第2話(番外編)トキジとトシヤ


「トキちゃん!頼むっ!頼む!


俺、俺、俺!俺だよ!わかる!?久しぶり!俺!俺!俺だって!」


なんだよ。音信不通(というか、都合のいい時ばかり電話してくるから嫌になり。一方的に俺が無視した。)から、20年以上経ってるというのに。俺俺詐欺みたいな奴だな。久しぶりに、電話かけておきながら、また頼み事かよ。


「なあ、頼む!一生の、本当に一生のお願い!お願いだからっ!俺をかくまってくれ!何故かはよくわからないけど、俺!横領疑惑かけられてて逃げてるんだ!」


なあ。お前の一生のお願いって今までどれだけあった?俺、今までお前の一生のお願い893回位は聞いてると思うんだけど?


なんで、お前からの一生のお願いを数を正式に覚えてるかというとノートに正の字で毎回数えてるからなんだけどね。よし、これで894回目の一生のお願いだな。俺は、ノートに少し得意げな顔をして横線をスッと引いた。


「あのさぁ、俺はいつもあんたのせいで、訳のわからないことに巻き込まれると思うんだよね。

俺、本当はそういうの嫌だったからずっと電話出なかったんだけど。」


「じ、じゃあ!今回は、何で電話とったんだよ!」


「いや・・・流石にテレビであんたの姿を見てしまったからさぁ。流石に、これはヤバイなと思って。」


「だろ?だろ?だから、頼むってぇぇ!今、お前の家の前にいるの!マンションの前!おい!早く、部屋の番号!番号を早く教えてよ!」


「はぁ?なんであんた!俺のマンションの場所知ってるの?!」


「小春に聞いた!」


「はぁぁぁ?小雪って、あの小雪?小春に電話かけたの?あんた、昔あんな事があったというのに小雪によく電話かけられるよね・・・。その神経が俺には理解できないわ・・。」


ちなみに小夏とは、うちの職場にいた女の子で俺が本気に好きになった女性だ。小夏は一見控えめそうな雰囲気だが、時折大胆な行動をする彼女の姿にギャップ萌えしてしまい、徐々に彼女の事が気になる存在になっていった。


どのように彼女が大胆なのかというと、一見真面目そうな薄メイクと黒髪メガネの割に、時折シャツの第二ボタンを開けて出勤してくるといった姿や、ベージュカラーのストッキングがよく見ると時々網タイツといった所だろうか?


他には、普段は物静かなのに「白岩さん、どうしてそうなるんですか?!普通に考えて、その発想はおかしいってわかりますよね?」と、ヒステリックに声を荒げたりするギャップに気づけばハマってしまったのだ。


俺は、唯一の友達である年也に小夏との事を相談すると、「俺、小夏とは幼馴染だから協力してあげるよ」と言われた。まさかの偶然だったのだが、実は年也は幼い頃からずっと一緒に小夏と踊りを習っていて幼馴染だったそうだ。


しかし、ほんの一時でも年也を信じた俺がバカだった。年也は、あろう事か小夏と俺の仲を取り持ってくれる所か、まさか年也自身が小夏とワンナイトラブをしてしまったなんて・・・。


その後、年也は小夏をポイ捨てした挙句「なんか、小夏が悩んでるらしいから、トキちゃん相談のってあげたらいいんじゃない?病んでる女は、落としやすいって昔から言うじゃない。」と言い放った屑である。その後、小夏は年也のせいで鬱状態になり・・・。


この時俺は、年也を一体何度呪っただろうか。思わず、Amazonで呪いの藁人形セットを25体位買ってしまった位だ。結局、呪いの儀式なんて出来るような度胸なんかないし。夜は体のためにも22時には寝たいから、結局クローゼットの中に呪いの藁人形キットが大量に保管されたままだ。


俺は、あれから自分の恋が進展する訳もなく、小夏の恋愛相談にのる立場、つまり結局は単なる話し相手程度の関係をズルズルと続けてしまった。気がつけば、小夏はそのまま他の男性と職場恋愛して結婚していった。


その後も、小夏と俺は友人としていい関係は続いているが…。あくまで関係は小夏の友人としてであり、男として見てもらえる事は一度も無かった・・。


「とりあえず!いいから!いいから!早く!早く!早く!トキちゃん!トキちゃん!早く押さないと!

だから、いつまでたってもダメなんだってばっ!はやく!はやく!トキちゃん!」


煩い。頼むから、大声で俺の名前を呼ばないでくれない?はっきり言って迷惑だから。やっとの思いで買ったマンションの玄関で何度も俺の名前を言うの、正直辞めて貰えないだろうか。


近所迷惑になってくると、折角大金叩いて購入したマンションに暮らし続ける事が出来なくなってしまうかもしれないし、正直困るんだよね。


ほんと。あいつ自分の事しか昔から考えてないよな。それは、今も昔もずっと変わらない。


これ以上、煩い騒動になるのが困るので、渋々俺は部屋の番号を年也に教えることにした。


年也は、時次のマンションの一室に上がり込むなり、「ねぇ、何かないの!?なんか?!ごはんある?」と、勝手に冷蔵庫を開けて好き放題取り出しては、俺の「あー!明日の為にとっておいたプリンとかー、あと、その牛肉とか・・・」の言葉を無視して、ガツガツと冷蔵庫の中のものを取り出して突然ムシャムシャと食べ出した。全く、どこまでも厚かましい人だ。


ほんと、こういう無神経というか何というか・・・。

こんな男を助けた俺がバカだったんだって、今まで一体何回思った事だろう。そして、何度裏切られて来た事だろうか。


「なぁ・・・。なんであんた今日テレビに出てるんだよ・・・。しかも、横領事件てさ・・・。


元々、いつも年也は人の気に入った女を横取りしてきたような奴だから横領っていっても俺自体はそんなに正直驚いてないんだよね。


でも、この連日のニュースはさぁ。さすがにマズイよ。君、だって有名人の娘がただでさえいるというのに、娘の事を思って・・・(ブツブツと、続く)」


「はぁ?久しぶりに会っても、どうしてこんなにトシちゃんはブツブツうるさいの?!もっと、大人しく困った人を助けられないの?


