春の鈴音


 夜の闇は否応なく深くなる。

 叔父と引き離されて丸一日経ち、休むために母や妻たちのいる部屋へ向かっていた時だった。妻が部屋から出てあたりを見渡していたのだ。まほろばの者たちがいるということもあり、部屋からは出ないように口添えしていたというのに、何かあったのか。


「ユキ」


 私だと気づくや否や、泣きそうな顔で妻は私に駆け寄ってきた。


「どうした」

「沙世が、沙世が見当たらないのです」


 焦燥をこれでもかと表して妻は告げた。夜目にも見て取れるほど真っ青な顔だ。


「沙世が?屋敷の中にいないのか」

「探しました。でもいないのです。どこにも」


 嫌な予感がした。


「いつからいない」

「ついさっきです。先程までお義母さまのところで寝ていたのです。なのにふと目を離したらいなくなっていて……カヤと探していたのですがどこにも……どうしましょう、どうしましょう」


 沙世は好奇心の旺盛な娘ではある。それでも近頃は見慣れぬまほろばの者たちに驚き、母や弟、カヤと共に小さくなって過ごしていたのだ。加えて今は森が雨風や雷を轟かせている。だというのに、皆から離れるとは。何故。


「外になどに出ていたら……!今、外は森の祟りで恐ろしいことになっているのに!」


 混乱している妻の背を撫でた。もともと森のカミを崇めていた一族の者であった妻は、カミを蔑ろにする今の事態を非常に恐れていた。


「沙世に何かあったら、私、私は……!」


 年端もいかない幼子が、あの「死」が蔓延る外へ一人で行ったと思うと、胸が恐ろしいほどに騒ぎ出した。「死」が森にしかいないという保証などどこにもないのだ。特に今の状態では尚更だ。

 あれがあの子に触れたら、あの子まで命を奪われる。まるで人形のように事切れる。


 ああ、駄目だ。沙世。


「ユキ、お前はカヤと屋敷を探していて欲しい。私は外を探す」


 妻が何度か繰り返し頷くのを見届けて、まほろばの男から譲られた太刀を手に、未だ雨風が降りしきる外へ飛び出した。この太刀が、私が持つ最も強い武器だった。




 外は混沌とした闇に包まれ、雨に濡れた土の匂いに満ちていた。遠くで風が唸る音がする。向こうに見える森の樹をこれでもかと揺らし、今にも倒れそうなほどに枝や幹を左右に振っている。絶え間なく降る雨は私の顔をひどく濡らし、視界を妨げた。一歩踏み出した時、雨が降りしきる闇夜を大きな音を伴わせて、白い雷が切り裂いた。


「沙世!」


 森への侵入を試みた昨夜と比べれば雨風は弱まっていたが、視界が遮られてしまう。雷が近くで鳴っている。

 沙世は雷が大の苦手だった。雷が鳴る時はいつもユキの膝の上で小さくなって抱きしめて貰っているのだ。外にいるのなら、どこかで怯えて泣きながら私や妻を呼んでいるに違いない。


「沙世!!」


 走り続け、ムラの人々に聞いて回っても幼い娘の姿はない。娘の遊び場や、皆で耕す田畑にも、一人として人影は見えなかった。そもそもまほろばと関わってからというもの、ムラの人々と長である私の関係は希薄になっていた。加えて今回のことで皆が森を恐れ、外へ出ようとしなくなっている。

 人気のない夜のムラは、見慣れぬ異様なものとして私の目に映った。時間が経つにつれ、焦燥も増していく。

 他にあの子がどこへ行くかと考えて、最も可能性が低い場所が脳裏を過ぎった。


 ──森。


 思いついた場所にまさかと信じられない思いを抱きながら、泥を飛ばして駆け出した。娘が一人でそこまで行くとは到底考えられなかったが、少しでも可能性があるのならば行かないわけにはいかない。事実、あの子の姿がどこにもないのだ。


