②清水夏蓮パート「ゆ、柚月ちゃん? これから何を……?」

◇キャスト◆


清水しみず夏蓮かれん

篠原しのはら柚月ゆづき

中島なかじまえみ

舞園まいぞのあずさ

月島つきしま叶恵かなえ

牛島うしじまゆい

植本うえもときらら

星川ほしかわ美鈴みすず

東條とうじょうすみれ

菱川ひしかわりん

Mayメイ・C・Alphardアルファード

田村たむら信次しんじ

―――――――――――――――――――

 次の日の、笹浦第二高等学校。

 放課後の午後四時を迎えた現在は、帰宅する生徒や部活にひた向く生徒と別れ、多種多様な時間の過ごし方が見受けられる。ゴールデンウィークが近いためか、新学期の疲労を思わせない活力に溢れていた。


 笹浦二高の一階パソコン室には、十一人の少女たちと一人の男性教諭が集合していた。廊下からのぞけるガラス張りの一室には、一クラス分の人数に値する台数、一席に三人ずつ座れる横長机が配置されている。


「みんな! 一昨日おとといは練習試合、お疲れさまでした!」


 部員顧問皆の視線を集めるホワイトボード前で、笹二ソフト部主将の夏蓮が笑顔の一礼を示した。


 一昨日に初練習試合を終えた、今年新設の笹浦二高女子ソフトボール部。名門――筑海つくみ高等学校と激闘の末、惜しくも敗北という形で終演したが、全員のソフトボールに対する印象はより良いものへ変わっていた。


 特に夏蓮自身、この試合には大きな意味があったと実感している。


わたしたちでも、試合ができたんだ。最終回まで、このみんなで』


 顧問の信次とで始まった、遠いようで最近の過程。しかし現在では、試合可能人数を越える部員とマネージャー――計十一人の仲間たちで結成を果たした。短期的だが厳しい練習を共に乗り越えたこと、また今回の試合に繋げたことで、互いの能力及び絆の強度が増したに違いない。


『ありがと、先生、みんな。このメンバーで、みんなといっしょにソフトボールができるなんて、夢のようで嬉しいなぁ』


 右側前席に並ぶ凛と菫にメイ。

 次に左側後方席の美鈴と唯からきらら。

 また中央前列二席に座る梓と咲に、柚月と叶恵。

 そしてホワイトボード隣の教員用事務机で見守る信次に、一人ずつに感謝の微笑みを放った。

 まだ全員が親友とは言えぬのかもしれないが、その将来も近い気がする。そう信じて深呼吸し、改めて本日の活動へ向かう。


「じゃあ今から、ミーティングをやってきます。今回の練習試合で見えた課題も意識してもらうので、みんなよろしくお願いします!」


 創設初のチームミーティングが開始。

 スコアブックを抱いた柚月と、副主将の叶恵も起立し、夏蓮を挟むように前へおもむく。


「いい!? 今からのミーティングは、今後のアタシたちの成長が掛かってるの!! 一人一人真剣に臨みなさいよ!!」


 早速教卓に両手を置いたエースが先陣を切り、甲高き怒号で集中をあおった。相変わらずの熱血ぶりは、ミーティングでも窺える。


「じゃあ、まずは梓からね~……」


 続くように柚月もスコアブックを開くと、まずは緊急登板で参加した梓に注目が集まる。校内モテモテなマネージャーの大人びた笑顔も向けられていたが、突如として細目の冷徹顔に染まる。


「なに、この結果は? アンタ、ヤル気あったの?」

「うぅ……すみませんでした……」

「柚月ちゃん、こわ……」


 ドS女王様の前に震える梓は下を向き、返す言葉など鳴らされなかった。


『梓ちゃんの成績は、アウト二つの2/3三分の二で、四球フォアボール二つと死球デッドボール一つ……サヨナラ打もあって、確かに残念だったけど……』


 まるで公開処刑にも見て取れ、自分の番が恐ろしく感じるほどだ。片足重心にため息まで漏らした柚月の圧は、梓を更に追い込む。


「いくらコントロールが悪いって言っても、あんなに荒れてちゃ捕手だって困るわ。キャッチャーを何だと思ってるのよ?」

「おっしゃる通りです……」


 全てのアウトが三振だったが、ボール球こそ多かった不器用左腕。小学生当時、共にバッテリーとして躍動したマネージャーの言葉が、肩の落ち込み具合から深く刺さっていることがわかる。


