第4話 続・神様がいるならば

それから僕は警備員として働いた。

接客業のように一日何十人とも会うわけではなく、職場内で同僚と会話しないといけないでもない。

色々と嫌なことはあったがそれはまたの機会にして、数年間働いて感じたことがある。


「ここで人生終わるのが不安。」


そういうことだ。全く成長しない。成長しないだけならいいが、給与も最低賃金とピッタリ同じという状況。

会社側が「次から時給を上げます!」と、声高に伝えてきて少し恩義を感じそうになっていたら、それは単に県の定める最低賃金が上がったから法律上上げないといけないだけだったりした。


このまま、40歳、50歳となれば、もはやこの会社から抜け出せないだろう。一生をこの社会から落ちかけた人間の1人として終えることになるだろう。


そんな予感がして寒気を覚えた。


しかし、高卒でニート期間長い自分が、まともな会社に雇ってもらえるはずもない。

雇ってくれないなら、自分でやるしかない…。

そう決心してから、少ない給料の中でも貯金をしようと努力した。


人付き合いは苦手だが、どうしても寂しい時がある。そんな時、友達作りサイトで誰かと会ったり、たまに数少ない友人から居酒屋に誘われた時に飲みに行ったりしていたのを、グッと我慢するようにもした。


月に平均して1万円程度をコツコツと貯めて、ついに30万円まで貯まった頃に転機が訪れた。

仮想通貨ブームだ。


上手くいけば数十倍、数百倍になる。

中には「億り人」と言って、1億円を突破する人間も多く存在している。


色々ネットで仮想通貨の将来性を調べ、2020年の東京オリンピックまでは暴落と暴騰を繰り返しながらも、平均的には値上がりしていくと結論した。

宝くじを購入したり、競馬にかけたりするよりは遥かに1億円以上稼げる可能性が高いと思う。


すぐに口座を開いてなけなしの30万円で仮想通貨リップルを購入した。

しばらくするとその価値は上昇し、50万円以上の価額になった。

僕は興奮の毎日だった。チャートを見ては上がり下がりに一喜一憂し、それでも徐々に増えていく資産。

底辺の人間として、人生を終えるかもしれないと半ば諦めていた所に、起死回生のチャンスが巡ってきたのだ。

ある日、60万円台に価値が上がったときは、やっと人生が変わる、元に戻れると思った。

都合が良いかもしれないが、この時、神を信じた。僕を見てくれていたのだと感じ、今までの非礼を詫び、感謝の祈りを捧げた。


それから数日後、自分の使っていた会社から仮想通貨ネムが500億円以上ハッカーによって盗まれる事件が勃発。

俗に言うコインチェック事件だ。

全仮想通貨が大暴落し、それどころかコインチェック自体が潰れるかもしれず、投資したお金は引き出せず、むしろ会社が破産したら一円も返ってこなくなる可能性まであるという。


僕は泣いた。

仕事中の車の中で号泣した。

なんで僕がこんな目に遭うのか。理不尽なことばかりの人生で、やっと少しだけ希望が持てた瞬間にこの仕打ち。

前世でそんな悪逆非道でも働いたのか。

神はいない。というより、神は僕をいたぶって楽しんでいる。こいつには二度と感謝しない。あの時、神に詫びた自分が情けなくて仕方がない。

こいつは、僕の心を壊しにかかっている。

もう、ダメだ。もう本当にダメかもしれない。お願いします。コインチェック、お金返してください。

もうあのお金を貯められる気力がないんです。ほとんど友人のいない僕が、唯一飲みに誘ってくれる人の誘いを断りながら貯めたお金なんです。このままでは本当に友人が居なくなってしまいます。

もし、また貯めても、40歳近くになります。その頃から何かやろうとしても人生だいぶ終わりに近い。元気がない可能性もあります。


どうか、どうかお願いします。

僕に希望をください。。

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