それに俺、何も悪いことしてないし。たまたま、うちの娘の仕事の関係者にある人紹介されたんだよね。その人が、娘さんを是非うちのスポンサーにとかいってきたんだ。で、娘のキララをCMに出させてたんだけど。


その後、その女社長さんと俺が色々あってさ。何でも、俺の端正な美しい顔が凄く気に入ったんだってさ。それから、女社長は俺に外車とか高級マンションとかくれるようになったんだよね。あと、おこずかいとか・・。


全部、俺がどうのこうのじゃなくて娘さんのCMのお陰で、うちの会社のイメージアップに役立って、売り上げが上がったからとか何とかって理由なんだってさ。ただ、俺が女社長と交流を重ねた事がキッカケで、俺の娘に色々スポンサー紹介してもらえることになってさ。


気がついたら、あれよあれよという間に。うちの娘CM13社とかなっちゃった訳よ。


で、俺も調子乗っちゃって。これは、俺のお陰だろ?と思って娘からもチョイチョイお金貰って、ラスベガスや競馬で数億円ポイしたりとか・・。


やがて、娘がテレビに出るたびにどんどん態度がおかしくなったりするの見て、俺は娘に対して怒ってやったんだよ。


それじゃ、いつか人気落ちた時に叩かれるぞって。それに、俺の言う通りにお前は仕事していればいいって伝えたんだ。そうすれば、必ずお前は失敗しないからって。


そしたら、「あんたなんかに怒る資格はないわよ。」って、逆ギレされたんだよね。だから、引っ叩いてやったんだよ!あいつが、俺に生意気たれるからいけないんだよ。


誰が裏で動いたお陰で、お前こんな売れっ子になったんだよ!ってね。


そしたら、あいつときたら「別に、私は売れっ子にもなりたくもないし女優にもなりたくもなかった。


ただ、いつも遊んでばかりで家にいないパパに好かれたかったから。家はパパが職を転々とするし、お金ないから私が稼がないとと思ってたの。私が頑張れば、パパは家に戻って来てくれると思った。


だから、ずっとこうして一生懸命お仕事頑張ってきたけど、頑張れば頑張るほどパパはおかしくなっていった。


ママもおかしくなって、結局家を去っていった。だんだん仕事を一生懸命やってきた事が、やり切れなかったの。


気がつけば、周囲の人達にワガママいったり、当たり散らしてた。周りは、私が売れっ子のゴリ押し中女優だから仕方ないって全部許してた。


だから、私はどんどんワガママになって態度悪くなっていったの。だけど、心の底では『おねがい。だれか、叱ってよ』って。心の中でずっと泣き叫んでた。けど、結局だれも私の事を叱ってなどくれなかった。


本当に、私の事を思ってくれる人は何処にいるんだろうって・・・。ずっと考え続けるようになったのも、ちょうどこの頃だったのかもしれない。


どんどん最悪になっていく自分が嫌で。もうこんな仕事辞めたいんだけど、気がつけば私は沢山のスタッフに囲まれて仕事しているって事に気がついたの。だけど、周囲の迷惑も全部踏まえた上でもう耐えられないって思って全部捨てたくなって、この仕事辞めたいですって社長にいったの。


そしたら、社長に二時間も積極されちゃった。『一体、誰の為にこんなに宣伝費使ったりして売り込んだとおもってるんだ』って言われて。


なんかもう、私はどうしたらいいのかわからない・・・」


と、突然大泣きして崩れちゃったんだよね。


今まで、ずっとキララは有名になって一番になりたいんだと思ってたしそれが幸せだと思ってたんだけど、実は違ったみたい。


やがて俺も、こんな事ばかりしてはダメだと思ってさ。女社長に、「この関係、もう辞めません?」て、言ったんだ。


そしたら、女社長逆ギレしちゃってさ。週刊文秋に、俺が不利になるような記事を売り込んじゃって。


そこから、気がつけば何か俺が大金横領してるみたいな話になってて・・・。俺が女社長に枕営業する事で娘が仕事貰ってるとかいう話になってて・・・。なぜか、俺のせいなのに娘まで叩かれてさ。


なんか、俺も訳がわかんないんだよ。つまり、騙されたって事・・・。」


いや、おい。まて。こいつ。なんで、被害妄想みたいな話になってんだよ。全部、自分が巻き起こしてきたことじゃないの?