「ということで梓は今後、とことん投げ込みをやってもらうわ! まずは四分割のストライクゾーンへの投げ込み。最終的には九分割にしてもらうから!」

「はい、何なりと……」


 覇気の無い返事には、夏蓮も眉を垂らして心配した。


 打席内で構えた打者のひざからわき下までの高さ、加えてホームベースの広さから表示されるストライクゾーン。それを四分割に区切ることで、制球力を高めるそうだ。


 後には更に細かい九分割に挑むようだが、梓には既に大きなプレッシャーになっているだろう。苦手を克服するには、想像以上の時間と労力が掛かるのだから。


「……咲、ゴメンね……ウチガンバって、咲がもっと捕りやすいようにするから」


 梓から申し訳無さそうに囁かれた、隣席の咲。練習試合では、叶恵も含む二人の投球をミットに収め、未経験の捕手を全うした一人だ。

 またタイムの際、投手それぞれを鼓舞する場面も見受けられ、バッテリー間の頼もしき大黒柱とも言えよう。


「気にしな~い気にしな~い!! アタシだってまだまだキャッチャーとして未熟だし、お互いガンバろっ!」


 ニッと白い歯を見せた咲の右手が、暗い梓の左肩を叩き励ましていた。おおらかな性格もお転婆のチャームポイントであるが、無下むげにも矛先が向かってしまう。


「そのとおりよ!! アンタは未熟極まりないわ!!」

「ぅわっ! 叶恵ビックリさせないでよ~」


 背の低いツインテール少女が、咲に人差し指を向けて睨んでいた。細い指先が震えている分、怒濤どとうの深さが計り知れない。


「キャッチャーとして、配球の仕方がいい加減すぎる!! インコースの次はアウトコースの繰り返しって、どんだけ安直な配球よ!!」

「いやぁ~そのですねぇ……えん、きん……遠近法、そう、遠近法ってやつですよ!! アッハッハ~!!」


『咲ちゃん……それ、最近美術で習った言葉だよね……』


 言い訳が思い付かず、無理矢理結びつけたのだろう。横目の夏蓮はあえて心で呟き、繰り広げられる説教を静かに見送ることにした。


『咲ちゃんの成績は、四打数の一安打。一打点の長打でもあったけど、慣れない捕手と落ち着かない四番は厳しかったのかも……』


 極度の上がり症が原因で不振だったが、鬼軍曹には同情する様子が無さそうだ。


「アンタはもっと、知識と経験が必要ね」

「ですよねぇ~……」


「そのうちソフトボールの勉強会とかも開こうと思ってるから、そこでキャッチャーとしての知識を身につけなさい!」

「エエェェ~!! 勉強~!?」


 突如立ち上がった咲は全身で嘆いたが、幼馴染み界隈かいわいではよく見る光景だ。


『咲ちゃんって、超絶怒濤の勉強嫌いっだもんね……』


 小学生から今日まで同じ学校を通う、長い付き合いの親友。部活やクラブの練習による疲労で、何度も居眠り授業を繰り返している。


 今日の授業さえ、六つ中五つは机でうつ伏せ状態だったが、本人いわく、六打数五安打の猛打賞と一切の反省を示さなかった。赤点だらけの成績に関しては、もはや言うまでもない。


「アハハ~……絶不調なり~……」


 ついに机上でひれ伏した咲は、うつろな目で気味悪く笑い始める。魂までも抜けかけていたが、梓が頭を優しくポンポンと叩くことで、なんとか瀕死ひんしとどめていた。


「まったく~……まだまだ穴だらけなんだから~」

「叶恵も叶恵よ?」

「ウ゛ッ……」


 生き生きとした腕組み姿の叶恵だったが、疑わしい視線を向ける柚月の一声で沈黙する。次なる犠牲者が決まったようだ。


「まぁ前半の投球は問題なしだったけど……如何いかんせん後半がダメダメね~」

「ダメ、ダメ……」


「後半から三振が全然取れてなかったし、ボールも浮き気味で軽く感じられたわ」

「う、うぅ……」


 背の丸みが徐々に明らかになる叶恵には、先ほどまでの威勢が失せていた。


『叶恵ちゃんの成績は、ピッチャーだと六回0/3三分の零で六失点……でもバッターでは、四打数三安打と一盗塁で、チャンスをたくさん作ってくれた』


「叶恵はとことん走って、足腰の筋力とスタミナの強化に励んでもらうわね」

「……ぅわ、わかってるわよ」


 アイドルのような眩しい笑顔で告げられ、禍々まがまがしき苦汁くじゅうめさせられた様子だ。


 確かに柚月の指摘はもっともで、叶恵の問題点は一試合を投げ抜くスタミナだ。先頭打者の重役も負荷の一つだが、俊足しゅんそくを光らせる経験者でもあるため、是非続けてもらいたい。本人の意向も尊重して。


