結婚だってよ
「ようやくだね~一樹、美咲。二人で頑張るんだよ。困ったことがあったら相談ね」
一樹の実家を訪れたのは10月1日、両親はとても喜んでくれていた。
『お母さん、ありがとうございます。不束ものですが、よろしくお願いします』
「一樹が悪いことしたらすぐに言っていいんだからね」
『はい』
悪いことね…浮気かギャンブルとか?
一樹は一般的にモテるタイプでもあるからね。6年の間、言わないだけで浮気くらいしてるものだと私は思ってる。
いくら私を愛してくれてるとは言え、夫婦になれば面倒な壁にぶつかる日はくるんだろう。現実的な私は、こういう時も冷めていた。
「しねぇし。余計なことは良いから早く婚姻届書いてくれよ」
「お父さんとお母さんどっちが書く?」とお母さんは、お父さんに尋ねた。
お父さんは「ここはお母さんが書いて」と言って保証人の欄にお母さんの綺麗な文字でお父さんの名前が書かれた。
ここで普通なら父親が書くんだろうが…
今目の前で微笑む一樹のお父さんは戸籍上では父親だけど、血の繋がりはないお父さんだ。だからお母さんが書いたのだろう。
そして…それはこちらも同じだった。
私のお父さんも本当の父親ではない。言ってしまえば私も一樹も本当の意味で“父親”に育ててもらったわけではない。
何なら、私の苗字は母親の旧姓である“佐藤”だけど母親は今の父親の苗字“金井”だし。
これも何かの運命なんだろうか?今さらだが…私も一樹も“佐藤”と言う苗字だから、結婚したところで苗字は変わらない。
「こんな娘をもらってくれてありがとうね。一樹君」
今度は私の実家。私が嫁に行くと聞いて母親はさぞ安心したことだろう。
「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございます。今後とも、よろしくお願いします」
「さて、一樹君呑もうか!」
田舎でのルール。
お祝い事と言えば“お酒”。
お父さんは、日本酒を準備し始めた。
『ちょ、パパ。あんまり呑ませないでね』
「せっかくの二人のお祝いだよ?今日呑まないでいつ呑むんだよ?」
一樹は私とパパのやり取りを聞いて気を遣ったのか“お父さん!呑みましょう!”と言った。
パパは一樹を本当に気に入っている。気が合う二人なんだろう。これからは、お母さんが二人。お父さんが二人。どちらも大事な家族。
なんて言うのは表面上の話…結局は赤の他人。
『あっ、お母さん。酔う前に婚姻届書いて』
「あぁ、大事なことだね!」
そう言って、居間の横の書斎に移動し婚姻届を記入してもらった。
こういう時って、親はどういう気持ちなんだろう?娘が嫁に行くというのは寂しさもあるのかな?
「アンタ、結婚したらちゃんとしなさいよ」
『急に何?』
「アンタは昔から適当だから心配なのよ」
母親はやはり母親だ。私の気まぐれさや適当な性格を心配している様子。
『結婚したってあたしはあたしでしょ?変わる必要も無いし、一樹はこんなあたしだから結婚を決めたんだよ』
「はいはい」
母親は呆れている。
自惚れかもしれない。自意識過剰かもしれない。けど結婚したからと言え、今までの自分の生活スタイルや性格を変える必要なんてないはず。
「幸せにしてあげなさいよ。美咲のことを嫁にもらってくれる人なんて一樹君しか後にも先にもいないとお母さんは思ってるから」
『大袈裟だよ。まぁ一緒に幸せになれるように努力はする
お母さん、ありがとうね』
「別にお礼をされることはしてないから」
お母さんは、いつもドライ。少し冷たい。
けど、そんな母親が本当は一番熱い感情を持ってることを娘の私は知ってる。お母さんは感情表現が苦手なだけ。
母親の文字は今までも幾度と無く見てきたが…婚姻届となると、今までと見方も違った。
そうか…私、本当に結婚するんだね。今さら、ここまで来て…怖気づいてしまう。
【好きな人と結婚する…
それって、幸せ過ぎて地に足がつかないほど浮かれるものだと思ったが。
どうやら私はマリッジブルーらしい】
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