横領とは少し確かに違うかもしれんが。女社長に、枕営業してたのは事実だよね?しかも、その事に対して全く罪の意識もない所か、悲劇のヒーロー気取りなのは何故故?娘もやるせないよね、こんな不甲斐ない父親がいたら。なんか、段々年也の娘に同情しちゃうよね。


あー、年也は本当に困った人だな。しかし、この人をこのまま放っておくわけにもいけないし。


「なぁ、あんた。娘さんには会ってるのか?」


「いや・・・。あの大喧嘩から。もう会ってない。どんなに電話かけても、もう出てくれない・・・。」


「奥さんは?」


「知らない。ずっと前にどっかいったんじゃないの?」


「はぁ?何であんたそんなに他人行儀なの?自分の事でしょ?」


「うるせーよ!」と、年也が言った途端。突然、年也は胸をギュッと抱えて苦しそうにうずくまりだした。


「お、おい・・・。どうしたんだよ。」


突然、年也は体を震わせながらポケットから小瓶を取り出し数粒の錠剤を飲みだした。思わず、俺は水を入れて差し出した。物凄い勢いでゴクッと飲み干み、ハァハァと息を荒げる年也。すると、次第に年也の体がガクガク震えている。どうも、年也の様子がおかしい。


「なあ、お前・・・。まさかそれやばいクスリじゃないよな・・・。」


「馬鹿野郎・・・。ちがうよ。アンタが思ってるようなやばいクスリじゃないから安心しろって。ちょっと、俺の体が最近悪いだけだから。病院から処方されてる薬を飲んでるんだよ・・。」


年也が飲んでいたクスリは、どうやら俺が思っていたようなヤバイクスリ(=覚醒剤)では無かったらしい。しかし、年也に「何故薬を飲んでいるのか」を問いただすと覚醒剤以上にヤバイ事実が判明したのだ。


「実は俺、どうも余命あと一週間と医者に宣告されたんだよね」少し重い顔をして、ポツリと年也が答えた。


おいおい、本当に余命一週間なの?だったら、20年以上ぶりの俺なんかに何でわざわざ会いに来たんだよコイツ。もっと他にやること一杯あるだろうが。例えば、嫁に会うとか娘に会うとか・・・。


なんで。よりによって、何十年も昔にいつも散々使いパシリにしては、ボロ雑巾のようにしてきた俺に会いにくるんだよ。


しかも。なんで、こいつ久しぶりに家に来て。

俺の家で、散々飯食べながらWIIやってんだよ「おーい。酒ねぇのかよー。この家はぁー!」と、人の家で大声だすなよ。


仮にあんた、元々ヤバイことに首を突っ込んで今マスコミとか警察とかから色々逃げてるんでしょ?犯罪者としての自覚も無いとか。なんかもう、ムチャクチャだよこの人!


不摂生。破天荒の繰り返し。全てが寿命縮める事に繋がるんだからね。俺みたいに、コツコツ毎日青汁飲んで、サントリーのセサミンのサプリとか一汁一菜とか意識して、夜は22時には寝て。酒もタバコも吸わない。


健康って、日々の積み重ねで貯金されていくんだよ。お金だってそうさ。コツコツ真面目に、大手企業で仕事してきた。さほど出世こそしなかったものの、大手企業は福利厚生も素晴らしい。俺が務めてる企業なら、きっと大手企業だし退職金だって良いはずだ。


マンションのローンは殆ど支払い終えてるから、俺はゆとりある老後だって叶えられるんだ。少しでもお金が貯まったら、すぐ繰り上げ返済に回して少しでも住宅ローンの金利が低くなるように奮闘してきたからね。先の事をずっと考えて、俺はこうやって生きてきた。


お前みたいに、今が楽しければそれでいいだけで生きてこなかったんだよ。


だから、きっと俺は将来だって安泰が約束されてると思う。俺は、お前とは違うんだ。


昔から、ずっとこうやって思っていたんだよ。隣で、好きなように踊って遊んで暮らすお前を見てはいつか絶対に最後に笑うのは俺なんだって。お前なんかじゃないって。俺は、それだけを信じて。ずっと生きてきたんだよ。


俺の初恋。生まれて初めて、本気で好きになり、憧れてた小夏を・・。本気で愛した女を、散々コケにした男・・。


あの時。俺は、どんなに辛かったことか。お前には、わかるわけないよな?既に、顔が真っ青になりながらもなお人の家で平気でゲームしてる男は、一週間後に死ぬのだ。


ざまあみろ。今まで俺をコケにしつづけてきた、これは、天罰なんだよ。俺は、年也の後ろでほくそ笑った。やがて、年也はボソッと俺に話しだした。


「なぁ・・・。そういえばさ。小夏には、お前ちゃんと気持ちとか伝えたんだっけ?」


はぁ?この後に及んで何を言ってるんだよ。お前、自分のしたこと。わかってんのかよ。虫酸が走る思い。胃の中を蛆が這いずり回るような気持ち悪さ。


ゆるせない。ふざけるな。俺は、後ろから年也を思い切りキッと睨みつけた。


「おいおい。そんな怖い顔すんなよ。あの時は、俺が悪かったよ・・・。俺も、そんなつもりじゃなかったんだ。


本当に、トキちゃんと小夏の間を取り持とうって思ってたんだよ。本当だよ。今となっては、信じて貰えないかもしれないけど。


だって。トキちゃんなかなか自分から動かないからさぁ。俺が何とかしないと、どうにもならないって思ってさ。それで、トキちゃんの職場で用事を装って行ってさ。


トキちゃんに、キッカケ作るようにしようと思ってただけなんだけど。


間違えちゃった。どうも、俺が昔から小夏に好かれてた事を知るキッカケになってしまった。いや。俺。そんなつもりじゃないんです。本当すいませんっって、何回も言ったんだけど。