「うぅ……」

――「ヒヒッ……」

「プチッ……ぬ゛ぁ~に゛がおかしいのよ゛?」


 ふとパソコン室後方から笑い声が響き、拳まで備えた叶恵の鬼面きめんが唯へ刺し向かう。


「ヒヒッ……だって、さっきまでのいさぎよさが途端に無くなってんだもんよ~! ざまぁねぇと思って!」

「ブチッ……うっさいわね!! 第一、アンタら何でそんな後ろにいるのよ!?」


 二つ縛りの美鈴と茶髪御嬢様のきららも笑う後方席にて、中央の長袖黒タイツな姉貴分あねきぶんが得意気に放つ。


「オレらは、ここが一番落ち着くんだよ~だ」

「席の配置でキレるとか、マジ悪魔っす!」

「デーモン叶恵閣下にゃあ」


「ブチリッ……お前ら三人わら人形にしたろうかァァ!!」

「叶恵ちゃん! 落ち着いて落ち着いて!」


 ボルテージは臨界点を間もなく超えるところだったが、夏蓮が背後から抱き締めたことで抑止する。鬼面は依然としてがれなかったが。


「でも、牛島さんたちにも課題はあるわ」


 すると正気しょうきの柚月が流れを戻し、笑い止んだ唯たちをまばたきさせる。再びスコアブックを見つめながら、今度は少し優しげなマネージャーとして評価を下す。


「まず、牛島さんはバッティングはスゴく良かった。結果も出てるし、このまま続けていってほしいわ」


 練習試合では力強いスイングから本塁打ホームランまで放つことができた、五番サード唯。未経験者ながらも頼もしい彼女には、柚月も心から褒め称えているようだ。


『唯ちゃんの成績は、四打数一安打の二打点一ホーマー。あの弾丸ホームランは、ホントに凄かったなぁ~』


「お、おぉ……んで、オレの課題ってなんだよ?」


「守備を強化してほしいの。サードは普通の打球だけじゃなく、バント処理やベースカバーもあるからね。守備は今まで以上に俊敏しゅんびんつ丁寧なプレーが期待されるから、その動きを一つ一つ覚えてもらうわ」


「俊敏克つ丁寧、か……わぁったよ」


 自覚もあるためか、素直に受け入れた唯は腕組みでこうを実らせていた。


 最終回の送球エラーを引きずってるのかもしれない。また試合に限らず、練習中の守備でもまだまだ確実性がうとい。反応が遅れて狭まる守備範囲や、打球をしっかり掴めずファンブルの姿も記憶に新しい。


 今後は、打撃とも似た攻めの守備が期待されるだろう。


「俊敏克つ丁寧……俊敏克つ丁寧……」


「それから星川さんも、牛島さんとほぼ同じかな。打撃はまだ発展途上だけど、ファーストの守備も肝心だから。一塁三塁の両サイドを守る者として、いっしょにガンバってね」


「お、同じ……うちが唯先輩と、同じっすか……」

「ミスズン顔真っ赤にゃあ」


 赤面し始めた純情乙女だが、隣で考え込む憧れの先輩には気づかれていないようだ。


『美鈴ちゃんの成績は、四打数無安打。でも、ツーストライクからの四球フォアボールが一つあったのは大きかったと思う』


 目立った活躍は無かったものの、決して悪い成績でもない。特に追い込まれてからの四球を獲た美鈴には、ストライクとボールを判断する選球眼の強さがあるようで、打率よりも出塁率が期待できる。


