第3話危機的状況

風で葉が揺れる音がする…

そして頬を草がくすぐる感触。

それを感じながら目が覚めた。

目を開けて見えたのは先程のような真っ黒な空間ではなく、草が生い茂っている草原だった。

もちろん草の長さは揃っているはずもなく、長い物もあれば短い物もあり視界が通りにくい…


神様の言っていたことを思い返してみる。

言っていたことが正しいのならば、ここは異世界で他の4人は何処かにいるのだろう。

だがそこで思った。とてもまずい状況なのだと。

早く人のいる場所に行かなければいかない…

餓死か脱水で死んでしまう。

歩みを進もうと思ったがそこで感じる。

背が縮んでいる?髪が長くなっている?

向こうにいた時は170cm程だったのが、10cm程縮んでいる気がする。それに髪型も違う気が…?

多分、ここに来たときに体が作り変えられたのだろう。

でもそんなことはどうでもいい。

早く村や町を探さなければ…!


◇◇◇◇


「ない…」


この絶望的な状況に思わず呟いてしまう。

3時間程歩いたのだが…どこを見回しても草原、草原、草原。

大草原が広がっているだけだった。

そこである物が見えてくる。

草が生えてなく人によって手が加えられている場所。

つまり道があった。この世界の人々はここを通っているのだろう。

少し希望が見えてくる…のだが…。

それ以上に気がつく。

村や町を見つけてもそこに立ち入らせてくれるのか…?

ここは異世界だ。

自分が思っているような場所ならば、死への意識が軽いはず。

それにこの世界のお金を持っていない…。

もし入れても、野垂れ死ぬだけだろう。

そこまで思考が回った所で、自分に希望が全くないことに気づいてしまった。


◇◇◇◇


結果、思考を放棄することにした。

いくら考えても絶望しかでない。

その時に考えよう。


「……」


今の自分には絶望のオーラが漂っていることだろう。

歩き始めて6時間、そろそろ足がキツイ。

休憩を挟むか…

そう思い、いい場所を探している時に見えた。

あれは…壁…?何か高い壁が…

そしてその前には豆粒サイズの何かが動いている。

そこで気づいた。あれは町だ!

絶望のオーラなど消え去り、お金がないなどの問題など頭からとんでしまっていた。

それほど嬉しかったのだ。

だがまだ町までは数kgあるだろう。

もう少しの辛抱だ…!


◇◇◇◇


町の目の前までやってきていた。

あの壁の正面には入り口があり、そこには兵士がいる。

入国審査のような物をしているらしい。

どのような審査をしているのか遠目に観察してみたのだが…

やはりお金が必要らしい…

それと顔と手の甲の確認をしていた。

顔はわかるのだが手の甲は何故するのだろうか?

なんとなく自分の手の甲を見てみると…そこには複雑な形をした紋章が書いてあった。

他の人々にはない。

嫌な予感が段々としてくる。

これは勇者の紋章のような物ではないのだろうか…?

それに自分が黒髪なのに対し周りの人々は違う色。

つまり…勇者だと確定できる要素が二つもある。


そして国は勇者を探しているのだろう。

その理由は大方予想できる。

勇者は魔王を倒す存在だ。

その勇者がいないということは、世界が滅びることに繋がる。

こう考えてみると…わざと捕まったほうがいいのではないだろうか?

いや、だめだ。

わざと捕まってもこき使われるに決まっている。

せめて捕まるならばお金が揃って暮らしがしっかりとしてからだ。

だが今はその町に入る手段も見つかっていないのだが…


「ん?」


門の前に荷台が開いた状態の馬車がある。

あそこに入れれば…?

そう気づいた自分の行動は速かった。

人に気づかれないよう動き、馬車までたどり着く。

馬車の横には2人護衛がいた。

持ち主が戻るのを待っているのだろう。

護衛に気づかれないよう慎重に動き…

荷台に乗ろうとしてる時に思った。

こんなことをして本当にいいのだろうか…?

入った瞬間自分は犯罪者である。

そう思い躊躇していると護衛が動き始める。

マズい…!このままじゃ見つかる!

ああっ!この際だから仕方ない!

俺はヤケクソになり荷台に乗り込んだ。


◇◇◇◇


荷台に入ってみると中には木箱や袋が置かれていた。

とりあえず護衛が来ているので急いで奥の木箱の後ろに隠れると…

ガシャン!と大きな音がした。

こっそり顔を出してみると…荷台の扉を閉められていた。

だが、幸いなことにこの馬車の作りは粗末で扉は完全に閉まっておらず、隙間から外が少し見える。

とりあえず暗闇にはならずに済みよかった…

まぁ、まだどうやって脱出するかは考えていないのだが…。

この荷台に何か使える物はないだろうか?

少しの光なので見にくいが、あれは…


元々結びが緩かったのか、紐が解けている袋があった。

中身は散らばっていないが、何が入っているのだろう?

恐る恐る覗いてみると…

そこには恐らく銅、銀、金であろう硬貨があった。

お金…?取ってもいいのだろうか?

いや、ここに乗り込んだ時点で自分は犯罪者だ。

それに気にしている余裕もない!

俺は硬貨を数枚手に取った。

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