ぶっちゃけ、小夏の事はさほどタイプでもないんだよね。なんか、小夏って急にヒステリックに怒り出すし几帳面すぎるしメンヘラっぽいというか。だから、昔から気を使って上手く煽ててたんだよね。小夏の機嫌を損ねないようにね。


まあ、俺からすればめんどくさいタイプ?正直苦手というか・・・。トキちゃんはギャップ萌えっていうけど、俺は正直わかりやすい性格の女性の方がいいんだよね。


どちらかというと、俺は小夏よりも他にいいなって思ってた女の子がいたんだよね。小春って名前の女の子でさ、美人で自由奔放な所が魅力的でタイプだったんだ。表情もクルクル変わって、可愛かったんだよ。


小夏には、「ごめん。俺、小夏とはやっぱり深い仲になれない」って言ったら、うわぁぁって泣き出されたんだよ。


正直、どうしたらいいかと思ってすごく悩んだんだけど、まぁ昔からの幼馴染だし放っとけなくてさ。「とりあえず飲まないとやってらんない!」とか喚きだしたので、このまま放っておくわけにもいかなかったし仕方なく付き合う事になったんだけど。


なんかあの時。どうも俺、小夏に飲み物に睡眠薬入れられてたらしくて・・・。


気がつけばさ、あの。あ、朝だったんですよ。俺しらない間に、裸にさせられてたみたいなんだ・・・。


小夏ときたら、そんな俺の光景を見て隣でニヤニヤ笑ってて。「ずっと昔から、こうしたかったんだぁ」って。おれ、やっぱりこの女はヤバイと思って鳥肌たった・・・。」


・・・は?なに?どうゆこと?


「なんか、トキちゃん。すごい小夏の事を理想の女性みたいに崇めてるみたいだけど、実際に本当の彼女の事を知ろうと思った事ある?歩み寄ったことあるの?


見た目と妄想だけで、美化してない?

そんな美化した妄想の女性と、今まで新たに出会った女性と比べては切り捨てるなんてさ。はっきりいって、本当に勿体無い時間を繰り返してたんだと俺は思うの。


トキちゃん。もっと、現実を見ないと。現実を生きないと!


あの時。トキちゃん、俺にブチ切れて俺の話も聞いてくれようとしなかったじゃん?


まあ、俺も、悪い冗談とかいったから悪かったのかもしれないけど。


あの時の事、いつかこうしてちゃんと話して、謝りたいって。本当に、思ってた・・・。

だから・・・。ごめん・・・。」


・・・なんだよ。なんで、突然現れて余命一週間とか言い出して。しかも、もれなく賄賂もらったのか何かしらないけどさ、とりあえず犯罪者疑惑とかになって返ってきて、マスコミに追いかけられてて・・・。で、なにあんた勝手に一人で謝ってるわけ?ねえ、なんなの?あなた?


俺。いま。頭。混乱してる。トランスしてる。わけわかんない。ねえ。これ、どうゆこと?


俺が20年間ずっと恨み続けていた「小夏を一晩頂きした→その後ポイ事件」なんだけど。


小夏が、睡眠薬入れる?え?


あんた。小夏に襲われてたの?俺がずっと崇めてた女、そんなに危ない女だったの?なんかもう。俺。訳がわからなくなってきた・・・。何かわからないけど、涙零れてきた・・・。


「なぁ、今でも。トキちゃんと小夏は友達として良好な関係築いてるんだろ?


俺、本当は怖かったけどさ。勇気だして、トキちゃんの為に小夏に電話したんだよ。


トキちゃんのマンションの場所知りたかったっていうのもあるんだけど、勿論それだけじゃなくて。


一応、あの後あんたらどーなったのか、気になってたんだ。一応、俺も噛んでしまった部分もあるし。


そしたら、小夏は「トキちゃんはまだずっと独身だ」っていっててさ。小夏はさ、職場恋愛で結婚した男がいるけど、結局優しすぎて物足りなくて離婚こそしてないものの、別居生活らしくて。


その後知り合ったヤクザの組長さんの妾になって生活してるとか言ってて。組長に仕込まれた、SMプレイにハマってたらしいんだけどさ。まあ、家には流れ弾も時々来るらしいから。何でも、組長との行為の最中は本気で命懸けのSMだったとか。あのメンヘラ女の聞きたくもない体験談、散々聞かされて困ったよ。


それでも、何故かは知らないけど「たった一度しか年也とは寝てないけど(てか、睡眠薬飲まされて襲われた。)、やっぱりあなたの事が忘れられない。また会いたいの。」とか言って、泣き出されて・・・。


あー、やっぱり。この女危ないなと思ったんだよね。そのあと、小夏の事は即着信拒否したんだよね。あれから小夏から50回位履歴あって恐怖だったんだけどさぁ。それだけ、危険な思いしてまでしてトキちゃんにに会いに来たんだぜ俺っ! 

あー、俺ほんと友達思いーっ。」とか言って、ゲラゲラ笑いだす。


本当に。出て行ってくれないかな。

心からそう思ったが、何故か本人に言えずにいる。


いつだってそうだ。

俺は心の何処かで人に嫌われるのが怖くて、本当に思ったことが、言葉に出せなくて。


もどかしくて。悔しくて。何も出来なくて。言われたい放題で。俺だって。俺だって・・・。


何も言えなくて。ただ、俺は唇を噛み締めて涙零すことしか術すらなかったのだ・・・。


「ピンポーン」と、チャイムが鳴る。


こんな時に、また誰が来るんだよと思えば、話題の渦中の女。小夏だ。会いたいと願えば会えなくて。会いたくないと思った時に限って、会えてしまう。俺。どんな顔して会えばいいんだよ。


「うわー!うわー!あの女まじ来たかー!