 森へ向かっていると、思いがけない高い音が断続的に鳴っていることに気づいた。

 自然のものではない。自然の中からは鳴らない音だ。

 どこから。自分が向かっている方向から。

 森の、方から。


 嫌な予感があった。怖いくらいの、確信めいた何かが。

 走り抜けていくと、人の世とは思えぬ暗く巨大な森の前に、小さな影が佇んでいた。明らかに幼子の後ろ姿だ。夜の闇以上に深い黒に染められた森の影に今にも飲み込まれそうだ。

 それと同時にずっと聞こえていた高い音が、その影から鳴っていることに気づいた。聞き覚えのある音だった。

 そうだ。沙耶がよく、社で鳴らしていたあの音。


──鈴。


 鈴の、音。




 幼いその姿は雨が降りしきる暗い森を見つめて、こちらに背中を向けていた。鈴を鳴らし、音の余韻が雨の中を響いたと同時にその子の足が森へ一歩進み出る。

 森は子供が行くような場所ではない。娘が言葉を発し始めた頃から、ここへは近づくなと言い聞かせてきた。森へ繋がる道も教えたことはない。

 昔はともかく、今は違うのだ。森を漂う不気味な、人の世に有らざる気配が誰をも寄せ付けようとしない。


 鈴の音を鳴らすその子の姿は、昔の妹の姿に重なった。不思議そうに、惹かれるように森を見つめ、この世のものではなくなるような──。

 森に兄妹で入り込み、妹だけが行方知れずになった後前代未聞の帰還のあとから、沙耶はそうなった。ムラへ戻ってきたこと、森の中で『人』にあったということ、それからこの森に惹かれる様子から、大婆様は「沙耶は巫女に相応しい娘だ」と言い出したのだ。

 その時の私は何も違和感がなかった。沙耶は私たちの家系の唯一の女子として生まれ、年頃だった。そうと決められて育てられてきた。だがあの時から沙耶は──。


 鈴の音に、遠い記憶から意識が引き戻された。

 雨風、雷にも意に介さず、目の前に森に向かって佇む幼い娘はその沙耶と同じに見えた。

 沙世。その鈴を、お前が、鳴らしているのか。


「沙世……」


 信じられない気持ちで、亡霊か何かを見るような心地で娘の前に出て、その顔を恐る恐る覗き込んだ。幼い娘は不思議な虚ろな面持ちで、雨に身体を打たれながらも森に魅入っていた。父である私の姿など捉えていない。その右手には鈴が握られていた。断続的に鈴を揺らし、その音を雨降る地に振りまいている。

 その子は、あと数歩で森に入るところだった。あの男たちが「死」に「生」を奪われたところでもある。


「その鈴は……」


 社にいた沙耶が持っていたもの。儀式の時に使っていたものだ。娘にこれを持たせた記憶はない。沙耶が森を出るときに社に置いていったはずのもので、森から誰も持ち出したことはない。

