第30話 「未来が気になってな」


 そして、夜遅く冷たい風が吹き始めた時間にやっと、抜け出す事が出来た俺と勇者御一行はギルド2階の大きめのバルコニーにいた。


「まさか、ここまでされるとは思っていませんでした」


 と少し困った表情を浮かべながら言うティア。


「うん……びっ……くり」


 ルキナは片手に持っているフライドチキンを食べがら言う。


「ホント、疲れた……」



 フィーは冒険者達に魔法を教えてくれ、とずっと言われて疲れてながら言った。


「パーティーに誘われたぞ、私は。まぁ、丁重に断ったがな」


 フッフッフッと悪い笑みを浮べながら笑うリン。

 それをバルコニーの手すりに寄りかかる様に聞いた俺は優しくフッと笑う。


「それにしても、薬師さんは……その……八神将、なんですよね……?」


 恐る恐る聞くテイアに俺は片手にロックアイスとお酒を入れたガラスコップで飲む。


「ああ、そうだ。後、俺はレベルが存在しないのと、スキルは全てEXだ」


 そう言いながら俺はカードを取り出し、皆に見せる。


「レベル……アンノウン」

「スキルもオールEXだ……」

「って、事は私達に見せたのは」

「あれは俺が操作して作った物だ」


 ティアとリン、フィーが俺のカードを見ながら言うと、


「なんで隠すの?」


 とルキナが俺に聞く。


「そんな簡単に神様がここにいます。なんて言えないんだよね。それに俺達八神将は神だから、必要以上に人間に力を貸してはいけない事になってるから」

「どうして? 言えばみんな勇軌の事を凄い扱いするじゃん」


 フィーが俺に言ってくる。


「それだよ。俺等は崇められても、崇められたくてするんじゃない。それで、変に街に人が増えて犯罪や、俺が神様の使いだ。とか言い出す奴が出だしたらキリが無い」

「では、何故モンスター退治の時に力を出さない? 勇軌がエンシェントリッチの時の様に本気を出せば、手間は掛からない筈だ」


 リンが何故俺が力を出さないのか聞いてくる。


「俺が力を使えば世界のバランスが崩れて行くんだ。まぁ、今回のは世界自体が修正出来る範囲で、あったとしても――」


 と話している最中に少しだけ地震が起きた。


「この様に地震が起きる程度だ。まぁ、でも今の地震は俺が原因だ。全てが全て俺達神が力を使ったからではないからな。あと、俺はあの戦いで本気は出していない」


 と俺が言うと、勇者御一行は目を驚愕する。


「あれで、本気じゃない……?」


 驚きすぎてそれしか出てこなかったであろうティアが言う。


「てか、俺が本気出したら天変地異が起きるぞ? いや、天変地異で済むならマシか? まぁ、そのレベルで俺が本気を出すことはほぼ無い。あと、力を使いすぎれば天変地異はマジで起きる」


 俺はため息を付いてヤレヤレと言う感じで勇者御一行に言う。


「てか、本当に八神将っていたんだ。って、勇軌あの、ごめんなさい……」


 突然フィーが俺に頭を下げて謝り始める。


「え、なんで?」

「だって、森でサボっていると言ったし、自由奔放って言ったから……」


 それを言われた俺は視線を逸らして、頬を軽く掻く。


「あー……それな。いや、事実だし、別に」

「「「「え……?」」」」


 勇者御一行は声を揃えて俺を見て言う。


「いや、加護はしているぞ? 本当にここは加護しようってところはな。他はしてないけど」

「え、なんでですか?」

「俺が加護する場所は本当に貧民街とか環境変化で作物が育たない所とかだ。それ以外は人間が少し努力をすれば自分たちで解決出来るところだ。まぁ、一応いつでもそこに飛べる様にマーキングはしてあるけどね」


 俺は少しばつが悪そうな感じで言う。


「なんで自由奔放なの?」


 とフィーが本当に疑問に思っている事を来てきているのだろう。と思う俺。


「うるさいのが一人いるんだよ。そいつは薬師なんか辞めて、神としての勤めをしっかり果たしなさいって言うんだぜ? 俺は神であり、薬師だ。病人がいればそこに行く、薬師としての俺がどうしようも無いなら、神としての俺がその人たちを救う。そう俺は決めたんだ。だから、あちこち旅をしている」


