ、あの、僕、おじいちゃんのおつかいで品物を引き取りに来ました、石川といいます。」

 緊張してようやく用件を言うとおじいさんは、ああ、という顔になった。

「ああ、ああ、石川さんね。おじいちゃんがぎっくり腰になったから、孫が行くと電話があったけど、君だったのだね。

 うーん、君だとちょっと重たいかもしれないけど大丈夫かな?」

 重たい?そんなものを子供にお使いさせるなんて、ひどいなあ。と、思う間もなくおじいさんが出してきた物に目を奪われた。

 キラキラと金色に光る石がいくつもある。もしや、金塊?!

「そ、それってき…。」

 僕が尋ねようとした時、おじいさんが後ろに回ってリュックの蓋を開けた。

「丈夫なリュックを用意してきたね。よし、これなら破けないだろう。」

 そう言いながら、先ほどの金色の石を沢山入れていく。金を背負うなんて初めてだ。って、こんなに金を買うのならお金を払わないといけない。でも、おじいちゃんはお金は持たせてくれなかった。だんだんと僕は不安になってきて吉田のおじいさんに聞いた。

「あ、あの、お金は?」

「ああ、おじいちゃんから聞いてないかい?これは蔵出しをしていたら出てきたのだが、要らないものだから捨てようとしてたのを、君のおじいちゃんが譲ってくれと言ったのだよ。お代はいらないよ。」

 こ、こんな金塊が売れない?!タダ?!なに、このうまい話。うち、大金持ちになれるじゃん!この人の気が変わらないうちに急いで帰らなくちゃ!

「じゃ、気をつけて帰るんだよ。」

「はい!ありがとうございました!」

 挨拶もそこそこに僕は家に急ぐ。これで大金持ちになれたら、僕のおこづかいもたくさんアップするに違いない!そうしたらゲームもマンガも沢山買える!

「やったー!!大金持ちぃ!」

 背中の荷物は重たいのに、不思議と気にならずに走って帰っていた。


「ただいまー!おじいちゃん!もらってきたよ!」

「おお、ありがとうな。見せてくれるかな。」

「うん!」

 僕は得意気に中の金塊を出していく。おじいちゃんは嬉しそうにそれを見つめた。

「おお、なかなかいい形の黄銅鉱だな。ふむ、これもなかなかきれいな結晶だ。」

 え?おうどうこう?金じゃない名前だ。

「え?おじいちゃん、これは金じゃないの?」

「ああ、見た目はそっくりだが銅だよ。まあ、売られているが金よりもはるかに価値が低い。」

 僕はひどくがっかりした。大金持ちの夢が…、ゲームやり放題の夢が…、マンガ読み放題の夢が…、全部ガラガラと崩れて消えていく。あんなにダッシュしたのは、無駄骨だったということだ。なんだか一気に疲れてきた。

 みるみると萎れた僕を見て、おじいちゃんは察したらしく、カラカラと笑った。

「もしかしたら金だと思ったのか?残念だったなあ、大金持ちになれなくて。まあ、そんな気を落とすな。この黄銅鉱をやろう。三角式黄銅鉱と言って珍しいやつだから、それなりに価値があるかもしれないぞ。」

 そう言って僕に小さなピラミッド型の金…いや黄銅鉱を一個くれた。確かにこれが自然にできたものと言われると不思議な気がする。

「はあ~、黄金のピラミッドか。」



「ピラミッドがある!」

「こら、陽介。パパの大事なものを触っちゃだめよ。パパに一言言わないと。」

「でも、パパ寝てる。」

「あらあら、また石を見ながら飲んで寝てしまったのね。しょうがない人ね。

「ねえ、この石なあに?ピラミッドみたいで金みたい。」

「これはね、黄銅鉱という石よ。パパのおじいちゃんからもらったそうだから、陽介のひいおじいさんね。」

「キラキラと綺麗だね。」

「そう、この綺麗さにハマって、今やパパは地質学者になっているのよね。」

「パパ、石大好きだもんね!」

「本当に石が好きな人よね。」

「さ、陽介ももう寝ましょう。ママはパパを布団まで動かすから。」

「うん!」


 うたた寝している男のそばで、キラキラと光るあの日のピラミッド型の黄銅鉱。

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キラキラはワクワクの種である 達見ゆう @tatsumi-12

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