最後の決断。


本当の不安にかられたのは、翌日のこと。

仕事をしていても…明日の入籍を考えるとそれだけで何も手につかないんだ。


結婚したって何も変わらない…

けどね…色々考えてしまう。


もし結婚後に一樹以外に良いなって思う人が現れたら?

もし結婚して実は一樹が甲斐性なしでどうしようもない人だったら?

もし結婚して一ヶ月でやっぱりこの町を離れて、一人で生きて生きたいとか思ってしまう自分がいたら?

もし私が結婚後に大きな病気でも患ったら?

結婚を、きっかけに自分の可能性を潰してしまうことがとても嫌だ。


不安要素でしかない。考えると言う行為をやめたくてもやめられない。


“大丈夫”それって本当に大丈夫なの?自分のことさえも信じられなかった。

だから、仕事終わりにLINEの友達リストから智君を探し出して電話をかけた…


どうしてこの時智君をチョイスしたかって?

甘いけども背中を押してほしかった…

智君は一樹の次に私と付き合いが深く長い異性だと思ったから。


呼び出し音の後「はいはーい」と陽気な声で電話に出てくれた智君。


『急に電話してごめんね』

「どうした?こっちに遊びに来てる感じ?」

『今日は違う。ちょっと話したくて』

「珍しいじゃん。美咲ちゃんがそんなこと言うの」

『そう?』

「んで?何かあったわけ?」


智君は何かを察してくれたらしく質問を投げてくれた。

結婚が決まったこと…親に挨拶に行ったこと、今の気持ちを嘘偽り無く話すと…すこしだけ気持ちが楽になった。


「別にそこまで深刻にとらえなくても良いんじゃないの?」

『他人事だと思って!』

「そうじゃなくて…俺は未婚だから美咲ちゃんの気持ちはわかんないけど、結婚も経験の内じゃないの?」

『今までは…恋愛で失敗したって、誰にも何の迷惑もかけなかったけど…結婚って“失敗”なんて言葉では片付けられないじゃん。お互いの人生を背負うわけだし』


結婚したら、本当の意味で人生のミスや失敗が許されない。


「えっ?そう?俺の妹、バツ2で今で結婚3回目だけど…そこまで悩んで無かったよ」

『バツ2なんだ!』

「うん。まぁ美咲ちゃんが結婚に対してどういう印象があるのか分かんないけど、

流されてみることも良いと思うんだよね」

『流されるがままに私もバツ2とかなってたら笑えないよ?』

「今まで一樹君以外も違う男をお店に連れてきたことあったじゃん」

『うん』


そう言えばそんなこともあったっけ。

アフターだったり、一樹と付き合っていながらも…ちょっと良いなぁと思っていた異性を智君のお店に連れていったことがあった。


「その中で一樹君が一番まともだし、全てにおいて安定しててしっかりしてる」

『そう?』

「うん。だって、前に気になってる人~って言ってピアスじゃらじゃらつけてるV系っぽい男連れてきたときは内心“これはない”って思ったし」


それは今から二年ほど前だろうか?

恋多き私の目の前に一樹以上に好きな人が現れた時のことだろう。

過去を掘り起こせば、自分の黒歴史と一途ではない人間だと言うことがバレてしまうのでこの辺でやめます。


「一樹君以外、美咲ちゃんはいないって

一樹君も美咲ちゃん以外はいないだろうし

それで失敗したって別に良いじゃん」

『智君ありがとう!なんか急にラフに考えれるようになったかも』


それは言葉だけではなく本心。


「次に会った頃には入籍の報告かな?楽しみにしてるから」


失敗したって良いんだ…

今までだってそうだったじゃん。目の前に大きな壁が立ちはだかって、絶望に視界を奪われたこともあったし、やむ終えず大事な人を切り捨てたこともあった。

けど、その決断の上で後悔したことって、そんなになかった。



【結婚は今後の人生を左右するとても大きな決断。

慎重になるのも当たり前だけども、慎重になりすぎることで、自分を見失うくらいなら前に進むべきだと感じた】

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