俺また喰われるの?!まじで、トキちゃん居留守使ってよー!たのむ!たのむうっ!」と、ワーワー煩い年也を無視して、俺は小夏を部屋に入れる事にした。


小夏が、俺のマンションの一室に入る。

この光景を、一体何度妄想しては、悶絶して眠れない日々を過ごしただろうか。といっても、22時までには結局寝るんだけどね。全ては、明日の健康のために。


あー、小夏が部屋に入るとか。今まで9562回は妄想してるよ。全部正の字でノートに書いてるから、正確に覚えてる。


もちろん、いかかわしい想像なんてしないさ。なにせ、君は僕にとって女神だった。


部屋に来てー。暖かい紅茶を君が頼んでー。僕はクッキーを買ってー。もちろん、カントリーマァムが君が好きだから、それを買ってー。レンジで温めてー、ちょっとチョコ溶けた感じにしてぇー。


君の口の端に、ちょっと解けたチョコついてぇー、それを可愛いなぁもうとか思って、俺がオシボリを出してぇー。


で、テレビを見ながらキャッキャッ言ってる君をニコニコしながら、僕は眺めてる。そんな爽やかな妄想かな。


たぶん、その妄想ラブストーリー「トキと小夏」は漫画でいけば、こち亀まではいかなくても、ディアーボーイズ位の勢いで連載されてると思う。しかし、その妄想がまさかこんな最悪な形で実現するなんて。


「トシちゃん・・・ずっとずっと会いたかった・・なんで、電話でてくれないの・・・。

やっと、電話で繋がった時、私凄く嬉しかった。声聞けるだけでも、すぐに感じちゃうのはトシちゃんだけ。やっぱり、トシちゃんとの出会いは運命だったんだって思ったの・・・。


優しい旦那と結婚したけど、全然ダメだった。別れた旦那は、優しくて真面目で絵に書いたような結婚向きの男だったんだけど、私は何度抱かれようとしても全く濡れないし、彼は早漏すぎてすぐイッちゃう。あの人に抱かれて、今まで一度も気持ち良いと思った事がないの。


刺激を求めてショウさん(組長)の妾になったけど、それでも心の何処かでは満たされなかった。ショウさんはアッチの方が激しくて満足できたけど、顔が怪獣みたいでタイプじゃなくて。目をつぶっては、いつもトシちゃんの顔を妄想して抱かれてたの。


やっぱり、トシちゃん。私には貴方しかいないの・・・」


小夏が、俺の前で俺の悪友に、涙ながらに愛を訴えてる。おまけに、自分の性癖とか男達とのベッドの話まで話してるんだけど、そんなネタ別に必要ないよね?ここで、そんな話を事細かく話す必要ってあるの?


なんかもう、最悪。こんなの本当、きついよ・・・。


「あのう・・・。そんなこと言われても・・・。僕そもそも小夏の事、別に俺は何とも思ってないとって言ったよね・・・?しかも、睡眠薬飲まされてたというか・・・。もはや、一人スーパーフリーというか、無理矢理じゃん・・・。」


「でも、あの時・・・。二文字違いだけど。確かに、寝言で私の名前を言おうとしてたの・・・。


コユキ愛してるって・・・。


きっと、私の名前間違えて呼んでるんだ!きっと、トシちゃんはやっぱり私の事が好きなんだって、あの時確信したの。


でも、あの後あなたは、私の元を去っていったから・・・。どうしてなんだろうって。」


「あのう・・・。一文字名前違ったら、だいぶ違うよね?コユキは、当時交際してた僕の元カノだよ。だから、それはあってるけど。


あなた、小夏!よって、貴方じゃないから・・・」


「えっ、嘘・・・そんな・・・。じゃあ、私が20年間思い続けてきた事は、なんだったの?嘘なの?あなたの、あの時の言葉だけは本当だと信じて今までずっと生きてきたのに。

嫌だ・・そんなの・・信じたくない・・。」


「そんなん言われても困るよ!俺、ほんとーに何とも小夏の事思ってないから!


あの時も、今も!とりあえず、トキちゃんが貴方の事ずっと好きみたいだからさ。僕は無理だけど。


それに俺。今は、一応追い出されたとはいえ嫁と娘いるんだよね。


ねえ、小夏。トキちゃんじゃダメ?独身だし、お金なら持ってるよ?」


「い、嫌だぁぁぁ!私、こんなブツブツ小言言うばかりの、貯金と健康管理だけが趣味ですみたいな、いかにもモテないを典型に絵を書いたみたいな、こんな47歳の男とか嫌だぁぁ!」


最悪。俺、なんで、わざわざせっかくやっとの思いで買ったマンションの一室で、昔好きだった女にボロカスに言われて振られないといけないわけ?


俺。愛の告白すら何もしてないのに?ねえ?なんなの?


