第3話(番外編)トキジとトシヤ

朝が来た。結局、あいつらの事が気がかりで一睡も眠れなかった。あいつら、喘ぎ声煩いし。気になるし。


覗きに行こうかと思ったけど。でも、見たら見たで虚しくなりそうやし。本当、やな事に巻き込まれたわ。早く帰ってもらわないと・・・と、思った途端。


俺、目ん玉飛び出す位ビックリしたよ。年也、お前。手に何持ってるんだよ?


ピストル・・・。俺に、銃を向けて立っている。隣で、あざ笑うかのように見つめる小夏。


えっ。なにこれ?どゆこと?あなた達?

もしかして、これ。ドッキリ?


「トキちゃん、ありがとね。やっぱ、トキちゃんアホだよね。俺らの嘘、全然見抜けなかったんだよね?


俺達。実は、最近さ。利害関係の一致ってやつ?

賄賂事件でマスコミに追われだして、困ったもんだから。小夏が、そーいやヤクザの妾やってるから。

何とか、俺の事件をヤーさんの力使って守って貰えねぇかなって思って電話したんだ。


そしたら。小夏も、ヤーさんの妾クビ切られてる所か、組の奴らに命狙われてて・・・。


俺も、小夏もさ。このままじゃ、日本にいれないねってことで海外に逃亡しようって計画たててたんだ。だけどお金がないから、どうしようってことになって。そうだ。トキちゃん、貯金しまくってる!そう、閃いた訳よ。


トキちゃん家に、ゆるーい感じで怪しまれないように入って、強盗しようって思ったんだ。


あんたが通帳隠す所、わかりやすいんだよね。

いつも、エロ本隠してる所だもんね?昔。あんたの家遊びにいってた頃から実は、アンタがトイレいってる間にエロ本物色してはパクッてたんだけど。偶然見つけてさぁ。


あー、やっぱ。いくつになっても。おんなじ所隠してんだなーって。


ありがとね!これで、俺たち!海外逃亡出来る!

トキちゃん。人生は、いつ何処で何があるかわからないんだよ。


お金ばっかり貯めてても、有効に使えないまま死んでったら、ただの紙切れと同じ!俺が、有効にこれから使ってやるから!ありがたく思いなよ!あははは!」


く・・狂ってるこいつ。頭おかしい。


人んち、散々掻き乱した上に。まさか、強盗して。俺殺す気か?


あんた。何考えてるのさ。娘は、有名人なんだよ?女優なんだよ?


あんたが、こんなことしたら娘は、ただでさえ顔が全国に知れてるというのに、これからどうやって生きていけばいいんだよ。子は親を選べないというが、いくらなんでも。あんまりすぎる。

ダメだ。もう、罪をこれ以上重ねたらダメだよ・・年也!


「はやくぅ!トシちゃん!こいつ撃っちまってよ!前から、ずーっと思ってたんだって!

本当、いつもニヤニヤ私の事じーっと見てきて!本当気持ち悪いったら、ありゃしないんだから!


確かに、相談には乗ってくれるけど。いつも上から目線で、余計腹立つだけだし。

自分が一番正しいと思ってる所とか、なんか本当ムカつくんだって!」


そんなにムカつくなら。最初から、相談とかしなきゃいいじゃん。


多分、自分の話を聞いてくれそうな人がたまたま周りにいなくて、俺なら聞いてくれるだろうって感じだった事位わかってるし。


俺も、隙があれば君を・・って、よこしまな気持ちは確かにあったよ。


でも。いくらなんでもさ。人に、相談とか散々させといて。

この女には、感謝の気持ちとか無いのだろうか。


うわー。ダメだこりゃ。

メガミの部分、微塵も無し。メカケの部分、ガッツリ100%。


都合の良い女になる奴は、どうでもいい人を都合の良いように扱う奴が多いのさ。自分に振り返って来るんだよ、自分がしてきたことってさ。


ほんと、そういう理論からするとさ。俺、なんも悪いことしてないのにさ。なんで。強盗されて、殺されないといけないわけ?