「ユズポン!! きららは何したらいいにゃあ?」

「うん、両方!」

「両方、にゃあ?」


 柚月が笑顔を満面に染め、茶髪猫娘をかしげさせる。


「植本さんはまずぅ~、守備と打撃の基礎をしっかりやってもらうからぁ~、よ~ろしくぅ~」

「に゛ゃっ……にゃはは~、きららの命日は近いようにゃあ~」


 要するに問題だらけと告げられた。咲と同様、きららも机上で倒れ込み消沈してしまう。幽体離脱者二人目が現れた。


『でも、きららちゃんの成績こそ、確認しなきゃいけない』


 レフトでの守備では、一球だけゴロを捕って、助走からの勢いでホームへとレーザービームを魅せた。普段の練習でトンネルばかりしているにも関わらず。

 またバッティングでは、ボールにバットが掠りもせず、内三打席が三球三振だったが。



『最終回、ホームラン打ったんだよね……きららちゃんって』



 スコアに四点が記された、七回表の攻撃時。

 内一点は咲の適時打タイムリーヒットで得たが、残る三点は紛れもなくきららの一振りからだったのだ。誰もが追加点を諦めかけていたあの瞬間、レフト頭上を悠々と越していった打球は今でも目に焼き付いている。

 そんなバカな! と思ってしまったことも事実だ。


“「テキトーに振ったら飛んでったにゃあ!!」”


 本人はそう語っていたが、あまりの驚愕ぶりにベンチが静まり返っていたことも忘れてはいない。七番レフトに連なるラッキーセブンがもたらした意外性は、想像以上に飛び抜けていた。



『――きららちゃんって、何者なんだろ……?』



「成仏先は、せめて天国にしてほしいにゃあ……」

「フフフ! さて次は、あなたたち三人ね」


 力抜けたきららに僅かな慈悲も抱かぬまま、鬼マネージャーは次にメイと菫に凛の一年生三人組に振り向く。金髪ツインテールが愉快に揺れる一方で、ポニーテールと癖毛ショートが緊張で固まっていたが。


「……正直あなたたちには、これと言って問題点がないんだよねぇ。もう未経験者じゃなく経験者として、今後の練習で更なるレベルアップをしてもらえれば良いわ」


 スコアブックを元にした意見は意外にも、現状維持に相応ふさわしかった。ここまでの流れを背く形だが、それぞれの成績を確認すれば納得できる。


『まずはメイちゃん! 四打席で二安打に四球、それに犠牲フライ! 三打点の大暴れだった!』


 文句の付けようがない。チャンスを広げる働きに加え、センターにおける堅実な守備、また持ち前の大声で周囲へ指示も送っていた。部内一低い身長だが、主将顔負けのアメリカンスラッガーである。


「ニヒヒ~……柚月ちゃんセンプァ~イ?」

「な、なによ?」


 すると奇怪にニヤつきをしたメイが、柚月を少しけ反らせる。


「そのデスネェ~……ワタクシ当初はsecondセカンドを守る予定デシタガ、今後はどうなりマスカ~? ……ニヒヒ~」


「不審者……あ、でも、守備位置が増えることはとても頼もしいわ。フィールディング練習のときなんかは、セカンドでもいいし、他の内野も是非やってみてね」


「ほ、ホントデスカァァーーッ!!」


 サファイアの瞳をキラキラと輝かせ、起立までしてみせた。


「こ、今度はずいぶん嬉しそうね……」

「それはそれはとっても嬉しいデスヨ~!! 棚からぼた餅が降ってきたようデス!!」


 決して弱点とは言えないが、今回外野だったメイには時おり、内野捕りの癖が垣間見える。勢いをつけて遠くへ投げる外野捕りとは異なり、打球を待つように股を開いて捕球していた。


 アメリカ経験の彼女は恐らく、主に内野を任されてきたのかもしれない。ならば今後は守備位置変更もあり得るが。


――パシッ!!


