26.固有名詞の濃度

なるべく固有名詞を使わない。


『やがて来る僕らの終わり』ではいくつかチャレンジしたことがあるのですが、その1つがこれです。もちろん僕にとって長編を作ること自体がチャレンジだったわけですが、作りながらも少し意識してトライしてみたことが幾つかあったのですよ。しばらくそれの振り返りをして、しっかり血肉にしておこうと思います。


で、固有名詞の話。元をたどると、


「主人公が実際に登らない山には名前をつけない」


Twitterでとあるフォロワーさんがそんな呟きをしていたのが意識した始まりかもしれません。特にファンタジーを書こうとすると、世界に散らばるありとあらゆる要素が新しいものであるため、下手をするとページが固有名詞だらけになってしまいます。


で、新手の固有名詞がでてくると、


「なんだそれは?」


的な脳の反応が読者側ではあるはずで、そのフォローで作者側は説明書きに追われ、そのせいで本題がなかなか進まなかったりします。説明を後回しにするとしても、読者側とは距離感が開いてしまいますし、読者側の脳のストックにも限界があります。


なので、固有名詞の乱用は避けるべし、濃度高めは危険、という一種のセオリーが小説書きには存在しているはず。こういうのはなんかの創作論でも目にしたので、この界隈の人にはいまさら僕が強調する話でもないと思います。


じゃあ逆に少なすぎるとどうなるか。それはあまり創作論でも見たことがない気がします。ので、実際にやってみました。『僕らの終わり』で出てくる固有名詞は

・人名(犠牲者が結構いるので、種類は多め)

・主人公が通う学校名

・主人公たちの故郷

の3つだけだったはず。それ以外は全部一般名詞で済ませました。物語上どうしても必要だと思うもの以外は固有名詞化してません。彼らが現在住む街(設定では一応「黒川市」という架空の名がついている)や河川、警察署、病院、ショッピングモール等々……全部作中では名前を出さず、一般名詞だけにしています。


自作なので完全に客観視できるわけじゃないですが、印象としては「だいぶふわっとしたなあ」という感じです。固有名詞があると、意味が限りなく絞り込まれるので、文章にシャープな雰囲気がでてくるのですが、それがなくなるので文章が良くも悪くもぼやけました。


ただ、これは一人称に限り、あまりデメリットでもないとは思っています(が、実際どうでしょう?)。主人公の性格にも左右されると思いますが、あまり違和感なく作れる感触はありました。街の名前を出さなくても、ある程度物語として成り立つのは少々驚きでもあります。


特に今回はホラーだったので、なんとなく現実感がなくふわふわしているのがあまりマイナスに働かなかった感があります。


ただ三人称でこれをやるとかなり薄っぺらい感じになりそうなので、三人称はそこら辺のバランスは気を使いそうだなあと心配していたりします。


【固有名詞を使わないメリット】

・余計な説明、字数を削り、本題に入りやすい。

・読者的にも物語に入り込みやすい(と思う)


【デメリット】

・シャープな雰囲気、現実感が失われる。(特に三人称で)

・同じ要素を作中で複数登場させることができない。


とりあえずこんな感じですかね。次は三人称でしっかり書いてみたいと思っているので、このあたりも気にしていきたいと思います。

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