 カミを慰めるもの。森と沙耶とを、繋いだ、もの。


「沙世!」


 腹の底から憎悪のようなものが沸きだし、娘の小さな両肩を掴んで揺さぶった。


「沙世!!」


 呼ばれた娘は鈴を握りしめたままだ。


「これを放せ!」


 鈴を取り返そうとその小さな手を掴んだ。その子の手は死人のように冷たい。固く握られた手を開かせ、鈴をもぎ取った。


「沙世!!父を見ろ!」


 はっと我に返ったように娘は私を目に捉えた。初めて自分の状況を理解したようで、不思議そうな顔をして私を見つめた。


「どうしてこんなものを……!」


 小さな肩を掴み、取り上げた鈴を咄嗟に投げ捨て、我が子を腕に抱きしめた。幼い娘の身体は怖いほどに冷え切って震えている。

 この子は、何故こんなところに来たのか。繋がる道も知らぬまま、何故来ることが出来たのか。どうであれ娘が無事であったことに、ひどく安堵した。


「……いやあや!」


 唐突に沙世はむずかり、身を捩って地面に落ちた鈴に手を伸ばした。


「駄目だ!」


 娘の身体を鈴から遠ざけようと押さえ込んだ。


「かえして!」


 押さえ込まれ、鈴に手が届かないと知った娘はわっと泣き出した。私の腕の中で暴れ、ぐっと身体を反らそうとする。その娘の姿に狼狽した。


「沙世……何故」


 娘が見つかった安堵を越えて、森の巫女の神具を娘が持っていたことや娘がそれに執着していることへの恐怖心が這い上がった。怒りのような。焦りのような。この子を妹と同じにさせてたまるかと、それに繋がるものをすべて排除しようとするような。


「答えろ!沙世!」


 吠えるようにして叫び、娘の肩を掴んで揺さぶった。


「あなた……?」


 屋敷から出てきたらしいユキと侍女が様子を窺いつつこちらへやってくる気配がした。

 だがその二人を振り向くことが出来なかった。靄のようなものが脳裏を覆い尽くし、カミのために存在したものが娘の手にあった事実があまりに恐ろしく、それは不穏な心地をこれでもかと増大させ、私の視界を奪った。娘が神具をどこから手に入れ、どうしてここまで来たのか。虚ろに森に魅入る娘の表情を思うと恐ろしかった。

 今まで、沙耶のことを悔やんで生きてきたのだ。同じ血を引くこの子も同じ道を辿ることになるのではないかと恐れながら、森から引き離して育ててきたというのに。


「沙世!言え!あれはどうした!?何故お前が持っていた!」


 ユキが悲鳴を上げて私の腕を掴んだ。


「あなた!やめてください!」

「沙世!」


 私は妻の声に構わず娘を揺さぶった。


「沙世が怯えています!」


 妻の切羽詰まった声に我に返った。妻がこんなにも声を荒げたのは一緒になって初めてのことだ。

 手元に視線をやると、己が掴みかかっている娘は、ふええ、ふええと顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっている。


「ああ……沙世、おいで」


 沙世は私の手が衣から離れると、自分を呼んだ母の腕の中に逃げるように収まった。


「沙世、どうしてこんな所に。こんなに身体を冷やして……」


 母の胸に縋り付く幼い娘は何も語らないまま泣きわめいている。娘を覆うように抱きしめたままの妻は私を仰いだ。


「一体何があったのです。沙世にあのように声を荒げるなどあなたらしくもありません」


 確かにそうだ。沙世を叱ることはあっても、あれほどまでに怒鳴りつけたことはなかった。

 何故、あれほどまでに私が取り乱したかと言えば、鈴が娘の手にあったからだ。大事な娘が、おぞましいカミの森に入ろうとしていたからだ。

 カミに連れて行かれた妹に、重なったからだ。


「沙世が、あれを持っていた」


 妻に娘から取り上げた鈴を示した。土の上で雨に打たれながらも、その金を煌めかせている。

 妻は驚いた顔をして鈴を見つめ、それから己の腕の中でしゃくりを上げている沙世を見た。ユキはこの鈴が何であるか分かったようだ。そしてその隣に侍るカヤもまた同じく驚愕の表情を浮かべた。二人はこの鈴を目にして、これを沙世が持って森に入ろうとしていた事実を知るなり、私が取り乱した理由のすべてを悟ったようだった。


「……何故、鈴を?それは森の社にあったはずでは」


 いつ、どこで手に入れたかが分からない。沙耶がこれを使っていたことも、これが森のカミを慰めるものだとも、娘は知らないはずだ。巫女のものなど持ってきた覚えはなかった。何故、これがここへ。