 それを聞いた勇者御一行は納得した表情を浮かべていた。そこで思い出した様にルキナが手を上げる。


「どうした? ルキナ」

「森にいるアラクネ。あれ危険」

「そうです! 流石にあれは……」

「確かにあれはヤバい」

「そうだな」


 とルキナが言うと、勇者三人組みは俺に言う。俺はまた、視線を外らし、


「あれ、実は俺が頼んだんだよね」

「「「「え……?」」」」


 うわー同じ反応だぁーコイツはぁすげぇ……と思う俺。


「なんでそんな事を?」

「俺は森で話しただろ? 最近密猟が多いとか、まぁ今話すけど強いモンスターの出現。あれの排除。と言っても痛めつけて森から追い出す。密猟は。モンスターはある程度駆逐して、街に行かせない様にして貰ってる」

「なんでそれを話さないんですか?」

「これを話したら俺の噂が広るだろ? それで王都に呼ばれるなんて事があれば俺は最悪だ」

「え、なんでですか?」


 ティアが俺に言うが俺ははぁ……とため息を着く。


「八神将の一人がいるだろ? さっき話したうるさいのがそこにいるんだよ……。それに俺、八神将達から捜索されてるから」

「「「「え……?」」」」


 二度ある事は三度ある。とはよく聞くが、まさか本当にこんな事起きるんですね、驚きです神様。あ、俺神だった。と思う俺。


「なんで捜索れてるの!? なにしたの!?」


 とフィーが俺に近付いて言う。


「まぁ、会議に出なのと。俺のいる場所把握の捜索」

「会議には出て!」

「いや、出ても俺関係無いんだよね」

「なんで!? 神様でしょ!?」

「会議内容、物流の話と力を使ったか使って無いかの会議で5時間だぜ? ちなみに俺出ても必要なこと以外は聞く気無いから、俺以外のもそうしてるし」


 そんな会議していたんだ……と思っているであろう勇者御一行。

 俺は持っていたお酒を飲み干し、テーブルに置く。


「でも、今回の魔王軍幹部の事は上がると思う。それで名前は八神将内では知られる筈だ。これで俺の位置がバレる……っと……はぁ……最悪だ……」


 マジで俺は落ち込む。この二年半他の八神将にバレる事なく過ごしてきたのに……俺の隠居生活にとうとう終止符の時か。と思うとため息がでる。

 そこにティアが一歩前に出て俺の前に立つ。


「薬師さん」

「ん? どうした?」


 俺がティアに聞くと、ティアは一旦俯き何かを決心した表情で俺を見た。


「薬師さん、相談がありますッ……!」

「……」

「私達とい――」

「一緒に旅をしませんか? ですかな?」


 俺がティアより先に言うと、ティアは少し驚いたがフフフと笑う。


「薬師さんには敵いませんね……、返事を聞かせて貰っても良いですか……?」


 俺はティアを見てからその後ろにいるルキナ、フィー、リンを見てからティアを見る。


「私達はこの世界を救いたい。これからパーティーとして世界を歩いて、魔王を倒そうと思います。それに薬師さん、一緒に旅をしませんか?」

「……ティアさん、本当に申し訳ございません。私は神である以上、人間の頼み事はほぼ聞けないのです。本当に申し訳ございません」


 と俺は丁寧にティアの誘いを断る。それを聞いたティアは少しだけビクッとして、口を閉じてからぎこちない笑顔を見せるティア。


「そうですか……ですよね。薬師さんは神様ですから、私達人間に力を貸しては行けないんですよね」

「そうなんです、神は必要以上に人間に力を貸してはいけない。魔王軍幹部を私が倒してしまうと、神である私が倒したとなると、世界のパワーバランスが崩れてしまう。だから、私が倒すのでは無く、貴方がた勇者である皆さんに倒して貰いました。少しお力は貸しましたが、それは先程はなした通り、問題は無い程度です」