今まで、俺は職場のマドンナでいつも笑顔で、優しい君に恋してた。ずっと憧れの存在だった。僕の妄想の中でも、君を一度だって傷つけたことはない。


それでも、君は何処かで僕なんか相手にしてくれないだろうって思ってたのも事実。

こんなに好きなくせに、何も出来ずに見てる事しか出来なくて。そんな君を忘れないと。


早く、現実をみて恋を探さないと。そう思って探しても、妄想の中の笑顔の君を思い出しては、比べてダメにし続けてしまった。


今思うんだ。俺は、今までまともに人と向き合って恋愛しようとしてきてなかったんじゃないかって。恋をして傷つくのが怖くて。


本当の君を知ろうとすればするほど、怖くなる。だから、僕の中の妄想で、君を最高の女神としてキャラクター化する。その君に恋をする。妄想する。


妄想の君と、僕は妄想の中で幸せなデートを繰り広げる。

そんな事ばかり繰り返しては、現実の恋から逃げていたんだ。本当の君は、きっと僕が描いているような女神なんかじゃなくて。きっと、変態な部分も。メンヘラな部分も。暴言吐く部分も。面食いな部分も。ストーカーな部分も。頭おかしい部分も沢山あるんだ。


それでも、なんか俺そんな君の悪い部分を、今。全部、目の前で見せつけられても不思議と引いてなくってさ。それでも、君が憎いとか最低とか思えなくて。むしろそれでも。俺じゃなくてもいい。君に幸せになって欲しいとか。応援したいとか。


あー、何でこんな心理が生まれてしまうんだろうか。人を好きになるって、愛するって不思議だよな。それでも、君を愛おしくて見守りたいと思ってる俺がいるんだ。


もしかして、俺も変態なのかな。また、20年間ずっと勝手にライバル視して「こいつには、最終的に勝ちたい」とか思っていた年也に対しても。


もはや、「一体、今までなんでそんな事思って生きてきたのか」という時間が無駄とすら思えてきた。


俺だけがライバル視してて、年也は俺の事は眼中に無いどころか、やっぱり数年経っても、何がおきても。あの頃と、立場なんてそうそう変わらないのさ。なんかバカみたいだ俺。


もっと、自分のものさしで幸せを測って生きてさえいれば。


もっと、自分のやりたい事とか思い切り出来てたんじゃないかなって。


マンションがあっても。貯金や、健康な肉体があっても。それ以上何も満たされることなく、47年生きてしまった。


俺は、もし。今。年也みたいに、余命一週間と言われたら、果たして後悔なく死ねるだろうか。

我が人生一生の悔いなし!と、言葉残して死ねるだろうか。


嫌だ。このまま死にたくなんかない。

このまま、自分の思いを押し殺して死にたくなんかない。嫌だ。嫌だぁぁぁ!


「あっ、あのっ!小夏さんっ!おっ、俺っ、ずっと、ずっと君の事が好きだったんだけどっ!でも、俺なんか相手にされないって思ってて!ずっと君の事を遠くから見つめてたんですっ!


でも、そんな時に君は、悪友の年也に味見され・・いや、正式には、君が睡眠薬を年也に飲ませて、年也を襲ったんだけど・・。


それでっ、その後君は案の定、年也に一晩寝てから捨てられて、(捨てられたというか、元々年也は小夏のモノでも何でもなかったんだけど)君は、狂ってしまって。


だけど。僕は、君を助けたくて。正直聞きたくもなかったけど、君の悩みを聴き続けたんだ。


それで、君が救われるなら、俺はそれでいいって思ってたんだ。それでも、君と一緒にいれるだけで僕は幸せだった。


君が、やがて職場恋愛して他の男と結婚して。辛かったけど、それでも結局僕の叶わぬ片思い。俺の片思いなんて、所詮思い込みみたいなもんさ。ぶつける勇気なんてなくて。


僕は、他の恋を探そうと婚活はじめて。それでも、結局ダメで・・。


あのっ・・でも・・やっぱり、こうして会っておもったんだ!やっぱり、僕は君が好きだ!やっぱり、僕!君と結婚したいです!」


い、いった。いった。いったぞ。俺!どうせ。ダメなんだ、無理なんだ。


小夏は、別居中の旦那がいて組長の妾もしてて。

それでも、一晩昔寝ただけの幼馴染の年也のことずっと思い続けてて。


俺なんて、あの二人の間に入るスキなんて何処にもないんだ。元々恋愛対象どころか、むしろ気持ち悪いランキング一位、好かれてないってことも知ってるよ。


それでも、もし年也みたいにあと一週間しか生きられなかったらどうするんだろうってふと思う。


俺、思ったんだ。もしかすると、今まで傷つくことを恐れて何ともぶつかってないじゃないかって。自分の気持ち、心の底から大切だと思う誰かに。ダメでもいい。せめて心の底から好きな女性に、自分の想いを伝えてから死にたいって。


年也をふと見ると、なぜかはわからないが必死に笑いをこらえ、お腹を抱えてうずくまっていた。一瞬、「体がしんどいのかな?」と思ったが、よく見ると目に涙を浮かべながら必死に笑いを堪えているようだった。


「よ・・よくやった・・あ、あはは・・。トキちゃん、かっ・・かっこいいよ・・。かっ、かっこいい・・。


だけど、いきなりプロポーズとか、突然すぎるよ!この人は既婚者だよ!?まあ、今は別居中だけど。既婚者にプロポーズしてどうすんの!


腹痛い!痛いよ!おっ、面白すぎだよ、トキちゃん・・。


せめて、小夏!一回だけ!一回!一回だけ!

