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 信号待ちをしている時に顔に水滴が当たった。

「雨」

 彼女は心の中で呟いた。これからせっかく広辞苑を買いに行くのに、しかも重いものなのにこんな天気になるなんて最悪と思った。信号が赤なのが嫌で嫌でたまらなかった。

 その時、ポケットにしまっていたスマホがバイブした。取り出してもよかったのかもしれないが、目の前の信号のことで頭がいっぱいで後回しにした。

 ちなみにスマホにメッセージが来ていた。

『元気? 久しぶり、これから会えない? 仕事終わったからこれから飯でもどうかなと思って。どう? 俺、今日臨時収入あったから奢るよ」

 有希子がこのメッセージに気づくのは二十分後だった。それと、最後の「奢る」という漢字が読めないでいた。スマホで調べようとしても部首がわからないし、手書きのアプリケーションがあるわけでもないので、調べようがなかった。ただ、「臨時収入」という言葉の流れから見て何かいいことがあったのだろうと思って、『返事、遅くなってごめん、時間空いてるよ。どこにいる?』と返信してみた。

 店に入ってエスカレーターを登っていると外が見えて、傘をさしている人が段々と増えているのが見えた。彼女は傘を持っていなくてこれからどうしようと考えた。そのまま辞書の置いてある八階に到着した。

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