009




JAPAN SIDE




「…。」


草間は何とも険しい顔をし、自分のデスクの上で頬杖をついていた。

何度も時計とスマートフォンの画面を見つめ、貧乏揺すりが止まらない。

かれこれ一時間程この状態が続いている。

そんな草間の様子を見ていた今里は、鼻で溜息をもらした。


「けんちゃーん。いい加減そのダイナミックな貧乏揺すりやめてくんないと、そろそろ床抜けちゃうんだけどー?」

「……。」


聞こえているのか否か、草間の貧乏揺すりは更に大きくなった。


「…心配いらないよ。今頃、乾君が向かってくれてるって。そろそろ着いたんじゃないかな。」

「……別に心配し 「いやしてるでしょ。」

「……。」


図星を突かれたと言わんばかりに、草間は嫌な顔をした。


「…あいつは…俺達の事なんて微塵も考えてないんすよ。無闇に突っ走って、挙句自滅するのがオチだ…頭の冴えた事言ったと思ったら、馬鹿みたいな行動を起こす…正直付き合いきれねぇ…。」

「……だからほっとけない…でしょ?」

「…。」


今里の挑発じみた言葉に草間は目付きを鋭くさせると、そのまま立ち上がり、外へ向かった。


「あれ?どこ行くの?」

「…一服っすよっ。」


そう言うと、草間は勢いよく扉を開け、盛大に音を立てて閉めた。


「…あんまあいつの事、怒らせないで下さいよ副社長。まじでこの事務所ぶっ壊れますよ。」


呆れた顔をしながら、小野崎は口をついた。


「あははー、そうだね。」

「…。」


「…。」


「……。」


「……。」


「………。」


「…………好きなのかな、鴨居君の事。」

「ぶっ!?」




沈黙を切って放たれた今里の言動に、思わず小野崎は口に含んでいた珈琲を盛大に噴き出した。











「乾…さん…。」


鴨居はサングラス男をそう呼んだ。

乾 幸甫…彼もまた、本城の下で働く情報屋である。

ミスフォンファは目を細め、右手を挙げて部下に銃を下ろさせた。


「…驚いた。こんな所まで仲間を助けに来たのかい…乾坊や。」

「ご冗談を…叱りに来た、の間違いですよ。ほんま勝手な奴で困りますわ。」


乾はそう言うと、掛けていたサングラスを外し、そのまま羽織っていた革ジャンの裏ポケットに仕舞い込んだ。


「…ただ、こんな礼儀知らずの阿呆んだらですけど、一応ウチの大事な社員なんですわ…返していただけませんかねぇ…? 出来れば無傷で。」

「…虫の良い話だな。じゃあ代わりにお前が責任を取るかい?2年前の件も含めて。」

「確かにあれはウチ等のミスです…せやけど、そちらさんだって罪が無いわけやないでしょう。お互い様っちゅう所もあった……”せやからウチの社長は、謝罪せぇへん”のやと思いますよ。」

「…。」


威圧感が半端でないミスフォンファに劣らず、乾も一歩も引かんとばかりに言葉を返す。

そんな光景に鴨居は思わず、口をぽかりと開けていた。


「……ふっ…はは、ははははははっ!いい度胸だ!これだから日本人は面白い!」

「「「!?」」」


緊迫した雰囲気だった事務所内に、ミスフォンファの高笑いが響いた。

突然の笑い声に、鴨居を含め、部下や乾も思わず驚いた。


「…ミス、フォンファ…。」

「…鴨居坊や、お前の先輩は優秀だな。見習うと良い。」

「えっ…。」


先程までとは違い、ミスフォンファは穏やかな表情でそう言った。

まるで別人のようだ。


「…情報売買はお互いこれっきりだ。二度とうちには関わるな。」

「! で、でも今回の支払いは 「今回は…お前の度胸と、物足りない謝罪で十分だ、鴨居坊や。さっさとその男と一緒に出て行きなさい。」

「…。」


そう言うと、ミスフォンファはソファーから立ち上がり、腰に手を当てながら顎で扉の方を指した。

乾はニコリと笑うと、固まっていた鴨居の着ているワイシャツの襟を鷲掴みし、一礼した。


「そうさせて頂きます。この度は、ウチの餓鬼が大変お世話になりました。」

「ふんっ…お前のところの変人社長に宜しく伝えといてくれ…次は無いと、な。」

「了解です…行くで。」

「っ…は、はい…。」




鴨居な何とも歯切れ悪く返事をし、そして乾に連れられ、二人はジジ=フォンファの事務所を後にした。

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