「沙世」


 もう一度呼びかけたが、沙世はびくりと身を震わせ、母の方へ身を寄せて私から隠れようとした。それを目にした妻は娘を抱き上げて立ち上がった。


「話を聞くのは明日にしましょう。今日はきっと何を言っても駄目でしょうから」


 私が頷くと妻は娘の髪を撫で、カヤを振り返った。


「戻ります。カヤ、戻ったらすぐに湯を沸かして頂戴。この子を暖めてあげなくては」

「はい、すぐに」



 カヤと共に妻が歩き出したのを見送ってから、地面に投げ捨てられたままの鈴を手に取った。このままにする訳にはいかなかった。どこかに隔離しなければならない。

 見た目よりも重みがあり、泥に汚れ、濡れそぼってはいたものの、神々しさがあるのはその金の色ゆえだろうか。

 遠くで雷が轟き、その光に鈴が反射する。

 その時、背後から風が吹いた。雨や雷に荒れている状態では考えにくいような優しい風だった。


 ふと、歌声が聞こえた。かすかに聞こえる程度で、雨や雷の音にかき消されてしまう、残り火から出たか細い煙のような音。

 しばらく漠然と聞いていて、はっと息を飲んだ。


「──沙耶」


 妹の声だ。たおやかに、ゆるやかに歌うあの声は、かつて森の社で奏でていたものだ。

 どこから聞こえるのかは定かではない。森から、というわけでもないようだった。声の源を探ろうとしたものの、意識は歌そのものに攫われていく。


 そうだ。その歌声にこの鈴の音がいつも傍にあった。

 沙耶が歌い、この鈴を鳴らし、祈りが続く。

 その時に吹いていた風が、この優しい風だった。懐かしさに泣き出しそうになった。

 昔はそんな暖かな場所にいたはずなのに、今の自分はなんと冷たい場所に立っているのか。


 鈴を手にした腕が動き出す。かざした腕に繋がる手首を少しひねれば、美しい音色が降ってきた。金の光のような、太陽の木漏れ日のような。

 沙耶は、いつもその中にいた。

 沙耶はいつも、この春の中にいた。


 輝かしい緑に囲まれ、暖かな光の中で巫女の衣に身を包み、美しく微笑む、ただ一人の妹。


 対して私は、凍てつく冬のようなところにいた。いつ破れるかもしれぬ氷の上のような道を歩いている。きっとこれからも続いていくだろうこの道を、枷のような重りをつけて。

 冷えて動かなくなった胸の内に響くその鈴の音は、春そのもののように感じた。


 己を覆うほどに聳えた大いなる森を仰いだ。この奥に、沙耶がいる。どういう原理かは分からない。この鈴を通して、森の奥にカミと共にいる沙耶の声が届いているのだと感じた。

 鉄で負った傷が癒えずにいるあの化け物を、沙耶は巫女の歌でそれを癒やそうとしているに違いなかった。あの沙耶ならば、必ずそうする。歌に慈愛があるのはそのためだろう。

 併せて、この微かな声になりきれぬ音は、出産によって命を落としているかもしれないという考えを払拭し、沙耶の命は続いているのだと私に教えてくれるようだった。

 生きていたのだ。この森に囲まれて。

 カミの子を産んでもなお、あの子は生きていた。

 湧き出るように自分の前に垂れ下がってきた一縷の希望のような事実だった。


 同時に娘の沙世がここで佇んでいた理由が分かった。私と同じだったのだ。沙耶を感じたからだ。


──沙耶。


 春の風がある。鈴が鳴ると春の光が落ちてくる。雷鳴も雨音も、どこか遠い世界で鳴っているように聞こえる。

 己の足が森への道に踏み込んだ。あまり物を考えられなかった。枯れていたはずの涙が目頭から溢れそうだった。手にした鈴を鳴らすと、心なしか暖かな歌声は大きくなった。

 幼い妹の手を引いて、森へ足を踏み入れたあの頃に戻ったかのようだ。


 そう、あの頃。

 どこまでも駆けていきたくて、幼い妹とともに冒険へ飛び出した。楽しかった。興奮した。大きくうねる根に、驚くほど高く聳えた立派な木々。たわわと溢れる若葉の間から陽の光が自分たちに落ちてくる。ムラの者たちや両親が言うような恐ろしさはなかった。美しい場所だと子供ながらに泣きそうになった。そして己は自由なのだと、大きく笑って飛び跳ねていた。


