差し伸べられた甘い話。


車検まで日数があまりない。のんびりと過ごす時間などなかった。

私は昼は通常の仕事をし夜はノンアダルトでチャットをする日々を続行。


のちに常連客も捕まえられて、やり始めた頃よりはスムーズだけども…そのお客様が常にチャットに来てくれるわけでない。


収入がまばらすぎてどうしようもないよ。


…~♪~…

今からログインしようとしていると、水商売時代からの友人であるチエさんからの電話が鳴った。


チエさんとは、誰ぞや?って話だろう。軽く説明をするとすれば…

水商売時代に出会った友人。

チエさんは私よりも7個上、あと私と同い年の綾香。この三人は本当に仲が良くお店のスタッフからは“三姉妹”と呼ばれていた程。

チエさんは結婚出産を機に一年程前に水商売を辞めた。そして綾香は私がClub Russoを辞めてから他のお店に移籍した。三姉妹は今ではバラバラだが…お店を辞めてからもこうして電話やLINEでのやり取りをしていた。


『もしもし!元気ですか?』

「元気元気!美咲ちゃんは元気?」

地味な違和感。今までは“ヒカぴょん”と呼ばれていたのに…


『元気ですよ!久々ですよね~』

「だね!まだ昼のお仕事は続いてるの?」

『ギリギリ続いてます。給料は安いですけどね』

「大変だよね…けど、美咲ちゃんは頑張ってる方だと思うよ」

『そうですか?』


昼職を始めてから7ヶ月。今に至るまで、ずっと答えのない問題を自分の中で悩み続けている。

“収入は少なくとも、平々凡々に生きること”と“収入が高くとも、波乱万丈に生きること”どちらが自分にとっては幸せで居られるんだろう?ってね。

チエさんとは、その後現状報告をし合った。


「美咲ちゃんは、もう夜に戻ることはないの?」


突然の質問に、どうしてそんなことを聞くのだろうか?と不思議に思った。


『こんな状況ですから…なかなか戻りたくても難しいですよ』

「そうだよね…結婚もしてるし。

結婚してキャバやるってなったら一樹君反対するかな?」

『どうでしょうね。

あまりそう言う話はしないですけど』


「そっかぁ…

あのね、私夜に戻ったの。しかもセクキャバ」


チエさんの自信なさげな声が電話越しでも伝わってくる。

セクキャバとは通常のキャバクラとは違って胸のお触りや性器のお触りがOKのお店だ。


『そうだったんですか!旦那さんとお子さんはどうしてるんですか?』

「旦那に見てもらってる。生活が思ったよりも大変でね…っていうのは言い訳

もうお昼の安い給料で働く気がないんだよね」

『あぁ~なるほど!気持ちは何となく分かります』


痛いくらいに気持ちが分かってしまう。

夜の仕事を一度でもやってしまうと、その楽さに昼の仕事がちっぽけに見えてしまったり…何よりも収入に何も魅力を感じなくなる。


セクキャバなら、営業なんぞしなくとも短期間で高収入を得られるのは事実。

けど、死ぬまで勤めることは出来ないし…夜のお仕事の行く末は、結婚か昼職かお局ホステスか…もしくは独立するかのどれかしか選択肢はないんだ。


どうしてか今の世の中じゃ、まだ水商売は一つの職歴としては見てもらえないらしいから、30歳を越えてからの再就職はかなりキツイだろう。

ましてやチエさんはお子様も居るからなお更就職と言う就職は厳しいはず。


「子供が出来てますます時間の融通利かなくなったしね」

『そうですよね…ぶっちゃけ、私も昼だけじゃ生活出来なくて夜にチャットやってますもん』

チエさんが暴露してくれたから、私も正直に話すことにした。


「チャットなら在宅で出来るし良いよね!ただ、ずっとパソコンの前で待機するのも大変じゃない?」

『大変ですけど、出来ることはやろうかと思って』

「そっか。アダルトでやってるの?」

『いえいえ、私そんな見せれるような体じゃありませんし…ただ、切羽詰まってるのでアダルトにするか悩んでます』

「ノンアダか~!私昔アダルトでやってたけど、頑張っても頑張っても一晩2万稼げれば良い方だったし、メンタル病むから薦めないよ」


アダルトで体を出すことで今よりも収入を得られるなら、それでも良いのかと思い始めているのは確か。


こんなことを言えば“もっと自分の体を大事にしなさい”と言われるかもしれないけども…


お金に困りすぎてどうしようもなかった頃に

ブルセラショップのようなお店で使用済みのパンツとヌード付きの写真をセットで売ってお金をもらっていたことがある。


自分の体を安売りするな!とか、自分の体を大事にするな!とか、そんな綺麗事。

むしろ自分の体を使ってお金になるのなら良いじゃないかと思ってる。

もちろん病まない範囲での話。


ボーダーラインが難しいけど、基準的なものを言うならば…

“病む”か“病まない”で判断をしている。

自分の中で風俗やAVは本当に病むと分かっているからやらないだけ。

もちろんキャバ時代に枕営業なんてしたことは一度もない。


『一旦アダルトでやるって言うのも有りですかね?』

「そこまでするなら、私が今働いてるお店に一回来たら?」

『セクキャバですか?』

「触られるの嫌だ?」

『うーん…ちなみに時給はいくらですか?』

「体験入店なら時給6000円くらいだよ。だから運良ければ一晩で5万くらいもらえるかも!」


“一晩で5万”


今の私にとっては喉から手が出るほど欲しい金額。

けど、その対価として体を触られるのか…

想像はしてみたけど、結構病みそう。


『ちょっと考えさせてもらっても良いですか?』

「うんうん。アリバイ会社あるし、お金に困ってるならチャットよりも確実だから考えてみて」


電話が切れた後、セクキャバの件を考えながらチャットをやった。

その晩は5時間ログインして5000円の収入。


1時間1000円か…


時給6000円で5時間働いたら、単純計算で3万。めっちゃ良いじゃん。

けど見ず知らずの男に体を触られることに私は耐えられるのかな?


【お金が無いと言うことは、どうしてここまで人間をダメにするんだろうか。

お金が無いだけで、どうしてこんなに気を病まなきゃいけないのだろうか。

お金なんて、ただの紙切れチケット

何処でも使える紙切れチケット

それなのに…私はその紙切れチケットが欲しい。

欲しくて欲しくて仕方ない】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あたし元キャバ嬢、幸せってなんっすか? 多田野ひかる @0129hm

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