最終話 眠

少女の目の前には屋敷がそびえ立っている。

どこも欠けていない綺麗な状態の屋敷が。

ひっそりと、でもどこかずっしりと。

その屋敷はどこか懐かしかった。

(おつかれ)

少女は言う。

「え?」

(終わったよ。長い長い旅が。)

その言葉が少女には理解できなかった。

(覚えてないでしょうけど、あなたはアンドロイドなの。どんなに長い時間が経とうとも老いも死もしない)

少女の眼はじっと一点を見つめる。

(あなたはご主人の命をきちんと遂行したわ。でも、あなたは何度も記憶を失っていった。熱とかが原因で。でも私はあなたの記憶そのもの。あなたの記憶が無くなっても、どこか奥深くで記憶しているものなの。私はこれまでの旅の結果を知っている。この世界に生命は無かったわ。お疲れ様。もう延々を歩かないで大丈夫よ)

少女は早口で説明する。

少女は少女の記憶を見た。

そこには、世界が生きていたときの姿。私のご主人、雇い主の姿。そして、世界が枯れてからの旅で「誰にも会ったことがない」ことが描かれていた。

少女は別の世界で起こった出来事としか感じない。

「そっか。もう歩かないでいいんだね。良かった」

少女はふにゃっとした笑顔で瞼を閉じる。

少女は終わらない眠りにつく。

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亡き世界で少女は微笑む 桜咲つな @ssktuna

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