第16話捜査開始

現場へと携帯電話が鳴り響いた。電子音ではなくメロディが流れた。誰もが息を呑んで、そちらへと注目した。


「携帯が鳴ってますね」


警官の1人が言った。鑑識が持っていた携帯だ。すると慌てて由香が叫ぶ。その携帯へと手を伸ばそうとした時、携帯が鳴り止んだ。


「それを貸してくれ」


由香が携帯電話を取り上げた。携帯電話の端末画面を操作する。不着信と示したアイコンが表示されていた。


「これ、誰の携帯?」


すると警官は首を振る。自分の携帯ではない携帯電話が、少し間を置いて鳴り出した。電子音ではなく、メロディを奏でる。


です」


鑑識の1人が、そう口にした。由香はぶつぶつ――と何かを言っている様子で現場を歩き回っている。


「今の曲、何か分かる?」

「分かりませんね」


すると、別室に居た少年が引き返ってきた。少年は嬉しそうに言う。何と言うか不謹慎な男である。


「僕、知ってます。

アイドルグループ「AKB49」の「好きなんだ」と言う曲ですね。新曲で今秋葉原を起点に話題になっています!」


僕は嬉しそうに、そう答えた。

僕、握手会行ったことがあるんですよ!ちなみに高橋さんのファンです!とか言っている。由香は冷たい声で言った。


「少年!現場が殺人現場だと言う事を忘れるな」

「判ってますよ!!由香ちゃん……」


由香先輩には言われたくない一言である。早朝が早いためか由香は文句を言った。あろうことか僕に向かって言う。


「それにしてもお腹が空いたな」

「少年、パン買ってきてよ」


「ええっ!!僕ですか?持田くんでいいんじゃないでしょうか。僕は、別室で智香ちゃんと一緒に居たいですし……」


「黙れ!!変態。

智香は今、私服警官が付き添っているから安心したまえ。君より、私服警官に付き添ってもらっている方がマシだ」


由香は指を立てる。

そこまで言わなくてもいいのに。


「いいから買ってきてよ。

お腹が空いたよ」


僕は渋々、頷くとテープを潜って、マンションから近いコンビニへと向かった。それから数分後、僕は現場へと戻ってきた。


「遅かったじゃないの!エロ本でも漁っていたのかしら!!早くおにぎりを渡しなさい。お腹がペコペコだよ」


僕が弁当が入ったコンビニ袋を差し出すと、由香は僕からおにぎりを奪い取って素早く包装紙を開封して、中のおにぎりを口へと運んだ。


本当に失礼な人である。

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