08 夕焼け

忘れられない人がいる


今が不幸せなわけではない

多少の不満はあれど

日々穏やかに過ぎていき

それなりの幸せを感じて

それでもふとした時に強烈にあの頃へ揺り戻される


どこか自分の体に糸がくくりつけられていて

誰かが力任せに引っ張り出す

堪えきれずよろけると

とたんに持っていかれてしまう


断片的な記憶がパズルのように

ざわざわと組み合わせ始めて

望んでもいない景色がフラッシュバックして

意図的かのように紐付いた現在と過去

待って

自分は戻りたいと言っていない


あのとき見た夕焼けは今も鮮明で

高性能なムービーを見ているように

幾度となく変わらないシーンを繰り返す

思い出せ

そう責められているようで怖くなる

同じ夕焼けはもう無いのに


なんでだろう

美化されたあの頃は甘酸っぱくて

くらくら酔いそうな香り

騙されないように足に力を込める


伸びて重なる影と

オレンジ色と青が混ざる空と

ゴツゴツした道のそば

変わったのは景色だけじゃない

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