第18話疑惑

「どうも!女子高校生探偵の由香です!」


探偵と聞いて、緊張が走る。トイレのドアを開けると顔色の悪い智香が顔を出した。本当に気分が悪そうだ――。


「すみません!トイレにずっと――」

「ああ、構わないさ」


僕は智香ともかの小さな肩へと手を伸ばして、ゆっくりと別室へ誘導する。本当に可愛くて、柔らかくて……


「えー。突然、尋ねて来て申し訳ありません。今日は捜査に協力して頂きたくて来ました。えっと、亡くなった男性について何かご存じですかね?」


「捜査……」


智香はソファーに座ると、不安と困惑が入れ交った、そんな表情で僕を見上げた。僕たちに捜査権限はあるわけではない。


「知りません」


智香は言う。


「えー、それで昨夜についていくつか尋ねてもよろしいでしょうかね?こんな時に申し訳ありません…」


すると智香はハンカチで口を覆った。本当に気分が悪いようだが、由香ちゃんは構わず、話を続けた。


「どうぞ」

「ありがとうございます。それで、昨夜についてなのですが飲み会とかと、このバカから伺っております」


由香が僕へと視線を向ける。


「……小学校の同窓会だったんです」

「同窓会、同窓会ですか!!どうして、この部屋で知らない男が死んでいたのか知ってますか?」


「知りません」


智香は首を振った。


「被害者の死亡推定時刻なんですがね、午後10時から翌朝の1時までだと鑑識が言っておりまして。失礼ですが智香さんはその時間帯、どこに居たのか詳しく聞かせて頂けないでしょうかね?」


「あたしを疑っていると」


すると僕は強く抗議した。


「由香先輩、智香ちゃんのアリバイなら僕が証明しますよ!!その時間帯なら僕と一緒に居ました。本当です」


「――は?

君には聞いてないのだけどな。失礼…本当ですか?」


智香が頷く。


「午前1時まで一緒にいたのですかね?」

「午後11時まで一緒にいました」


由香へと詰め寄るように、僕は口にした。テーブルの上へと置かれたお菓子へと手を伸ばす智香。そして同意を求めるように


「食べていいですか?」

「どうぞ」

「やったー」


智香は無邪気に拳を作り、お菓子へと手を伸ばした。そこで由香が自分の額へと手を触れながら唸る。


「判らないことが1つあります」

「何でしょうか?」

「どうやって被害者は、この部屋に入ったのでしょうか?犯行当時、この部屋には鍵で施錠されていました。防犯カメラを見たのですが、午前0時にこのマンションに入る被害者が映っておりました」


由香先輩は淡々と告げる。


「……どうやって入ったのか尋ねられても困ると言うか」


智香は僕を見詰める。


「そうです、智香ちゃんが知るわけないじゃないですか!」


僕は反論した。


「なるほど。まだ、気になる点はあります。えー、被害者の遺留品には鍵がなかった点です」


すると智香は「鍵?」とポツリと呟く。僕は横目で由香先輩を見た。この人は何を言っているのだろうか――


「すみません、話が見えないのですが」


「えー、普通、部屋に入る時は鍵で開けますよね?鍵がないと言うことは誰かに開けてもらわないといけない……」


由香先輩は、同意を求めるように、僕へと視線を流す。僕は頷いた。鍵がないと部屋には入れない。当たり前だ。


「でも、当時…この部屋は留守でした。では、被害者はどうやってこの部屋に入れたと思いますかね?」


「……すでにこの部屋には誰か居た、となりますね。あたし以外の誰かが入っていて、その人物が被害者を招き入れた、と考えるのが自然な流れなのではないでしょうか――」


智香が言うと、由香先輩は「そうなんです!」と興奮した様子で声を張り上げた。すると警官は歓声を上げる。


「ありがとうございます。えー、これはあくまで仮説です。気分を悪くしたら申し訳ありません。被害者はですね、午前0時に智香さんのお宅を訪問しようと玄関から入ったのです。防犯カメラに映っているのですから、間違いありません!そして智香さんのお宅を訪問し、何者かに殺されたのです」


「想像力が豊かですね、由香さんって」


智香は言う。


「それはお褒めの言葉として受け取っておきましょう。私の話は以上です。智香さん、戸締りは厳重にした方がいいですよ」


それには僕も同意だ。

1人暮らしの女の子の部屋に別の誰かが居たなんて、想像しただけで震えを覚えてしまう。その時、呼び鈴が響いた。


「――智香。

大丈夫だったの?何かされてないよね?」

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