事件三日後(4)

 いまいちシリアスになれない。

 何だろうな、こんな下らない事考えるぐらいなら、ラブレターの文面でも考えてた方がマシだ。破り捨てられるだろうけど。

 渡された果たし状を制服に仕舞う。


「この事件はこれでおしまい。中々面白かったわ。自分の人生にも特別な事があるんだとわかったしね」


「そういう話だったね。それで、今回ので満足したのかい」


「うーん、微妙かしら。やっぱり当事者になりたいわね。暴力が絡まない範囲で。探し物、とかが無難かしら。宝探しなら最高」


 勝手なこと言ってる。宝って何だ。

 そりゃ、何かじゃないの?


「オレはもう懲り懲りかな、授業が遅れて敵わん」


「つまらない事言うわね。あたしなんか授業が無いってだけで、そこそこ嬉しいっていうのに」


 お前はそうだろうよ。


 オレはなるべくなら授業は受けたいし、出来たら何処かの大学に滑り込みたいと思っている。ふむ。コイツら二人は卒業後何してるんだろうな。


「んー」


 前守が倒れ、横になるのを二人して眺める。


「また、退屈になりそうね。部活でも創ろうかしら」


 部活に入れとは言ったが、作るのは盲点だった。


 まあ、いつものように思いつきで言ってるだけだろうけど。


「どんな部活だよ」


「事件部、とか。座ってるだけで面白いことが舞い降りてくる感じの」


「一瞬で却下されそうな名前だな」


 ならば、と起き上がり考える素振りをする。全然似合ってない。


「探偵部」


「有るよ、そういうの」


 今度は姫宮が否定。

 有るのか、そういうの。


「まあ、名前は何でも良いわ。それより建前とか顧問の方が問題よね」


 あれ? 結構本気?

 あんまり気乗りしないんだが。

 まあ、暇潰しの話題に突っ込むのも無粋だろうし、何も言わない。


「顧問は藤堂で良いじゃない」


 良い訳ないじゃないか。

 何でそう思ったんだ。


「何で藤堂なんだよ」


「そうね、それより人数よ。三人で創部って出来るのかしら」


「校則によると五人以上、らしいね」


 生徒手帳を開きながら答える姫宮。

 スルーされるオレの疑問。


「手詰まりね」


「割とすぐ詰まったな……昨日の水野と内田に、同じ中学の好で名義貸して貰うのはどうだ?」


 その手があったか、みたいな表情をする前守。

 馬鹿じゃなかろうか。


「水野と内田が入るなら、顧問は鎌田でも良いわね。丁度野球部も部活停止になるだろうし」


「それは良いね」


 二人して腹を抱えて笑う。ついていけない。

 前守は笑いながら続ける。


「じゃあ、もう出来たようなものじゃない? 部室はあの美術室を使うとして、あと足りないのは何?」


「創部の目的……まあ、さっき言った建前みたいなものかな」


 問われた姫宮は生徒手帳を見ながら答える。


「目的……。こういうの考えるの苦手ね。何でもかんでも理由を付けられるものじゃないって分からないのかしら、ねえ」


 今度はオレが問われる。

 ねえ、って言われてもな。


「創部に理由は付けられるだろ」


「あっ、思いついた」


 ほら、付けられたじゃないか。


「あたし達、作家志望ってことにしたら良いんじゃない? ついでに部活名も思いついたわ。脚本部、ってどうかしら」


「今回の事件から思いついたわけだね」


 特に反対しない姫宮。マジで創る流れなの?


「文芸部とかと被るんじゃないか?」


「ケン、うちの高校には文芸部はないよ」


 そうなのか。

 割とメジャーな部活動だと思っていたが。少なくとも脚本部よりは。

 じゃあ一体、あの物静かな部活は何だったんだ。


「やっぱり今回の事件で思い知らされたのよね。待っていても何も起こらない、起こっても蚊帳の外だって。自分達の青春は自分達で脚本するべきじゃない?」


 歯の浮くようなことを言う。

 他人から見れば馬鹿らしいことを、本気で言っている。


「まあ建前の方は、文芸部が無いから創る、活動内容は文芸部みたいなもので良いわ。本音の方はこれってことで」


 休み明けに申請に行かなきゃ、と前守。

 申請されそうな気がしてきた。元々止める理由も無いが、部活が出来て事件が起こるということも無いだろうし、公に美術室を溜まり場に出来るなら良いか、と半ば諦めかけてきた。


「決まりだね」


 またしても姫宮の同意で決まってしまった。

 ここ数日流されっぱなしだ。誰か止めてくれる奴は居ないのか。

 そうだ、水野か内田のどっちかが渋ればそれで御破算だ。オレは二人に一縷の望みを残しつつ、それが成らなかったら潔く部活に従事しようと決意する。


「それじゃあ解散しましょうか。月曜日に学校で会いましょう」


「そうだな」


 オレと前守が同時に立ち上がる。姫宮は座ったままだ。


「うん。ケン、頼んだよ」


「了解」


 果たし状とやらを確実に渡す任務を受けている。来週は月曜日から早起きしないといけないみたいだ。

 玄関先で靴を履き、歩いてきた廊下を振り返る。


「じゃあねー、楓」


「ふぁーい」


 気の抜けた返事の後に、ひらひらと動く手だけが見える。

 眠いのかアイツ。

 

 特に機嫌が悪いと言うわけではないだろうが、無言での帰宅となった。今なら告白も出来るかと思ったけど、部活の事で頭が一杯なら邪険に扱われるだろうし躊躇われる。まあ突発的な奴はいつも失敗してきたし、やめておくのが無難だろう。無難を一番嫌うのは前守だし、今回はラブレターという中々イレギュラーな案もある。幸い明日から休みだ。時間はたっぷりある。せめて破られないように興味を引く文章を考えるとしよう。脚本部になるというなら、予行演習だ。

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