第5話

 社会人になった僕は、夏期休暇のため実家に帰省する。

 久し振りに降り立った駅から見えたのは、昔見たゆっくりと夜を連れて落ちていく夕日。


 橙色を纏い遠くの山々に沈んでいく夕日は、感傷が芽生える様なほど綺麗な景色だった。


 もう直ぐ日が完全に暮れる。


 駅から出て、家路に向かっていた足が無意識に止まる。


 あのひと夏の情景が、目の前の景色と重なり鮮明に蘇る。



 ――目を見開く。



 いま僕の目の前に居るのは、僕がずっと逢いたかった人。


 あの時より少し大人びた表情をした君は、顔に掛かる長い髪の毛を右手で押さえながら、僕を見て優しく微笑んでいた。


 瞳には、うっすらと涙を浮かべて。



「……あの時は、勝手に消えてごめんね。――おかえり」



 髪を風に靡かせたまま、沈みかけている夕日を背に静かに君は言った。


「……ただいま」


 そして今、四年越しの想いを僕は言葉に込めて、くしゃくしゃな泣き顔で君に返そうと思う。



「――僕は君が好きです」



 涙で濡れた君の瞳が、嬉しそうに僕を見つめていた。





 ―了―

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君と見た最後の線香花火。 S【雑賀 禅】 @zen_s

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