第4話俺達の世界はこんな感じ

「それでは昨日の復習から始めるよー」


灯が俺達のクラスに来て、もうすぐ一週間がたとうとしていた。

灯はすっかり、クラスの雰囲気にもなれ、最近ではクラスメイトと楽しそうに談笑する姿もよく目にする。

愛在とは依然として険悪のようだが、他にこれといった問題もなさそうで、何よりだ。


そして今は、午後授業の一時限目。

昼食後ということもあり、俺は睡魔と戦いながら授業を聞いていた。

隣のショートボブは既に撃沈したようだが………


「昨日は異能力者区分について話しましたね。異能力者の初の事例が出てから約二十年。今では世界人口の約一割が異能力者です。」

俺達の担任教師兼、異能力知学基礎担当の稲葉えり先生が授業をしている。


異能力知学とは、その名の通り異能力に関する知識をつけるための学問で、その能力を身につけるためのカリキュラムは、異能力武学として別に設けられている。


「その結果、人類は大きく四つに区分されました。では、源君。何でもいいから一つ、わかるかな?」


案外と言ってはなんだが、勝は結構成績がいい。

体育会系風の出で立ちから、勝には勉学より運動という印象を持ってしまう。

実際、運動も得意なのだが…

まぁ文武両道を体現したようなやつだ。


武力種ミリタリーズがあります。これに区分される者は、現時点でもしくは将来的に、軍事的力になり得る者とされています」

勝は息継ぎなしに完璧な答えを出した。


「正解。うちのクラスで言えば、麻茨さんや、それこそ源君とかが当てはまるんじゃないかな?」


勝は自分の周りに有る空気を圧縮して弾丸を作り出し、それを射出することができる。

銃の所持は不要。タマも自分で作ればいい。

隠密性に優れた、軍事的力を充分に持った能力だ。


次に、愛在は触れたものに初速を与えることが出来る。

俺がこの前、愛在にぶっ飛ばされたのも、この能力のおかげだ。

ただ、この能力は初速を与えるだけで、触れたものを自在操るとかではない。


仮に愛在が小石に触れ、真上に飛ぶよう初速を与えれば、与えられた速度で小石は真上に飛んでいくだろう。

ただし、加速するわけではないので、空気抵抗や重力加速度の影響を受け、いずれは速度が0になり、落下してしまう。


これだけではしょうもないと感じるかもしてないが、触れたものが小石ではなく、爆弾とかならどうだろ。戦場においては充分すぎる脅威になるはずだ。


ざっくり言えば、正確にどんな力ででも、物を投げられるって感じだ。

野球のピッチャーとかになったら最強かもな…

あっちなみに現代スポーツの公式試合で、異能力を使うことは禁止されている。


「じゃ次は道奥さん。何か答えられる?」

稲葉先生は、勝の隣に座っているミチルを次に当てた。


「人類のほとんどが、能力を待たない一般種ジェネラルと言われます」

「そう、正確。うちのクラスでは確か、室岬さんだけね」


俺たちの通う「弥咲学園高等学校」は、世界で唯一の全種族共通課程高等学校で、様々な能力を持った生徒が在籍している。

しかし、元々が異能力につて学ぶことを軸にしているので、一般種ジェネラルの生徒は数少ない。

ここでは一般種ジェネラルであることがある意味、異能なのかもしれない。


「じゃ次は、流れで室岬さん。残り二つだけど、一つ答えられる?」


最小種ミニマームががあります!能力者の多くがここに分類され、微弱な効力や他人に害を与えることのない能力を持っている人がほとんどです」

室岬は今日も元気だな。室岬と仲良くなったのは最近だが、実は小学校から交流はある。仲良くなったキッカケは色々あるけど、それはまたの機会に…


「針真くーん。授業中に女子を見つめてどうしたのかなぁ?」

稲葉先生の声に現実に引き戻され、つい固まってしまった。

どうやら、俺は室岬のことを考えながら、いつの間にか本人に目が行ってしまっていたらしい。


室岬と一瞬目があったが、室岬は教科書で顔を隠してしまって、僅かに覗かせる目は泳ぎきている。

よほど恥ずかしのか、教科書を持つ手の先までが真っ赤だ。

そんなに恥ずかしがったら、こっちまで恥ずかしくなるだろ………


「授業を聞いていなかった罰として、最後の一つ答えて…って言いたいところだけど、隣にさらなるおバカさんがいるね〜」

ゆっくりとこっちの方に近づいてきた稲葉先生は丸めた教科書を構えている。


稲葉先生も能力者で、幻想を相手に見せることが出来る。

今も先生が巨大な鎌を持っているようにしか見えない…

不敵な笑みを浮かべた悪魔は鎌を振り下ろした。

