-DDDD- Disappeared Diary Definiton of Death

大太犬尤

生誕の災厄

第1話 Ash

啜血鬼。

その存在原理はとても危うい。口にするモノ悉く灰に為り、ならばと水を求めるも、喉を撫でるのはザラついた塩の感触。そんな有様で、渇きを癒すのは人の血のみ。と、生き血を啜る。では何故人の血かしらん?と思うでしょう。ソレは鬼奴等きゃつらの生い立ちにあるのです。


僕は生命言語学バイオロジクスの勉強をしている。

その時、啜血鬼の話を聞いた 。

確かにこの分野に於いて連中は敵だ。なにせ生命言語の記述を全部、啜っちまうのだから。

啜血鬼は人間の血を啜り、その人の遺伝子に刻まれた生命言語の物語を吸収する事で、自分の存在概念をこの世の座標に無理矢理記述している。

そもそもこの世界は血塗れの戦争によって綴られた呪われた物語だが、奴らは更に歪にその物語を書き換える、血に塗れた歴史修正主義者というわけだ。

だが、実際市井に生きる僕にゃそう関係なんてない。

関係あるとすれば、幼少期以来久々に僕を呼びつけた、向かいに座ってる旧友だ。



昔と変わらない、生きてるのか死んでるのかわからない、血の気も表情もロクに無い野郎だ。

だが、同じ病院の数少ない生き残りだし、再会は祝いたい。

今回はとびっきりのオシャレをしてきた。オレのお気に入り、アルビノの兎みたいだった愛しのドロレス。

君がオレにその牙を突き立てた時、君の驚愕、恐怖、全てが流れこんできた。

脊髄をなぞり、筋肉が震え、神経が輝く絶頂。

この快感に勝るものをオレは知らない。

君の存在を食い尽くしたあと、抜け殻になった君のその体が愛おしく思った。

誰にも知られず、忘れ去られ、寄る辺なき血の海で揺蕩う君よ。

オレは君の揺籠フォウマルハウト

その肌を隈なく鞣して、君を呪う銀の細工で飾って貰った。

君を愛し、呪い、僕は君とずっと一緒にいるよ。

そう、産めよ殖やせよ血に満ちよ。

自己に浸る、超自我、オレが21世紀の人狼病患者ライカンだ。



ゴドーを待ちながら。

来るはずのない不在の来客が今回は遂に現れた。

神の不在証明、僕の存在を証明。

現れたのは、黒髪の天使。

彼女は言った。

『君たちには生命偽史の編纂を手伝って貰います。』


血濡れの曼荼羅。

私らも元を辿ればキモい虫だった頃や、鼠だった頃とか、猿だった時に宇宙人に改造されてヒトになった時とか、いたいけな少女だった時がある。

まぁ過程は別に後から編纂できんだけど、要するに血は繋がっているって事。

この暗黒の宇宙で時間を貫いて繋がる赤い糸、卑小な虫のような人間の絡まり紡がれる無数の蜘蛛の意図。

私らは多様な在り方をしている、終わらない存在、ぞんざいな原罪、故に推定無罪。

私らは相互に破壊しあいながら強固に繋がっていく、次元を貫くカオスな血の曼荼羅を描いてる。

その曼荼羅を汚すのが啜血鬼。

奴らに好き勝手に編集され続ける物語は虚構の存在概念を生み出し、運命を加速させ、世界燃焼エピキュローシスに突き進んでいる。


こんな狂った、吸血鬼とか人狼とかがいる、世界でさ。

私は 私らが紡ぐべきモノって?

そんなの、ボーイミーツガールしか無いじゃんよって私は自分の血の生命言語の記述を初める。


啜血鬼、ソレは世界の生命記述の改変過程で産まれたカオス。それ故に存在の正当性を求めて現生種の血で自己の矛盾した物語を成立させようとする。

僕らは血で血を洗う、かつて有り得たかも知れない僕らとの血塗れの物語のページを開く。

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