第5話自身の変化
この住宅街をしばらく歩き、所々に屋台や店が見え始めた。
自分の目的は衣服、食料、水、そして一番に宿屋だ。
正直、宿屋を見つけられれば後はどうでもいい。
もし見つけて泊まることが出来れば、そこで料理などは出してくれると踏んでいるからだ。
◇◇◇◇
宿屋を探しているうちに日が暮れ始め、町中を歩いている人も少なくってきている。
そろそろ見つからないと本格的に不味い。
腹も限界で、喉はカラカラだ。
それに体力も限界がきている。
しかたない…宿屋は諦めて素直に店で食事を取り、路上で一晩すごそう…
だが食事を取る前に衣服を買おう。
チラ見されることには少し慣れたとはいえ、嫌になってくる。
俺はフード付きの服があればいいなと思いながら周りを見渡し店を探した。
その結果少し離れた所に衣服屋を発見することができた。
速くこの自分への人目をなくしたい!
そんな気持ちが先走り、俺は小走りでそこへ向かった。
◇◇◇◇
チャリンッと音を鳴らし扉を開ける。
鈴でも付いていたのだろう。
そしてその音に気づき、店員と思われる人が駆けつけてきた。
店員は女性で店の制服を身に着けている。
「いらっしゃいませ。どのような衣服をご所望で?」
「えっと…体を隠せて…フードが付いている服を…」
異世界に来てから喋っていなかったので今気づいたが、自分の声も変わっていたらしい…
中性的な声で、あまり性別を判断できない声だった。
「それならローブ辺りがオススメですね。こちらへどうぞ」
女性の店員について来るよう促される。
俺はその指示にならい、店内を見回しながらついて行った。
どうやらこの店は服だけではなく鎧なども売っているようだった。
そんなことを考えていると目的地に着いた。
「ここがローブ系のコーナーです。ご自由に」
そう言って店員は足早に何処かへ行ってしまった。
他の客の元に行ったのだろう。
だかそんなことはさておき、どのローブを買うか決めよう。
といっても値段で決めるのだが、この際に銅、銀、金の硬貨の価値を知っておきたい。
なので俺は早速ローブの値段を確認した。
…一番安いのが銅貨5枚で…高いのが…銀貨1枚程だろうか…?
これだけでは判断材料にならない…
本当は人に聞くのが良いのだろうが、そんなことをしたら勇者だというのがバレてしまう可能性がある。
まぁお金の価値については後で調べておこう。
とりあえず今回は銅貨7枚のローブを買うとする。
買うためにはこれを店員まで運べばいいのだろうか?
多分…あっているはず。
ちょうど近くにカウンターがあり、そこに店員が待機していたのでローブをあの場所へ持っていこう。
◇◇◇◇
その店員は先程の女性とは違くて30代のおばさんだった。
買う予定のローブを渡したのだが…
「本当にこれを買うの?あなた若くて奇麗な顔をしているんだからオシャレした方がいいと思うわよ?」
そんなことを言ってきたのだ。
自分はそこまで見た目が整っているわけではないのだが…
「えっと…お世辞ありがとうございます…」
第一印象は大切だ。
礼儀正しくとりあえず言葉を返し、一緒に銅貨も渡してしまう。
相手の女性は納得していない顔をしているが、この違和感は何だろうか…?
だけど考えていても仕方ない。
俺はこの場で着替えたいことを伝える。
「着替えられる場所って…ありますか?」
「それならカウンターの横に個室があるのでそこを使うといいわ」
「そうさせてもらいますね…」
人と話すのが苦手で声が毎回弱々しくなるが、気にしないでいこう…
えっとカウンターの横だったっけ…
カーテンで仕切られているスペースがあったのでそこに入らせてもらう。
ここが日本ならば壁に姿見でも付いているのだろうが、異世界ではそんなこともなく何もない個室だった。
そこで俺は被っていた布と手に巻いていた布を外しローブを着る。
ちなみにローブはポケットが2つあり何も模様のない黒地のデザインだ。
だが着たのはいいが自分の姿を見られないのが辛い…
自分はどのような姿をしているのだろう。
そのような考えが率先してしまう。
考えを巡らせていると俺はいい案を思い付いた。
この店にある鎧の金属光沢で姿を確認できないだろうか?
俺はフードを被り急いで鎧の場所まで移動した。
◇◇◇◇
鎧の目の前までやってきた。
初めて自分の姿を見るのだ。
少し緊張するが…
その状態で鎧の正面まで行き…目を開く
すると
「っ…!?」
とても驚愕した…
何故なら…とても容姿が整っていたからだ…
髪は肩に届くほどで、顔は『美』という要素が強くて女の子に見えるだろう。
中性的な声にも納得した。
だが、女の子に見えるのは納得できない…
そこで気づく。道中人がよく見てきたのはこの見た目があったからなのだろう。
見た目がよくなるのは嫌じゃないのだが何で…
俺は微妙な心境で衣服屋を後にした。
◇◇◇◇
お腹が空いていることなどとっくに忘れてしまっていた。
微妙な気持ちで道をあるいていたのだが…
「あった…」
普通に宿屋があった。
何故見つけられなかったのだろう。
だが、見つけられたならそんなことはいい。
早く休みたい…
自分は痛む足を動かし、宿屋の扉に手をかけた。
魔物の蔓延る一億年後の地球で逃亡生活を送る @aroraito
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