英雄都市の喧嘩屋(ブロウラー)

ライター

プロローグ

寮に帰ると中性的な顔立ちをした可愛い系の男子生徒がテレビを見ていた。

新雪のように白い肌と、形の整った顔、遠くから見ても分かる程の美少年だ。

美少年はこちらに気付くと一礼してから再びテレビを見始めた。部屋を間違えたかと一旦外に出て確認するが間違いない。ここは301号室であって、今テレビを見ている美少年の部屋ではない。


「いや誰だよ!?」


寮に帰ると当たり前のようにそこにいた突然の来訪者に道行良仁みちゆくよしひとはツッコミをいれた。


蓋世がいせい学園に入学してから一ヶ月、誰かを家に招き入れる程仲良くなった人物に覚えはない。だからこそ良仁は混乱しているのだが、向こうはなにも説明せずにテレビに釘付けになっている。


「何観てんだ?」

「……」


問いかけてみたものの答えは帰ってこない。自分の部屋でずっと玄関に立ちっぱなしでいるのもおかしいと思い、背負っていたリュックサックを定位置に置いて、美少年が見ているテレビを横から覗き込む。そこには子供向けのヒーローアニメが放送されていて、丁度エンディングの曲が流れ終えたところだった。


「すまない。勝手にお邪魔させてもらっている」

「邪魔するんやったら帰ってや〜」


良仁は冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ぎながら適当に返す。


「ここはベタにノリツッコミをすればいいのかい? ふむ……人生最大の屈辱だよ」

「そんなに嫌か!?」

「そもそも何故君はあまり驚かない? 家に不法侵入者が居るんだ。もっと慌てふためくのが普通だろう」

「この学園には個性が強いやつしかいなくてな。これぐらいじゃ驚かなくなった」

「へぇ、中々肝が据わっているじゃないか」

「一般人だったら誰でもそうなるっての」


美少年の言葉を軽口で返して、それだけいうとコップに注いだ牛乳を一気に飲み干し、白ひげを作ってぷはぁと息を吹いた。


「それはそうとして、君に伝えなければいけないことがある」

「なんだ? 言っとくけど、世界を救った英雄だとか、この学園に男は俺1人!? 夢のハーレム生活!! だとか、変身して戦う魔法少女☆とか、異世界チートで俺Tueeeeeとかだったら耐性ついてんぞ」

「君を殺しにきた。といっても君なら驚きはしないか」

「なにィィィィィィィッ!?」


ふふっと含み笑いをして、全てを見透かしたような両目で真っ直ぐと良仁を見据える。見つめられた当の本人は驚いて腰を抜かして、コップを落としそうになっていたが。


「めちゃくちゃ驚いているじゃないか」

「殺す、 殺すって俺をか!?」


良仁は取り敢えずコップを流し台に置いてから、慌てふためきだした。


「……なんだか調子が狂うな。 まぁいい、死にゆく君に自己紹介をしておこう。僕の名前は神路木雄大かみろぎゆうだい。君を撃つ死神さ。来てくれ、フライクーゲル」


そこまで言い終えると雄大の右手が紋章に包まれ、黒の光沢が美しい銃身に紅く禍々しいラインが刻み込まれたリボルバーが顕現した。


「やっべぇ!!」


すぐそこに迫っている危険を感じた良仁はすぐに玄関のドアを開けて、廊下へと躍り出る。


「逃げても無駄だよ」

「るっせぇ!! てめぇみたいなやつとまともにやり合うかっての!!」


逃げるが勝ちと言わんばかりに良仁は敵に背を向けて逃げ出した。しかし、雄大は追いかけることはせずに背中を見送るだけだ。

そして十数秒経った後、雄大は誰もいない虚空に向けて引き金を引いた。


「銃声音?」


寮が小さく見えるところまで逃げてきた良仁は、背後から聞こえてきた物騒な音に思わず振り返った。

―――その瞬間、左胸を銃弾が貫いた。


「は?」


ブレザーがじわじわと赤に染まり、自然と口の端から一筋の血が流れた。

少し焼けた匂いがし、焼きごてを押し付けられたように熱い痛みが襲う。両足で立つことがままならなくなり、やがて仰向けに倒れた。


「ガッ、なんだ、これ!?」


地面一面に血が広がっていく。素人目から見ても分かる通り、既に手遅れの致命傷だった。

何とか立ち上がろうとするが腕に力が入らない。逆に動けば動くほど気が遠のいていく。

体を引き摺って芋虫のように蠢いていると目の前に黒のローファーをが見えた。その足が雄大のものだと気付くのに時間はいらなかった。


「まだ生きていたとは中々しぶといね。じゃ、トドメを刺してあげるよ」

「なんで……こんなことを……!!」

「ごめんね。Fランクは全員こうする決まりなんだ」


問い掛けに淡々と答え、リボルバーの撃鉄を起こして倒れている良仁の額に付ける。

雄大の顔に罪悪感などは無かった。最初は魅力的に見えた白の肌も今は感情の色を削ぎ落として出来た白に見え、良仁の恐怖心を煽った。

数刻経った後、嫌に耳に残響する発砲音が鳴ったところで良仁の意識は途切れた。

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