「宣戦布告だ。魔法少女スペード」(6)

 そろそろ目も慣れてきたことだし、始めるか。

 俺は右手に例のものを持って、未だギャアギャアと喚き散らしているスペードに照準を合わせる。もちろん引き金に指を掛けることはしない。……万が一を考えて。


「おい。スペード」


「何なの!? 今、貴方の様な人間に構っている暇は……わあああああ!!」


 俺の構えている暴力装置に気が付いたらしいスペードは、怒りの表情から、戸惑い、そして恐怖の表情へと目まぐるしく変化させていく。


 明らかに焦っている。こんな偽物の銃で。


「何!? ワタクシを殺そうってワケ!? 言っておくけど、魔力の切れた魔法少女の死体なんて人間と変わらないのよ!? 人間界の法律で裁かれても、」


「ちょっと、静かに」


 言いながら、銃を持った腕が少し辛くて、ほんの少しだけ降ろす。


「ひゃい! 黙ります!」


 それを警告と受け取ったのか、スペードは可愛そうなくらい狼狽える。声は上ずっているし、この距離でも足がガクガク震えているのがわかる。


 ふと、ナナに視線をやると、かつての主人を憐れむでも、冷笑するでもなく、ただ、ボーっと俺の方を見ていた。いや、見ているのか? 何だか魂が抜けた様な顔だ。


「ナナの卒業試験の内容を知っているか」


「ももももちろんです! 『一人前の魔法少女になる』ですよね?」


 やりにくいな……。此処まで被害者感を出されると流石に良心が痛む。俺にそんなものがあればの話だが。


「お前は一人前の魔法少女か?」


「そうですね! ワタク……自分で言うのもなんなんですけど、それなりに? いや、本当に魔法少女としては優秀なんじゃないかと思っています!」


「ほーう」


 腕が楽になってきたから腕を元の位置に戻してみる。


「ひゃっ」


 焦ってる焦ってる。

 上の立場から色々出来るってのは面白いものだな。

 スペードはずっとこんな気分だったのだろう。


「じゃあ、そんなお前を倒せば、ナナは一人前の魔法少女ってことになるかな」


「……? ええっと、仰ってる意味が、ちょっと」


「宣戦布告だ。魔法少女スペード。明後日の正午に……そうだな、俺の家の前に空き地があるだろう。そこに来い。此処にいるナナが、お前を倒して卒業してやる」

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