 そう言ってから俺は、ベルトバックから一つのポーションを取り出した。


「ティアさん、こちらがティアさんの望んでいたポーションです」


 俺は元々ティアから依頼されていたレベルアップポーションをティアに差し出す。


「あ……こ、これを受け取った場合……どうなりますか……?」


 ティアは悲しそうな表情で俺に言う。


「クエストは終了します。それで契約していた面倒を見ると言うのも、受け取った時点でなくなります」

「じゃあ――」

「クエストがクリア出来ているのを引き伸ばすのは、御法度です。受け取るか、リタイアをお願いします」


 戸惑って受け取ろうとしないティアにフィーとルキナの二人がティアの肩に手を置く。


「あ……え、あ……や、薬師さん突然の砕けた口調、凄いですよ! わ、私驚きですッ!」


 俺は黙ってポーションをティアに差し出し続ける。ティアはフィーとルキナを見てから、ゆっくりと手を伸ばしてポーションを掴む。

 ポーションを掴んだティアはそのまま自分の胸の所まで持っていき、


「薬師さん……いえ、真藤勇軌様、今まで本当にありがとうございましたッ……!」


 ティアは頭を下げてお礼を俺に言う。それに続くようにフィーとルキナが頭を下げ、リンは微笑んで俺を見ていた。

 俺はその微笑む意味を「後は私が引き受ける」と察して俺はバルコニーから出て遠いが自分の家に向かった。


「あぁ……ぅく……ずっと……ずっと、一緒に入れると思ったんです……! ごめんなさい、ごめんなさい……!」


 ギルドを出ると、二階からティアの泣き声が聞こえた。俺は本当にリンが居てくれて良かったと思い、その場を去った。




 次の日の早朝、俺は家で待機して門のあたりを見ていた。


「……来たか」


 そう言ってから俺は、扉に――と札を下げて家に結界を張る。そして、門の辺りに転位をした。


「――!! や、薬――真藤さん!?」


 突然俺が目の前に現れた事で驚くティア。ルキナ、フィー、リンも驚いている。

 俺を見た瞬間、ティアは視線を逸らして悲しげな表情を浮かべる。


「お見送りですか……?」


 ぎこちない笑顔で言うティア。その目元は一晩寝たのにも関わらず、少し赤く晴れている。


「これから見送って行こうかとね」

「そうですか……では、私達はこのまま隣の街に言って魔王軍の情報を手に入れて行こうと思いますので、ありがとうございます」


 そういってティアは頭を下げてから、行こうとした所に俺はティアの隣に立つ。


「あ、あの?」

「言っただろ? これから見送って行く。と」


 それを聞いた勇者三人組は察したのはフフフと笑う。


「え? あの、どういう?」

「俺もついて行く」

「……え!? だって昨日断ったじゃないですか!!」

「あぁ、だって頼まれたら俺は断るしかないよな。神だもん」

「そ、そうですよね」

「でも――」


 俺はティアに優しく微笑み、


「俺が勝手に着いて行くなら話しは別だよな?」

「――ッ!! はいッ!!」


 俺が言うと、察したのか満面の笑みで元気よく答えた。


「薬師さんがいると、楽しい」

「そうね、勇軌といると楽しいって思う」

「あぁ、そうだな。それに最高の薬師だからな」


 勇者三人組みに言われると、ティアは俺の前に満面の笑みで立ち、


「薬師さんッ! 相談がありますッ!」

「なんですか?」


 俺は優しく微笑んで今回は先読みせず、黙って聞く事にして言う。


「私達に色々と教えて下さいッ!」

「それなら色々と教えなければなりませんね。教える事は多いので、長いお付き合いになりますが、それでも構いませんか?」


 と俺は微笑みながら勇者御一行に聞く。


「はいッ!」

「うん!」

「ええ!」

「ああ!」


 勇者御一行が答えた。それを聞いた俺はフフと笑い、


「では、まずは西にある大きな街に言って情報を集めましょう」

「「「「はいッ!!」」」


 全員が応え、大きな街に向かう。


「あ、そういえばお店はどうするんですか?」


 ティアが心配になり、俺に聞いてくる。


「長期休暇。と札を下げてありますし、結界も貼ってあるので侵入は不可能です」


 ティアに言うと、


「そうなんですか! 準備が良いんですね」

「まぁ、これくらいは」


 俺が言うと、嬉しいのかニコニコしながら俺の顔を見て、ハッと何かを思い出した様なティア。


「それにしても薬師さん、この前砕けてましたよね?」

「砕けて欲しいのですか?」

「はい」

「なら、よろしくティア」


 俺はティアに砕けた口調で言ってティアは俺の隣を歩いて満面の笑を俺に見せ、


「よろしくお願いしますね、薬師さん」


 とティアが改めて俺に言う。俺は微笑んで、


「ああ、よろしく」


 と言うと太陽が出て俺たちを照らす。そして俺達は光の向こうへ向かい、まだ見ぬ旅がここから本格的に始まった。



 いや、始まっていた。

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自由奔放な《 》と勇者 神蔵悠介 @kamukurayuusuke2

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