俺、思わず。身体のバランスを崩す。尻餅ついて、テレビの電源偶然ついた。


テレビでは、年也の娘「三谷キララ」が、偶然にも記者会見を開いていた。


三谷キララ。女優引退の記者会見だった。なぜか、丸坊主で涙を浮かべていた。


「父のしでかした事で、迷惑をかけた方々。本当に大変申し訳ありません。幼き頃から、父は沢山のチャンスを私に与えて下さりました。父がいたから、ここまでこれました。


しかし、父が犯した大きな罪は。

世間への私のイメージを大きく覆す事になり。数々の関係者の方々に迷惑をかけてしまいました。


ここに、深くお詫び申し上げます。


私。三谷キララは。

本日を持ちまして、女優業を引退します。」


記者達からの、厳しい質問にも真摯に受け答え続ける、三谷キララの姿がそこにあった。


年也も、俺も。小夏も。辛い現実から逃れる術ばかり見つけようとしていた。だけど、逃げれば逃げるほど。どんどん、それは大きくなって追いかけて来るんだと思う。


だけど。三谷キララは、現実から逃げなかった。

辛い事実を受け止めて、真摯な姿勢で戦おうとしていた。


あの女優は、確かにゴリ押し時代は見てられないほど調子にのっているなーと思っていたが、


こうしてみると。丸坊主とはいえ、スッピン号泣で鼻水垂れた姿とはいえ。俺には、とても眩しく見えたんだ。


「キララ・・」


年也の手が止まる。やがて、腕がガタガタと震える。


「トシちゃん!何やってんのよ!家族は、あなたを捨てたんでしょう?家族が憎いって、あんなにいってたじゃない!


家族の為に、身を削って頑張ってやってきたのに、なんでこんな捨てられ方をしないといけないんだって!そんな家族なんて、捨てちゃいなよ!


トシちゃん!

今は、私を選んでくれたんだよね?ね?


昨日、好きとも愛してるとも結局言ってくれなかったけど、トシが今は一番だよって言ってくれた・・。


昔は、トシちゃんはいつもお姉ちゃんばかりを目で追ってたから、私なんてこれから先もずっと見向きもしてくれないだろうって諦めもあったけど、それでもあの日あの時トシちゃんは抱いてくれて、そして昨日も抱いてくれた。トシちゃんの体は、私が想像していたよりもずっと温かかった。ずっとずっとトシちゃんと温まりたいって思ったの。ずっと、この日を待ってたの・・。トシちゃん・・。


今は、お願い私だけを見てよ!

私と二人きりで。海外に逃亡するの。


誰も知らない、無人島みたいな所みつけて。二人きりで、暮らそうねって。トシちゃん・・。」


小夏。こんなに、屑な女だったのか。会社で見てきた、ユリア像ガタガタに崩れたよ。こりゃ、ひどい屑女だよ。こりゃ、駄目だ・・・。


「う・・うるさい・・。ちょっとお前黙れ・・テレビ聞こえねぇだろうが・・」


年也の声が震えている。ふと見ると、目には涙が浮かんでいた。鬼の目にも、涙ってやつか。


「命だけでも、助かって良かったと思え・・。」


そういって年也は、小夏の手を引いてマンションを後にした。


預金通帳に関しては、俺に「ほらよ。一緒に入ってた現金10万円だけ貰っとくわ」と言って、ポイっと渡してきた。


まぁ。印鑑は別で保管してるわけやし。あの通帳、実は盗難用のダミーだし。というか、マンションにお金関係は一切置いてない。だって、今でもお母さんが、管理してるからどっちみちおろせないんだけどね。


俺は結局、警察にこの事を伝える気もなく自分の中で、昇華することにした。まぁ、どうしてかというと。あの坊主記者会見にて、すっかり三谷キララのファンになってしまったからだ。


その後、逆にあの記者会見で人気が出てしまった為。本人の意向関係なく女優業は、続行の方向になったそうだ。


年也の賄賂事件も、いつの間にか風化されていた。

年也が枕営業してた女社長自体が、色々詐欺事件など多発していた女で、今度はその女社長の問題でワイドショーは持ちきりだった。


あれから、年也と小夏が何処に行ったのかはわからない。本当に、あの二人は海外へ逃亡したのだろうか。


でも、俺にはそんなことよりも三谷キララへの毎月送るファンレターを書くことや、ファンクラブ通信が楽しみだったりする。


三谷キララの追っかけをしていると、やがてイベント会場で同じような追っかけしてた45歳独身のバツイチ子持ち女と仲良くなり、今はその女性と子供と一緒に暮らしてる。


昔なら、バツイチ子持ちとか嫌だなと思ってた。けど、今。俺47歳だし。子供作ろうと思えば、大変だよね。なら、最初から子供いた方が楽じゃん?って、発想を変える事にしたんだ。そしたら、出会いの幅は一気に広がった。


人生は、いつ何処で何が起きるかわからないもんだ。いつ死ぬかなんて、どんなに健康に気を使ってもわからないものだ。


あの日、年也にピストル向けられて改めて思ったんだ。俺。

だから、今度は新しく出来そうな家族三人で、海外旅行にでも行こうかなって計画してる。


俺、今。48歳。

人間。スタートと決めた時が、スタートさ。俺の人生は、これからだ。思い切り、楽しんでやるからな!







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