episode10 A New Beginning
28 A New Beginning (1)
ワイアットとエイラがデュオとなった翌日のこと。二人は早速朝から支部長室に招集された。もちろん、今度は任務のためである。任務を言われるとあって、支部長に集まった二人の顔つきは真剣そのもの。
クレアは黒い軍帽を被り、黒い軍服を着て出迎えた。その手には何故か見慣れない刀が一本握られている。まるで、クレアも聖戦士として戦いに行くような、そんな気がした。
支部長は普段、基本的には任務には出ない。だがそれには理由がある。地上都市には波動を応用した仕組みがいくつもある。支部長の役目は、地上都市を正常に動かすために自らの波動を地上都市の動力源とすること。それ故にエアと戦うことはそうそうない。
支部長自らが戦いに出向く時。それは、地上都市そのものがエアに襲われそうであることを意味する。地上都市の周りにエアの大群がいたり、都市のすぐ近くからエアが離れなかったり。そのような理由が無ければ、支部長自らが波動機を構えることはしないのである。
「えーっと、何事?」
「……レガリアのすぐ近く、東門を出たところからエアが動かない。さらに言うと、西門と南門もエアに塞がれてる。そんなわけで、一緒にエアを討伐して欲しい」
クレアの顔は笑っていない。三つの出口がエアに塞がれている。となれば使えるのは北門だけ。聖戦士の出発、帰還にも影響がある。早急にどうにかすべき状態だ。
「そしてもう一つ残念なことがある。今、この都市内には訓練生とその指導員しかいない。あとはワイアットとエイラの二人だけ。他の聖戦士は、エアのせいで任務から帰れないそうだ。そんなわけで、僕と一緒にエアを討伐して欲しい。といっても、僕は今、属性を付与する波動があまり使えないんだけど。あと少ししないとエネルギーが回復しないんだよね」
クレアは朝、持てるエネルギーの全てを地上都市の動力源に回してしまっていた。エネルギー量が多い聖戦士とはいえ、エネルギーには限界がある。クレアは今、ほとんどエネルギーがない状態だ。
波動機は聖戦士の持つエネルギーを増幅し別のエネルギーに変換することでその力を発揮する。エネルギーがほぼ枯渇しているクレアは一見足手まといでしかないだろう。だがそれでもクレアが外へ行こうとするのには理由があった。
ワイアットが心配そうにクレアを見る。ワイアットの知る知識では、聖戦士はエネルギー無くして波動機を扱えない。だから、エネルギーがほぼ無いクレアがどう戦うのかが気になる。
「そんな怖い顔をしないでおくれよ。ただの波動、白い光くらいなら発動出来るから。ただの波動なら、僕ならエネルギーの損失なく発動出来る。さて、時間が無い。行くよ!」
人の持つエネルギーは体力や基礎代謝に近い。普通に生きる上で、聖戦士であろうとなかろうと誰もが一定量のエネルギーを放出し、その一定量を自然回復で補うことで損失がゼロになる。
クレアは普通の人が無意識に放出しているのと同量のエネルギーを使って波動を発動するつもりなのだ。自然回復するのと同量のエネルギーを放出すれば、エネルギー残量を維持したまま戦うことが出来る。
エネルギーが少ないため波動靴の真価を発揮することは出来ない。だが、波動靴を普通に動かすことは出来る。エネルギーの無駄使いを出来ないだけだ。もっとも、その状態で戦うのにはかなり高度な技術を必要とするのだが。
「というか、クレアって聖戦士なの?」
「あれ、言ってなかったっけ。僕は聖戦士だよ。地上都市のトップに立てるのは波動を使える聖戦士だけ。朝供給したエネルギーがあるから、一度くらいならエレベーターを使える。エレベーターで一気に降りて北門から戦いに行くよ」
支部長としてクレアが朝供給したエネルギーは波動機と同様の仕組みで増幅され、様々なエネルギーへと変換。エレベーターから調理に使う火に至るまでなど、地上都市で使われるエネルギーの全てを一定時間賄う。
ワイアットはまだ地上都市の仕組みを理解していない。だからクレアの言っている言葉の意味をきちんと理解することは出来ない。とりあえず、エレベーターは一度きり、行きにしか使えないということはわかる。
ワイアット、エイラ、クレアの三人は戦闘に必要なものが揃ってることを確認すると、すぐさま移動を始めた。地上都市に一台しかないエレベーターを使い、北門までの最短距離を移動する。
北門と呼ばれる扉を素早く通り、外の世界へ出る。北門から出た先に見えた景色は、西門や東門のような黄土色の土で出来た平地とは少し違った。
門を出てすぐ眼の前に広がるのは西門、東門と同じ平地。だが平地はすぐに途切れ、段差になっている。段差を見下ろせばそこには砂利の集まった河原と水の流れる川が見える。河原の近くには草木が自生しているのも見えた。
レガリアは川の近くの平地に作られた地上都市。大地を平らに
「こっちだよ。ついてきて」
クレアが先頭に立ち、ワイアットとエイラを誘導。三人が初めに目指したのは東門だった。
地上都市は巨大な立方体の構造物である。市民が中で暮らしていることもあり必要最低限の面積を確保している。そのため、北門から東門、西門への移動には時間がかかる。聖戦士が波動靴を使用して全力で走っても三十分はかかる。これは南門からも同じである。
三人が地上都市レガリアの外壁に沿って十分も移動すれば、東門にいるというエアの姿を確認することが出来た。それと同時にそのエアの大きさに驚愕する。
そのエアはレガリアの高さと同等の全長を誇る。太くて短い四肢にはそれぞれ、黒くて長い鉤爪が付いていて。視覚と聴覚はあまり発達していないのか、しきりに黒い鼻をヒクヒクさせて臭いを嗅いでいる。その正体は……巨大な熊だ。
「あれが、あと二箇所にいるんだよね」
クレアから淡々と告げられたその言葉は、ワイアットとエイラの心を絶望に突き落とすのに十分過ぎた。
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