11 ブラックコーヒー

あの日はふだん飲まないブラックコーヒーを頼んだ

一人になったから

強くなるために手っ取り早いから

口にひろがる濃黒の液体と

鼻に抜けていく苦い香りが支配する


こんな一杯で変わるとは思わない

それでも「大丈夫」と答えた自分は

自ら奮い立たせるしかない


何一つ大丈夫じゃなかった

どうして自分を置いていったのか

なぜあの人は消えることを決めたのか

正解はどこにもないから

◯のサインは用意されていない

だけど×も見渡す限り無いから

もがいて溺れても息をするしかない


最後の一滴は滑り台をたのしむように落ちていき

ストローは力なく香りを集め出す

蓋をはずして乱暴に逆さにすれば

諦めたようにこぼれてきた2滴

喉を抜けたら体の一部と同化する


だからといって変わるとは思えない

「大丈夫」と答えた自分に笑う

空っぽのカップは手に余るから

あのゴミ箱まで数歩

それが始まりの歩み

よし、行こう

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