第15話智香ちゃんは僕の嫁

現場は、百合ケ丘駅から徒歩七分圏外にあるマンションの一室だ。現場へと到着すると、殺人現場だと思われる部屋には青いビニールシートが掛けられていた。第一発見者はこの部屋に住む女子学生だ。


サイレンが早朝に響く。テープで仕切られた向こうから1人の女子学生が自転車に乗って、こちらへと現れた。続けて良太と名乗る同年代の男子学生も到着する。女子学生は、鈴の音色を立てると、ブレーキを握り路肩へと停車させた自転車をチェーンでくくりつけた。


「由香さん、お疲れ様です!」

「……現場はどこ?」


パトカーの間から警官が現れた。由香は警官に軽く手を振ると、ゆっくりとテープを潜った。勿論、僕も由香に続く。


「ああ、持田くん、今…何時だと思っているの?」

「えっと…4時1分ですかね」


持田と名乗る制服警官は、由香の無遠慮な質問に、そう答えた。僕は携帯電話を取り出し、端末画面を操作する。時刻は午前4時を回った辺りだ。


「そうでしょう!まだ暗いじゃないの!眠くて仕方ないよ…」

「大変、申し訳ございません!以後、気を付けます」


――持田もちだは、はっきりと言った。僕は持田に謝りながら現場を進む。どうして来たのかって!そんなの決まっているさ!


悪態を突く由香は、そのまま現場へと入った。僕も由香の背中を追うように続く。すると由香は大きく欠伸をした。


「それで事件と事故、どっちなの?」

「現場の状況からだと事件ですかね」


由香の言葉に、持田と名乗る警官は警察手帳を片手に言った。そんなふたりとは対照的に、僕は激しく興奮をしている。


「被害者の身元は?」

「まだ特定出来ていません!!」


「……は?なんで……」

「身分を証明するモノは一切、現場から発見されませんでした。被害者の衣服からも、身分に繋がるモノはありません」


「……なかったの?」

「はい、今…鑑識が調べている最中です」

「続けて」


由香の言葉に、持田は言葉を続ける。そのまま現場へと入っていく。部屋に入ると、血のような匂いが漂ってくる。


「被害者は、首をロープで絞められたあと、刃物で数回背中を刺されたみたいですね。致命傷は背中の刺し傷だと思われます」


持田は淡々と説明した。すると由香は鼻を鳴らした。現場から考えて殺人事件が濃厚だろう。怨恨だろうか――


「ダーリン」


リビングへと入ると、智香ともかが僕へと勢いよく抱き着いた。そのまま僕の胸の中へと飛び込み、泣きじゃくっている。


「大丈夫かい?ハニー」


僕は、彼女について説明した。昨日、小学校の同窓会が合って、智香と帰ってきたのだ。確か、深夜0時過ぎだったと思う。


「智香ちゃんです!僕の彼女です」

「会いたかったよ、ハニー」


抱き着く僕と智香。

第三者から見れば恋人同士に見えるだろうか。僕は照れ臭そうに笑って由香を眺める。すると由香は僕を睨み上げてきた。


「少年、君はなにをしているんだ?」

「……何って!智香ちゃんを落ち着かせようとしているのです。ここは智香ちゃんの部屋で、知らない男がベッドで死んでいたら、誰だって驚きますよ!」


僕は言った。昨晩、帰ってきたら知らない男が血まみれで死んでいて、慌てて通報をしたらしい。一応、筋は通っている。


「この男は何者なんだ?」

「ごめんなさい。分からないです」


由香が言うと、智香は申し訳なさそうに告げた。僕は、智香に寄り添うように別室へと誘導する。智香の髪からシャンプーの香りが漂ってくる。


すると由香は部屋を見回した。智香が帰ってくると部屋の寝室で、知らない男がベッドの上で死んでいたらしい。


その時、携帯電話が鳴り響いた。

電子音ではなくメロディが流れた。

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