お願い!トキちゃんだいてあげたら?あははは!」と言いながら、笑いを堪えて泣いてる。


多分、俺の言動や行動を完全に馬鹿にしているというか。面白がっているというか。


この人は、昔から失礼な奴なんだよね。あまり相手の気持ちを考えないというか・・・。こいつ。ちょっとイケメンやからって腹立つんだけど。


元々は、とんでもないコミュ障で俺の後ろに隠れながらついてくるような奴だったのに、中学生の頃にダンスチームの主将を務めだしてから急に女性達からの黄色い声援を聞くようになったんだよな。


年也って。元々顔はイケメンだったし、昔から踊りをお父さんから教えてもらってて凄く上手かったし、華があったから目を引いたんだよね。


俺は、部活でキャプテンとして踊る年也に魅せられ、勇気を出してダンス部に入部した。しかし、あまりの音感センスのなさに速攻辞めようとしたんだ。皆がステップを当日中に覚えてゆく中、俺は何週間経っても1ステップすら進めなかった。


でも、年也はそんな俺に「せっかく踊ろうって決めたんだから、せめて少しでも一緒に楽しもう」って僕の手を引いて引き止めてくれた。


俺は、「全然ステップすら踏めなかったし周囲に迷惑かけるだけだから」って言ったんだけど、年也は「君一人踊れない程度で、迷惑かかって駄目になるようなチームのキャプテンやるくらいなら、俺辞めてるって。少しでも勇気を出してくれた人と、俺は一緒に楽しみたいんだ」って言ってくれた。あの時は、嬉しくて涙がでて止まらなかったんだよね。


あれから、俺は年也と友達になったんだ。だけど、本当に踊り以外は冷酷な部分も沢山あって、何度かジュースのパシリに使われる事も多かった。イケメンで男らしい一面もあるのに、友達が少ないのはきっとこういう性格のせいなんだと俺は思う。一体、何度年也の友達辞めようと思ったことだろうか・・・。


小夏は、俺の告白を真っ青な顔で聞いていた。


「いっ・・・。いやぁ・・・。何でそんな気持ち悪いこと、トキさん・・やめてくださいよぉ・・。トシチャンも、酷いよぉ・・。なんで、他の男を当てがうのよぉ・・。


本当に、みんなみんな、気持ち悪いです・・・。

ただでさえ、帰る所がなくてショウさんの妾してるのが奥さんにバレて、ショウさんも私の事が要らなくなったとか言い出して、私の事。消したいとか言い出したの。


そしたら、今度はショウさんの組の人達が私の命を狙ってて・・・。もう、逃げる所でセキュリティの高そうな所といったら、トキさんの高級マンションしか思い浮かばなかったのに・・・。」


って。えっ?なに?ヤクザから今命狙われて、もしかして逃げてるの?


年也といい。小夏といい・・・うちのマンション、

なんで皆アジトに使用するんだよ。おれ、そんなことの為に巨額のローン組んでないんだけど・・・。


って、年也!あー!タバコ吸うなぁぁぁ!壁に、タバコのヤニがつく!匂いが残る!ベランダで吸えぇぇ!って、小夏も吸うなぁぁぁ!


年也も、何タバコ与えてるのぉぉ!って、僕の女神、タバコ吸うんかーい!わぁーお!俺の中の女神ポイントマイナス50点!あー!もう、なんて日だ!


けどやっとの思いで、ずっと好きだった人に告白できた。案の定、気持ち悪いとか言われて迷惑がられたけどさ。それでも、何故か不思議と俺の気持ちはスッキリしてた。


やがて、年也が風呂入りたいだのタバコ吸いたいだの。もっと、ゲームしたいだの。たこ焼きと、焼肉が食べたいだの。頭が痛いから寝たいだの、風俗行きたいだの。どうせ死ぬなら、せめて女とあと三発やりたいだのワーワー煩いので。


「なんかもう、このさい好きにしたらいいよ。」と、俺は言った。いちいち対応するのが、もはや面倒くさいと思った。


しばらくすると、年也は「酒が無いの?!酒が無いって、俺がこんだけ言ってるのに!それ聞いて、トキちゃんが気を使って買いに行ってくれればいいのにー!ほんと、使えないよね!」と、ブツブツ文句垂れながら風呂に入り、「トシちゃん、頭洗ってあげるー」と小夏が風呂に入り、


「えー、やめてよぉー。恥ずかしいよぉー。乳首、乳首は見たらダメ!乳首はダメ!」と、下半身隠さずして乳首隠してる年也が、気持ち悪い事に照れていた。おいおい。あんた、恥ずかしがる所というか。隠す所。なんか色々と間違ってない?


しかも、何あんた。アレ。デカく立たせとるんよ?と、突っ込もうと思ったら、


「トシちゃんが、乳首弱いってー知ってるんだからー!えーい!」と言って、小夏が、年也の乳首をツンツンしだした。


「わー!わー!やっ、やめてぇぇ!俺、本当弱いんだから!」と言いながら、キャッキャッキャッキャッ喜ぶ年也。そのままあの二人、いや阿呆二人の間違いかもしれない。


風呂、一緒に入りやがった。おい。ちょ。お前。待て。こら。いくら、好きにしたらええとは言ったかもしれない。けどさ、頼むから。俺がやっとの思いで無趣味でケチって買ったマンション汚さないでくれる?


車だって、勿体無いからとおもって自分で買わないで、親のお下がりの軽自動車で47歳までやってきたんだぜ?


全ては、安泰の老後の為に。このマンションを買う為に・・。そうすれば、素敵な嫁さんもしかしたら来てくれるかもって・・。


高収入とまではいえないけど、俺の仕事は安定職。真面目だけが取り柄。マンション持ち。これだけあれば、結婚相談所でもアピール出来ると思って。おれ、ずっと今まで人生頑張って生きてきたんだよ!