 あの頃、私は森を愛していた。



 その時、泣き出しそうなほどに懐かしく遠い記憶の中を、突如雷のようなものが貫いて自分の意識を引き戻した。ついさっきまで目の前にあった暖かな幻影が跡形無く消え去る。

 何か突っかかりのようなものが、私がこれ以上進むことを拒むようだった。しかし、全く進めないというほどではない。目に見えない薄い膜のようなものがあり、ぐっと足に力を込めれば膜が纏わり付きつつも先に進めた。

 これは、何だろうか。


 幼い頃の記憶から我に返り、ずるりと重く落ちた視線は、地面から自分の足元へと登り、やがて自分が携えていた太刀を捉えた。

 息を飲んだ。身体が震えた。腰にあるのはまほろばの男から貰った太刀であり、鞘の中には鉄が納められている。


 目が覚めたようにあたりを見渡して、自分が森の中に入っていることに更に狼狽した。鉄を近づけただけで森が暴れた記憶が甦って血の気が引いたが、己の身に何も起きていないことに気付くと忽ち私は冷静になった。


 鉄を持ちながら、自分は森の中にいるのだ。信じられないことが起きていると感じた。

 太刀を鞘から引き抜いて、怪しげな銀の光を眺める。それの柄をぐっと握りしめると、そのまま一歩、森へ踏み入れた。

 深く呼吸をする。数度瞬きを繰り返し、冷や汗が背筋を舐めていくのを感じながら、変わらず暗雲で覆われる天を仰いだ。


──ああ。


 何も起らない。変化はない。弱く拒まれるような感覚──弱く身体を押さえられる感覚があるだけだ。

 更に、十歩ほど進んだ。それでも何もない。拒まれる感覚が強くなることも無い。

 何故だ。まほろばの猛者たちと森に立ち向かった時と何が違うのか。


 はた、と顔をあげた。太刀を持つ反対の手に握られているものに、己の視線が注がれた。


「お前か……」


 これだ。己の手にある鈴があるからだ。

 再度前に掲げ、鈴を鳴らした。じん、と柔らかな何かが手を伝わり、全身に広がるのが分かる。夜露に濡れた金色を視界の端に見た。

 これが、私を森の祟りから守っているのだ。これがあるだけで、森は薄い膜の抵抗以外、私に何も出来なくなる。雷を落とすことも、風を当てることも、雨に晒すことも。そして毒である鉄を拒むことも、何も出来なくなるのだ。


「……入れる」


 ぽつりと呟いた音はやけに大きく胸の内に響いた。

 この鈴は、森へ導く。沙耶、私はお前のもとへ行ける。


 同時に絶望のような気持ちに襲われた。先程感じた春など私にはないのだと。冬の道のりの上に死ねと。その道しか残されていないのだのだと、紛うことない真実を突きつけられている気がした。


「森へ、入れる」


 確信めいた言葉を落とし、私は暗闇に覆われた森の奥を見据えた。目を閉じれば幼い頃に抱いていた森の畏怖や美しさ、そして限りないと思われた自由が瞼の裏に甦っては過ぎて消えていった。

 もう戻らない記憶を噛み締める。

 自分は、あれほどに森を愛していたのだ。いや、今でさえも、私は──。


 しかし己の手には鉄があった。森を滅ぼすとされる鉄を持ち、私は森の中にいた。そして森のカミが最早古く、我々人が必要としていないという事実が剥き出しにされる。そのことを否応なく、思い知らされる。

 私はこの鈴と鉄で、愛した森を滅ぼしに行くのだ。


 諦めのような感情に蝕まれ、天を仰ぐ。

 涙がひとつ、自分の顎先へ零れて落ちていった。


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