 刹那、制服と制服がかさばる音が聞こえた。メイと合わせて夏蓮も音主へ目を送ると、凛のか細い両腕が菫の右腕を掴んでいた。鋭い目付きまで、金髪幼女に放ちながら。


「凛? What's up ?」

「菫の隣は渡さない、菫の隣は渡さない、菫の隣は……」

「り、凛。ちょっと怖いんだけど……」


 呪いの呪文と言わんばかりのトーンで話す凛には、菫も苦笑いを浮かべていた。遊撃手の相方とも言える二塁手の執着心は、誰よりも強いらしい。


『アハハ……そんな凛ちゃんの成績も素晴らしかった! 三打席で一安打。特に送りバントをしっかり、二回も決めてくれた!』


 九番から先頭打者に繋げる姿勢が、毎度欠かさなかった。また走者だった菫と協力して放った一安打は、以心伝心の親友像が随所に現れたヒットエンドランである。


「ニヒヒ~。そうなると、凛とはrivalライバル関係となりマスネェ~。ワタクシも、転職先はsecondが第一志望ナノデ」

「それを言うならコンバートでしょ……あなた英語圏だよね?」

「まぁまぁ二人とも、仲良く仲良く!」


 犬猿の仲たる二人を、菫が和やかに仲裁する。凛には未だに警戒心を抱いた顔つきだが、大事にまでは至らなそうだ。


『そして最後は菫ちゃん! 四打数三安打の猛打だった! 守備でも、ショートという難しいポジションをこなしてくれたし、未経験者の中で最も活躍してくれた一年生だ!』


 たぐいまれな運動神経の持ち主に他ならない。今まで部活動の経験すら無いと聞いていたが、笹二ソフト部の中では既に頼もしい存在だ。


 一年生の間でもまとめ役を買い、リーダーシップ性も富んでいる。七人大家族の姉ともあり、強さと優しさを秘めた逸材選手とも言える。


「まあ強いて言うなら、二遊間は内野守備のかなめとなる存在だから、ベースカバーの動きや外野からの中継とかも練習してもらえるといいわね」


「わかりました! ガンバろうね、凛!」

「うん。菫といっしょならできそう……」

「ワタクシもガンバっちゃいマスヨ~!!」


 気分上々なメイの一声には、凛の表情がやはりかたくなに戻っていた。ライバル関係と敵対心は別物だと理解していれば良いのだが、平和な一時はしばらく時間が掛かりそうだ。


『はぁ~。次は、ついにわたしだ……』


 自身以外の出場メンバー全員の評価を終えた今、思わずため息が溢れ出る。

 成績を思い出す限り、唯や菫たちのようにたたえられる活躍など皆無。強いて挙げるならば死球デッドボールぐらいだ。


 経験者という高いハードルもあるため、梓や叶恵に咲と同じように批評を受けることだろう。



『なに、言われるんだろ? ……怖い』



 全身に緊張が走り、大きな恐怖まで覚えかけたが。



「ということで、これからみんなには是非観てほしいものがあるの」



「あれ……?」


 不思議にも予想が外れ、リモコンを握った柚月はパソコン室天井のプロジェクターを起動させる。


「ゆ、柚月ちゃん? これから何を……?」


「とある一試合を、今から上映するわ。じゃなきゃ、シスコン兄貴に頼んでまでパソコン室貸し切りにしないわよ」


「そ、そうだったんだ……」


 唯一無二の兄さえ批判する無双女王様の操作で、ホワイトボード上にもプロジェクター画面が下がる。


「こ、これって……」

「えぇ……」


 室内のカーテンを閉めて電気を消し、青い画面にタイトルが浮かび上がる。



「――去年の夏行われた、茨城県インターハイ予選の決勝戦よ。自分たちそれぞれのポジションの動き、バッティングや走塁も含めて、集中して観てね」



 先ほどまで気絶していた数名も目を覚まし、全部員と顧問が“インターハイ予選決勝戦 筑海つくみ高校 VS 磐湊戸いわみなと学院高校”の白文字へ注目する。去年の西暦と六月の日付が小さく刻まれたことから、どうやら一年前に録画された映像だ。


「……柚月ちゃんが録ってきたの?」

「ううん。昨日の晩シスコン兄貴に頼んで、ネットから落としてもらったの」

「またですか……」


あたしたちがこれから、どんな敵を越えなくてはいけないか……みんなには、将来こんな相手と戦うってことを覚えてもらうわね」


 まずは敵を知ることが大切だ。それこそが成長及び発展へ繋がると意味したマネージャーは、人差し指で再生ボタンを押し込む。


『去年の筑海つくみ高校……対して磐湊戸いわみなと学院高校……どんなチームなんだろ?』


 初の試合後ミーティングが始まってから、約三十分が経過した放課後。

 現時点では夏蓮への評価が一切鳴らされていないが、他チームの試合観戦が始まる。新参者たちの瞳にまで映し出された、炎天下を超越した激闘の決戦が。

―――――――――――――――――――

きらら「どうして信次くん、一言も台詞が無いんだにゃあ❔🙀」


信次「来週の火曜に向けて、ちょっと慌ただしくてね😅」


唯「三月六日に何かあんのかよ❔😒」


信次「うん😌でも、君たちなら、言わなくてもわかるんじゃないかな❔二年生だから、二年前の今ごろさ😜」


きらら&唯「「二年前……💡あぁ~✴」」

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