第9話 ラブレター

私は、本当に片桐君の事が好きなのか?

顔がイケメンだから?


いつも私に色々お話してくれるから?


もしかして、そんな邪な理由?


「片桐君の事が好き」と、友達に言えば「あー、やっぱり?カッコイイよねぇー。」と、同意も貰えるし。


「えー、趣味わるーい。あんな糞メガネデブの何処が良いわけ?さては、ゲテモノ好き?」


みたいな感じで、色眼鏡で見られる事もない。


同じ校内の女子が片桐君の追っかけファンクラブ「カタギリッ子」を結成してる。


親友のマリコも、カタギリッ子の会員だ。


マリコに勧誘されて、私もカタギリッ子に入ることになった。


最初のうちは、正直全く興味が無かったが。


「今日の片桐君のヘアスタイルについて」「片桐君と噂がある女たちをピックアップする」などなど。


片桐君について、集会で語り合ったり。


片桐君のサッカー部の大会があれば、手作りの内輪を作って「キャーキャー」言いながら皆と一緒に応援しにいく。


余りに私たちが騒がしいと、審判は私たちにイエローカードを出すこともある。


「あと、4枚出したらなぁ!お前ら、ほんと退場!次の試合は来れないんだぞぉぉ!」


と、怒鳴られる。


途端に、カタギリッ子のメンバーは大人しく応援を始めるのだ。


片桐君ファンクラブ「カタギリッ子。」


そこのメンバーに入れて貰えば、校内で虐められる事も仲間外れにされることもない。


やがて、その活動を続けるようになり。

私も、本当に片桐君の事が好きになってしまったような気がする。


思い立ったら、即行動の私。


いつも読書感想文では必ず入賞してきた私は、文才なら誰にも負けない自信があった。


私の顔は、冴えないし。ガリ勉だし。

男性経験も、コミュニケーション力も無い。


そんな私が、片桐君に愛を表現する最高のツール・・。


そうだ!

ラブレターを書こう!


そう思い立った私は、何度も彼にラブレターを書いたのだ。


「拝啓 片桐和彦様


最近、ますます暑くなって参りましたね。

片桐君は、いかがお過ごしでしょか?


私は、暑さに耐えかねて最近扇風機を一台から二台に変えました。


母が、「受験に合格したら、アンタの部屋にもクーラー買ってあげるから。」と言ってくれた言葉を信じて、今宵も勉学に励もうと思います!


さて、前置き長くなりましたが。

片桐君は、どんな方が好みなのですか?


私は、暖かくて。思いやりがあって。顔もハンサムで。頭も良くて。・・と、幼き頃からずっとその様な殿方がいいと。


そう思って生きてきました。


しかし、このご時世そのような殿方はいる筈もありません。親友のマリコに相談したら、「愛は妥協よ」という答えが出ました。


しかし、だからと言って。決して、片桐君の事を妥協で好きになった訳ではなく・・(以下省略)」


「拝啓 片桐和彦様


片桐君。ごきげんよう。

とうとう夏も真っ盛りですね。


世間は、プールだの。海だの。ドラえもん祭りだの。五月蝿くなってきましたよね?


私は、ブレずに今宵も勉学に励む事になりそうです。

片桐君の夏は、どんな夏ですか?


きっと、片桐君はハンサムだし。可愛い女性も引く手数多だと思うのです。


こんな私なんかが、相手にされるとは到底思えません。


だけど、片桐君。


「おめぇ、天パ直して。ゲジゲジ眉毛も整えて。メガネ外したらもしかして美人になるのかもな。」って言ってくれたんですよね。


こんな私にも、もしかしたら綺麗になれるかもしれないという無限の可能性。


優しき貴方は、私に一筋の可能性を見出そうとしてくれたのでしょうか?


嗚呼!なんて素敵な人!

私の心は、胸踊りました!


心の中で、小さな咲子達がタンゴを踊りはじめました!オレオレオレオレオーレ!って!


なんかもう、私の心の中!

オレオレ言い過ぎちゃって、もはや詐欺師?


この気持ちは本当?嘘?どっち?


でも、もしこの心が本当なら私は貴方に恋を・・(以下省略)」


ラブレターを書く事が最高に楽しかった。

きっとこの気持ちは、片桐君の事が本当にすきだからなんだと信じてた。


でも、もしかしたら。


私、ラブレターを書くことが好きなのであって。


片桐君の事が、本当に好きという訳ではないのではないか?


彼にラブレターを書くことによって、「私は片桐君が好きだ」という思いを表現することそのモノに自己満足していただけなのではないのかって。


カタギリッ子に加入したのも、もしかしたら皆に好かれたいから。嫌われたくないから。


片桐君を好きになることで、皆から虐められる事もなくなる。


「勉強ばかりしてて、あいつ嫌な感じだよねー」と言って、嫌われる事もない。


皆と同じ「イケメンが好きな普通の女の子」という事をアピールすることによって、自己防衛していただけでは無かったのだろうか・・。


だんだん、私。

片桐君と、二人で行動を共にすればするほど、疑問に思う事が沢山増えてきたのだ。


本当に、私は彼が好きなのか。そして、デートしたいのかが、わからなくなってきたのだ・・・。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る