第9話 続々ハゲがバイトする

頭を晒した僕は、ヘルメット内で酷い表情をしていた。

ここでもハゲの烙印を押されたまま生きていかないといけないのだ。やっと少し解放されたと思っていたのに、全てぶち壊しだ。

何が宅配だ、考えた奴は死ね!


またこの絶望感に苛まれることになった。安住の地はないのか。


その日は、バイクは練習だけで、通常の仕事をして終わった。努めていつも通りに働こうとしてはいたが、頭の中はハゲがバレたという恥辱でいっぱいだった。

周囲の人は何もそれについて触れなかったが、心なしか腫れ物に触るような雰囲気であるような気がした。


バイトを終えた後、僕は辞めるかどうかを考えていた。これから先、晒し者になりながら働くことに耐えられない。

しかし、いきなり辞めるのもいけないという思いもあった。やっとお金が入るようになり、育毛剤も購入できるようになったのだ。バイトを続けなければ、購入費が払えない。

それは毛根との決別を意味する。


悩み抜いた末、翌日出勤した。

バレたからなんだ!ハゲがなんだ!別に犯罪者じゃないんだから、気にすることはないんだ!


そうやって自身を奮い立たせた僕は、職場の扉を開けた。

そこには、おばさん達の輪があった。僕の顔を見るなり、互いに一瞬だけ目線を合わせ、その輪はすぐに解散した。

僕は直感した。

頭の話をしていたな、と。

ハゲていることを話していたな、と。


懸命に奮い立たせた気概が、この瞬間に消えた。

これからこのまま働いていくと、噂され、笑われ、おばさん達どころか夜のシフトの学生達にも僕がハゲているという話が広まるだろう。自分の惨めさは充分に想像できた。


耐えられなかった。

この辛さを理解できないフサフサ達を僕は呪いたい。髪の毛を失ってしかわからない辛さなのだ。

映画やアニメでは、何かを得るためには何かを失わなければならないなどと悪役が口にするが、これすら綺麗事にすぎる。

髪の毛を失っても得るものは何もない。髪を失うと自信も金も時間もあらゆるものを失う。


僕はバイトを辞めた。

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