でも、結婚相談所に来る女ってマンション持ちよりも、「何の車乗ってるんですか?」の方が食いついてくる事に、相談所入ってから気づいたんだよ・・・。


あいつら、本当何もわかってないと思った。車だけで、何が出来ると思う?高級車は、維持費がかかるんだよ?ガソリンだって、少し割高のハイオクとかしないと駄目なんだよ?保険だって高いからね。


軽自動車は、その点。環境にも優しいし。保険代だって、普通車よりグンと安いし。ガソリンも安いよ。毎月の生活費の事を考えると、経済的なんだから!


俺の軽自動車はお母さんのお下がりだから、クッションがミッキーマウス柄だったり、ハンドルがディズニー仕様に改造されちゃってるのが玉に瑕だけど、めちゃめちゃ運転しやすいし街乗りなら軽自動車が丁度いいと思う。


もし、俺のパートナーになってくれる人が車に時々乗りたいなら、いつでも貸してあげる事だってできる。夫婦で軽自動車一台なら、マンションの駐車場台も一台分で住むし経済的だよね。


そんな軽自動車でも、俺は縦列駐車に平均15分位かかるんだぞ?これで普通車だと、バック見にくいと思うよ?運転だって、軽自動車よりも普通車の方が控えめに言ってすごく難しいとおもうんだ。女は、見た目の格好良さとかに惹かれすぎなんだよ。


もっと、結婚とか考えるなら将来の事を第一に考えてさ。真面目でコツコツ。賭け事もしない。タバコも吸わない。酒も飲まない。


車の運転は下手かもしれないけど、車にお金をかけない。貯金が出来る。マンション持ち。あー、もう。俺って。最高条件の男だと思うんだよね。なぜ。結婚出来ないのか。って、俺が真剣に悩んでる時に・・・。


お前らー!人のマンションの風呂で「アッアッアーン!」とか、すなーーーっ!うちのマンションな、ラブホじゃないんだけど!


あなた達ね!何かあったら、本当に自己責任だから!というか、あなた達もアラフィフ同士だし。流石に、小夏も妊娠の心配はないか。確かユリア不妊治療うけてて、子供が出来なかったって言って悩んでたし・・・。って、なんで俺がこんな事を心配しなくちゃいけない訳?!


で、何か二人ともスッキリした顔して風呂から出てきて、お互い体拭きあいっことかして「なんか、懐かしいねー。」みたいな話してんじゃねーよっ!


年也、睡眠薬飲まされて襲われたってあれ、ねえ。本当の話?


たった、一回だけって。ねえ、本当の話?なんか、あなた達やけに、手慣れてない?ねえ。なんか俺。もしかして、騙されてる?


「そろそろ、寝るねー」とかいって、あいつら俺の寝室入って鍵かけやがった・・・。あのさ、あんたら。寝室鍵かけて入ったらさ、俺。ベッド無いじゃん。どうやって、寝たらいいんだよ。


布団、全部あの部屋にあるんだよ?あー、もう。あの阿呆二人。自分たちの事しか考えてないとか、本当最低!


あの人達の微かな喘ぎ声を聞きながら俺は、風呂場にあったなけなしのタオルを何枚も重ねて簡易布団を作り、リビングのソファーを敷布団代わりにして、寝ることにした。


22時には、健康の為に消灯してんのに。あいつらのせいで。寝れないじゃんか。


小夏を女神とか、撤回したい。あのカキタレ下衆女!下衆ポイント5000点あげたい。なんか本当、地獄に落とした上で裸踊りさせてやりたい位に腹が立つ!20年間、女神と崇めてた俺が馬鹿だった。この長い間小夏を女神と崇めていた時間を本当返して欲しい。


だけど、たったこんな事でそんな風に思ってしまう俺も俺なのではないだろうか?おれ、本当に小夏の事を本当に愛していたのだろうか。もしかしたら「恋に恋してた」だけだったんじゃないだろうか。


まず、現実を見てみよう。俺が恋し続けた小夏は、今。俺の天敵であり悪友の年也と、人ん家でお楽しみ中。なんかもう、最悪すぎて。涙出て来るよ。


なんで、あなた達の喘ぎ声なんて聞きたくもないのに、俺の家で聞かされないといけない訳?


おれ、あなた達が今日使用したベッドで、これから毎日寝ないといけないんだよ?正直、これからそのベッドで寝るのが気持ち悪くて寝付けないよ。むしろ、ベッドごと捨てたい。それでも、きっとトラウマ消えないと思う。マンションごと汚した罪を、慰謝料請求したい位だよ。


女なんて、所詮。みんなこんなものなの?何故かはわからないけど、みんな悲劇のヒロインにやたらなりたがる割には、自業自得の人が多すぎる気がする。


で、これもまた何故かはわからないけど、女ってイケメンに対して緩すぎない?しかも、ここ。人の家だから。人の。というか、俺の家。ね?


おれ、もしかすると結婚なんてしなくて良かったのかもしれない。今まで高いお金を結婚相談所に投資してきたけど、投資する価値なんてないのかもしれない。女は、皆もしかすると屑ばかりかもしれん。


いや、待てよ?もしかすると、俺がただ単に屑女を愛し続けただけで。そんな俺も、もしかしたら屑なのかもしれない。年也は、元々屑のキングすぎて、もはやキングダムやし。屑が三人集まれば、文殊の知恵どころか。クズは何人集まっても、結局。屑!

あー、もー!本当。泣きたい。あいつら、明日には、絶対帰ってもらうからな!

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