金曜日
「キャスト・オフ!」(1)
――ジリリリリ。
いつもより早めにセットしておいた目覚まし時計が、容赦なく俺の脳を揺さぶる。
「……うるせっ」
手刀を打ち込んで黙らせ、上体を起こして周りを見渡す。
窓からは既に朝日が差し込んでおり、俺が起き上ったことで埃が立って、光の道みたいなものが出来上がっている。いや、そんな良いものじゃないか。というか汚い。朝からこんなの見せるな。
隣にいるナナはまだ寝ているらしく、時折すうすうと寝息を立てている。
なかなか図太い性格してるよなこいつ。
俺はナナを起こさないようにゆっくりと立ち上がり、そのままナナを跨いで洗面所へと向かう。洗面所の鏡には目つきの悪い、頭の悪そうな男が映っている。
「……ふーう」
蛇口を捻り、水を掬って、無造作に顔を洗う。二度、三度、洗う度に意識が覚醒していく気がする。
少しずつ、昨日のことを思い出してきた。
勢いよく啖呵を切ったものの、実際俺に出来ることって無いんだよな。ナナは俺に乗ってくれたけど、どうも勝てるとは思っていないみたいだし……。いかんいかん。
蛇口を閉め、近くにあったタオルで顔を拭う。
言いだしっぺの俺が弱気になってどうする。俺に出来ることは今日、ナナをスペードに勝てる……とは言わないけど、まあ、勝てるかもと思えるぐらいにはしてやるとか……。駄目だ。どうしてもネガティブになってしまう。いっそのこと俺が戦えたら……。
いやいやいや、それは意味が分からない……。勝てるかどうかでなく、俺が戦う意味がないじゃないか……。くそ、まだ寝ぼけているのか。
歯ブラシを手に取り、歯磨き粉をこれでもかと出して口に突っ込む。そのまま歯が削れるんじゃないかと思うほどの勢いで歯を磨く。目を覚ませ。今日明日はしっかりしないといけないところなんだ。
そうだ。君野にメールしておかなければ。
今日はどう考えたって学校をサボる。学校より優先すべきことが有る。
よしよし。冴えてきた。
俺はもう、歯を磨いてるんだか、歯茎を磨いているんだか、分からないぐらい滅茶苦茶に掻き回しながら部屋に戻る。
「うわっ」
どうやら起きていたらしいナナが、俺の顔を見て驚愕の声を漏らす。はて、寝起きの俺はそんなに酷い顔なのだろうか。
「血出てますよ」
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