もちろんというか、その斬撃は俺ではなく、隣のショートボブに直撃した。


スパッーーーーン


「はっはい!好きな食べ物はキャラメルであります!」


何を寝ぼけているんだこいつわ…

急に立ち上がった愛在はビシッと敬礼をきめ、ようやく自分がやらかしたことに気づいたらし。

稲葉先生の目を見つめたまま、動かなくなってしまった。


「そう。キャラメルが好きなのね。じゃぁこれはどうかしら?」

愛在の弱点はもう、この一ヶ月間ですっかり知れ渡っている。

俺達に見えているのは、普段通りの先生だが、愛在の目にどう写っているのかは、容易に想像出来る。確実に幽霊だろう。しかもとびきり怖いやつ。

愛在の顔がどんどん引き攣り、青ざめていく…


「すみません。すみません。もう寝なからやめて〜」

幼少期のトラウマで愛在は、幽霊やお化けといった心霊系が大の苦手だ。

俺もお化けの一人や二人連れて歩けたら、こいつの生意気を封じることができるんだが…


「まぁいいわ。麻茨さんと針真君は放課後に特別な補習をしてあげるからね」

「「………………はい」」

俺達に拒否権などあるわけがなかった…


程なくして授業も終わり、教室にはいくつか談笑するグループが出来ていた。

俺も今、勝とミチル、それと室岬に灯を紹介しているところだ。


灯が転校してきて一週間が経つのに今更だが、これは仕方が無い。

実は俺と灯はいとこで、幼い頃から一緒に過ごしてきた灯は、必然的に俺の黒歴史や弱みを多く握っている。

よって、俺はこいつの口止めに奔走していたのだ。


「みんなの知っての通り、こいつは針真灯、俺のいとこだ」

改めて、俺と灯の関係も含めて三人に紹介した。

「葵のいとこの灯だよ〜三年間、よろしく〜」


「で、こいつが源勝。こっちが道奥ミチル。そして最後が室岬萌々菜だ」

一人一人の紹介を終えると、各々で三人は紹介の補足を始めた。

「よろしくな、針真。俺のことを源勝げんしょうって呼ぶやつもいるが、呼び方は好きにしてくれ」

「よろしくね♪灯…でいいかな?私のこともミチルって呼んでよ」

「三年間よろしくね、灯ちゃん。葵にはいつもお世話になってます」

三人の補足が終わると、さっそくミチルが室岬をいじり始めた。


「えぇ〜私は針真君にお世話になってるつもりないけど…針真君、萌々菜に甘いからな〜」

「はっ!?何言ってんだよミチル!そっそんなことないだろ!」

「そっそうだよ!私もそんな意味で言ったんじゃないって」

俺は思わぬ口撃に動揺を隠せず、室岬もかなり困ったような表情をしている。


すると灯が室岬の頭上をじっと見つめだした。まさか能力使ってるわけじゃあるまいな…

と言うか、それ以外にないな…


「萌々菜〜彼氏いるの〜?」

唐突すぎる問に俺達の間で沈黙が生まれた…


「えっ?きゅっ急に何で?」

ようやく思考が戻った室岬が問を問で返した。

「えぇ〜だって〜頭文字イニシャル持ってないみたいだし〜」


本当にこいつの能力って、相手の弱み握ることに関していえば、最強だな…

ていうか、それより!室岬って彼氏がいたのか!?


「やっやだな〜灯ちゃん。彼氏なんていないって」

再びちょっと困ったような顔で、室岬が灯の問に答える。


「えぇ〜じゃぁ好きな人とか居ないの?」

まじかこいつ!?本当にズケズケ行くな…………

普段はここら灯を止めるのだが、こればかりはどうしても気になるので、俺は無言を貫いた。

困ったように室岬は、俺やほかの二人に目配せで助け舟を求めているが、勝もミチルも気になるのか、応じるつもりは無いようだ。


「わっ私の好きな人…………」

流石に観念したのか、室岬は小さく口を開いた。


「私、好きな人は……………いっ」


キーン コーン カーン コーン

タイミング良くか悪くか、午後授業の二限目開始を知らせるチャイムがなり響いた。


「ほっほら、みんなチャイムなったよ。席に着こっ」

このチャンスを逃すまいとばかりに室岬がみんなに催促をした。

直後、授業を担当する教師がドアを開けたので、なくなくみんな席につき、今日もう、この話題が話されることはなかった。


ちなみに、愛在はと言うと授業が終わると同時に、教室を出ていって、俺の会話には入ろうとしなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

故意に恋させコイしがる!? 十坂 翔 @mietaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