10 3月の雨

氷雨ぽとぽと落ちる滴

いつも左肩が濡れるんだ

傘はななめに持つクセが抜けない

右側に持ったカバンは無条件に大切にされる

ただ自分が右利きというだけで


春が待ち遠しいと至るところから響く

何故こんなにも春は歓迎されるのか

無色だった真冬の景色がぽっと赤らむ

それは倒れた人の血肉を咥えているからだと

祖母はいつも言っていた


体の奥は鋭い針で刺されたように痺れ

指先は借り物のように動かない

雨は今日も容赦ない


それでも3月の雨はすきだ

これから色づく季節を迎える前に

洗い流すような、とめどなく注がれる

それでも後にはまた朱が重なるんだ


春が待ち遠しいと嫌でも耳に届く

何故こんなにも強制的に歓迎しなくてはならない

そこはどうして幸せだと言えるの

笑みを浮かべてやってくるから一歩下がりたくなるんだ

だからもう少し、左肩は濡れていたい

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